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手帳ミステリ SOSEIの手帳(仮)1

<あらすじ>

深海蒼生(あお)は革の手帳や文房具が好きなビジネスマン。お気に入りの革のシステム手帳がなぜか2冊目の前に。間違えて持ってきてしまったらしい。その夜手帳の持ち主と思われる田中一郎さんが交通事故で亡くなったという。手帳には、「この世のすべてを置いてきた。探せ」というメッセージ。この手帳の謎をとけば、あったこともない田中さんの無念を晴らせるかもしれない。そう思って蒼生は自分のものと同じ双生の手帳の謎に挑戦していく。

謎は手帳の中にある。手帳ミステリー開幕。

Day1: 深海蒼生(ふかみあお)

なんで、こうなった?

目の前に同じ手帳が2冊。手帳にペンホルダーの万年筆だけでなく、リフィルタイプのペンホルダーの色や刺さっているボールペンまで同じ。さらに、革の手帳なので、半年くらい使い込み、自分らしい味が出てきたと喜んでいたのだが、その経年変化の加減も見比べてもほとんど同じ。手帳の厚みもほとんど差がわからない程度。そんな手帳が目の前に2冊。

会議室を1人、陣取っている俺、深見蒼生(ふかみあお)は、なぜか目の前にある同じ2冊の手帳を眺めながら朝のことを振り返ってみる。

今日は大事な新規事業についてのプレゼンを経営陣に行うため、いつもより早く家を出て、いつものスタバで糖分のたっぷりドーナツとコーヒーで気合を入れながら、手帳を開いて今日の大事なプレゼン内容のポイントメモを見返した。

うまくいったら、早く仕事を切り上げ、文房具店をめぐって、おいしいものを食べて帰ってくるぞと、今日の夕方の自分のやりたい予定を手帳に書き込み、やる気をアップさせた。

思ったより長居してしまったことに気が付き、荷物をカバンにしまった後に、トイレに行って戻ろうと思った時に自分の席に、自分の手帳が置いてあった。。。ような気がしたんだよな。

急いでいたので、確認をせずそのまま手帳をカバンに押し込み会社に出社。
会社で手帳を開こうと思ったら、同じ手帳が2冊入っていることに気が付いた。

しかし、 「蒼生、リハやるぞと」同期に声をかけられ、一旦手帳のことは忘れることに。プレゼンは何とか合格点くらいで次のステップに進めることが決まったのだが、、

今、一人会議室で、2冊の手帳と向き合っている。本当によく似ている

会議室に籠る前に、スタバには電話してみたが、
「確かに、手帳がなくなったというお客様がいたのですが、何も言わずに走って出て行かれまして」と何も情報はなかった。

「そちらにもっていくので預かっていただくことはできないでしょうか」と聞いたのだが、いつ渡せるかわからないのと、手帳は個人情報が入っていることがあるので、預かることはできないといわれてしまった。

せめてもと、どんな人だったのか聞いてみたのだが、その時担当していた人はシフトが変わっていたこともあり、若い男性くらいの情報しかもらえなかった。

一人きり、シーンと静まり返った会議室。

ごくりと唾をのみこみ、
「失礼します」とだれに言うわけでもなく、自分のものとそっくりな手帳のバンドを外し、手帳の中身を開いて持ち主の情報を探すことにした。

ミニ6サイズと呼ばれている文庫サイズくらいの手帳は開いた内側の両サイドに大きめのポケットが付いている。そこには何枚か名刺が入っていた。

名刺を見てみると、聞いたことがない企業の人の名刺が4枚ほど、そして残りは同じ名前の名刺が5枚入っている。
『田中一郎』

うん。世の中にたくさんいそうな名前だ。会社名ニパン カトウダと名前を合わせてググってみたが、特にヒットせず。会社の情報を見てみるとスマホゲームなどを外注で制作するなどをしている会社のようだ。社員数などもそこまで多くない。

が、なんと。名刺に書いてある住所はなんと、、、北海道・・・。

この会社名もアイヌ語ぽい感じなのかな。よくわからないけど。でも北海道の人って、出張だったのか。。東京にわざわざ来て、手帳をなくすなんて。。。本当に申し訳ない。

名刺に書いてある電話番号に電話をかけてみたのだが、つながらず。一応メールも送ってみた。明日くらいには、反応があればと思うのだが、、

念のために会社にも連絡するか考えたが、これがとても重要な情報で漏えいしたとかであれば大問題になってしまうと思って、一日待つことにした。

今日はおいしいごはんや文房具屋めぐりは中止だ。今日はいつものスタバが閉まるまで、来るかわからないこの手帳の持ち主を待つことにしよう。
来てくれるといいんだが。。

定時で仕事を切り上げ、いつものスタバに向かう。
お代わりできる普通のコーヒーを頼み、今度は自分の手帳を開く。心なしか、こっちのほうが手になじんでいる気がする。

今日の一日の振り返りをする。うん、プレゼンのことはほとんど覚えていない。もう一つの手帳のことを考えていると
「あれ、これ窃盗罪になるのかしら。」 と思うと、ちょっとドキドキしてしまった。いや、きっと話せばわかってくれるはず。わかってくれるのか。

味もよくわからない状態でコーヒー2杯で3時間ほど時間をつぶしたが、その日手帳を探していそうな人はやってこず、とぼとぼと家路についた。

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コンビニで買ってきたご飯をたべ、シャワーを浴びて、明日どうするか考えていたところ、テレビから驚きのニュースが。

「本日、夕方、千歳近くの高速道路で車が横転する事故があり、運転していた40代会社員の田中一郎さんは、病院に搬送されたのち死亡が確認されたということです。・・・」

そのあとのニュースはよく覚えていない。。
北海道、田中一郎。。 名刺と同じだ。。 そんなことってある?

