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インドに巻きおこった「シンカイ!」旋風

なんと!この度、10月からインド全域の20都市以上で新海誠監督の「天気の子」がリリースされることになり、それに先立って9月27日、ジャパニーズフィルムフェスティバルのオープニングセレモニーで先行上映が行われ、新海誠監督が会場に登場した。

佐久の新海、インドへ

新海誠監督の故郷は、私達ファミリーが昨年まで住んでいた長野県の佐久地地域である。正確にはご出身は南佐久郡小海町というところで、高校は佐久市内の高校に通っていた。地元、小海町では「君の名は」が大ヒットしたときから街をあげて新海監督の成功を祝福し、佐久市内の出身高校は一躍脚光を浴び、佐久地域全体が新海監督を誇りに思っていた。

そんな新海監督と、遠くインドはニューデリーでお会いできる機会と知り、上記のオープニングセレモニーに参加してきた。

意外というべきなのか当然というべきなのかわからないけれど、セレモニー参加者の殆どはインド人だった。日本人だと明らかに分かるのは私達夫婦の他に、数組程度。参加者の多くは「INDIA NEEDS ANIME」とかなんとか書かれたアツいTシャツを着た熱気ムンムンのアニメファンインド人たち。

オペレーションがまるでなってないのはインドらしいということにして、とにかくすごい数のインド人が長蛇の列をなして会場になだれ込んでいった。

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「シンカイ!シンカイ!シンカイ!シンカイ!」の観客の掛け声で新海誠監督が登場すると、アイドルさながらに歓声が飛び交い、客席から皆身を乗り出して握手を求める。私と夫はその熱気にしょっぱなから圧倒されつつも、私達の愛する佐久地域が排出した稀有な人材を、インドの人たちがこんなにも熱狂的に愛してくれていることに、なんだか胸が熱くなった。

新海監督がそのソフトボイスで口を開くたびに歓声があがり、拍手が沸き起こり、ついには「ウィーラブシンカイ!ウィーラブシンカイ!」のシンカイコールが巻き起こる騒ぎに…インドのアニメファンがこんなに熱心だとは知らなかった。日本のアニメファンが多いのは、フランスだけじゃなかったんだ。(「のダメ」情報…)

インド人の映画鑑賞

会場となったのはサケットのセレクトシティウォーク内のPVR。スクリーンは超巨大、客席は超満員で上映がスタートした。ネタバレになるといけないのであまり多くは語りたくないけれど、インド人の映画鑑賞のものすごい大げさなこと!笑う場面では超笑うし、盛り上がる場面では超盛り上がる。当然といえば当然だけれど、まるでライブ鑑賞でもしているかのような盛り上がり。

意外だったのは極めて日本的なジョークにもインドの皆さんとてもウケてらしたこと。そして不思議だったのはしんみんりするはずのシーンでもやっぱり何故かウケていたこと。なんでもコメディに受けとりたいインドの人の性格からなのだろうか、とにかくノリがよい。もちろん誰もアルコールは飲んでいない。手にはペプシかセブンアップ。(太るよ…)

そしてとにかく新海監督の作品についてよく知っていることに驚いた。本当に好きなんだなぁということが、映画の細部にいちいちものすっごい反応していることからもよくわかった。むしろ私があんまり反応できなかったことが恥ずかしくなるくらい、みんなめちゃよく見てるし知っている。侮るなかれ、インドの日本アニメファン!!

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映画の上映が終わると同時に新海監督がまた登場すると、歓声とともに会場全員がスタンディングオベーション。映画でスタンディングオベーションって初めて見たよ?普通の試写会とかも行ったことがないけど日本でもコレは普通なの?ちょっと鳥肌立っちゃったよ。

新海監督への質疑応答コーナーが始まると、我先にと手が挙がる挙がる。これもインド人ならではなのかしら…誰かが質問で喋ってる間も、自分に当ててほしくて手を真っ直ぐに上げ続けるインド人たち。挙げ句の果てには「はいはいはーい!」って勢いよく手をあげて、当ててもらったはいいけど「えっと、実は質問はないんだけど、とにかく感動しました」っていう、小学校低学年の参観日の男子みたいなことになってるインド人のお兄さんもいて、笑ってしまった。

けれど新海監督は、どんな言葉に対しても、あのソフトボイスで、「わ、ありがとう」といいながらとても紳士的かつフレンドリーに対応されていて素敵だった。しまいにはファン過ぎて自分で新