もしかして、手帳をなくしたから?

「まじで?」
思わずつぶやく。

偶然だよなーと思うが、冷や汗がたらりとおでこの横を流れる。

一旦、落ち着こう。

ファクト(真実)として、多分、田中一郎さんの手帳を間違えてもってきてしまい、多分、北海道の田中さんが自動車事故でなくなった。多分ばかりで何がファクトなのかわからないが、混乱している自分はよくわかっていない。

その2人が同一人物である確率は、、、
50パーセントくらい?

いやいや、落ち着け自分。

我ながら大雑把 and 主観丸出しの確率だ。ベイジアンも真っ青だ。もちろん100%同一人物であることは、現時点ではない。だからと言って、違う人物である可能性も十分あるということなのだが。

落ち着こう。何回自分に言いかけているかわからない。気づけば風呂上り、タオル一枚で、ずっと立ちっぱなしになっていた。

落ち着きたいなら、手帳タイムだ。まずは、状況を書き出す。

あれ、気になったことがある。同一人物の確率を考えていたが、目の前にこんなそっくりな双子のような同じ革の手帳が存在する確率って、そんなにあるのか。

同じ手帳を持っている人に会うことはあるが、外付けのペンホルダーの色や、使っている2本のボールペンと万年筆の組み合わせまで一緒、使っているマンスリーリフィルまで同じなんで、俺の手帳を知っている人じゃなきゃ無理じゃないのか?この手帳の田中一郎と事故死した田中一郎が同一人物の確率とどっちが高いのだろうか。

ここである疑惑が頭に浮かんだ。

実は、俺が間違って持ってきたのではなくて、誰かにはめられた可能性だ。俺に罪を着せようとしている?都合のいい解釈という気もするが、こんなにそっくりな手帳をたまたま作るって無理だと思う。

システム手帳愛用者の中にはInstagramでみんな自分の手帳を紹介している。自分も多分にもれず、どこか特別なところに行ったときやこの使い方はおもしろいと思ったものをアップしたりしている。

今自分が使っている手帳は、紙をはさむ文庫より一回り大きい小さめの手帳なのだが、紙をたくさんはさむことができるリング系が大きいものである。代わりに髪をはさむ6本のリングの骨組みが他の手帳よりも太く、リフィルとよばれる6穴のサイズが小さいとページをめくったりすることが難しい。そのため、ページのあたりをつける部分などは自作して使いやすさを追及したりしている。そういう情報なんかもInstagramにアップしているので、フォロワーも300人くらい入るはずだった。いいねもだいたい毎投稿30~40くらいはついている。

もしかしてその中に、おれをストーキングする人がいたりして、、、

最近の手帳の構成がわかりそうな写真をいくつかチェックしてみる。
いいねしてくれた人の中に田中一郎さんをおもわせるアカウントはなかった。念のためフォロワーもざざっと確認してみるがそんな人もいない。ストーキングする人が実名でするわけがない。Instagramの手帳アカウントは、ほとんど実名ではなく、ハンドルネームのほうが多いし。

とはいえ、Instagramだけじゃ、どこに住んでいるかまではピンポイントで当てられるはずもない。では、やっぱりこの手帳の一致は偶然なのだろうか。

よし。ここは、失礼かもしれないが、、手帳の中身まで見せてもらおう。
と心に決め、手帳をめくり始めた。

最初の数ページをめくると、某海賊漫画の冒頭のシーン
「この世のすべてを置いてきた。探せ」のワンカットが張ってある。

なんだ、これは中二病手帳か?
そのあとをパラパラめくると、暗号資産やNFT、ブロックチェーンなどの技術の話が続いている。

細かいことはよくわからないのだが、なんか現代のお宝の話だったりして。最初の困惑と混乱とは別に、興味がわいてきた。

本当にお宝の情報が書いてある? でも、何のため?
大事な資産とかであれば、それを使って好きなことすればいいだろう。なにを考えているんだ。おれにお宝を見つけてほしいと思っているのか?
何のために。

なんでばっかりが頭に浮かぶ。謎ばっかりだ。しかも、だいぶ胡散臭い。

リフターというページのしきりになるプラスチックのページをめくった後は、比較的普通のページ構成だった。マンスリーのページがあり、そのあと
に日記のような日々の生活がつづられているようだ。
そして、またリフターを超えると、日本語でも英語でもないアルファベットに見慣れない文字が入ったものが挟まっていた。そして最後にいろいろな漫画の切り抜きページが詰まっている。

うん。きっと、ちょっと痛い奴の手帳だと思う。といっても、自分もマンガの名シーンの切り抜きを何枚か手帳に乗せているからあまり差はない。結局本気なのかどうなのかよくわからなかった。

遅くなってきたし、今日は寝ることにしよう。明日の朝になったら、何か連絡が返ってくるかもしれないし、良い案が浮かぶかもしれない。そう思って、手帳を2冊並べたまま、部屋の電気を消した。。


ほんの一瞬、手帳に刺さっている万年筆がぎーぎーといっていたのだが、そんなことは知る由もなく、ベットに入ってあっという間に意識がなくなっていた。

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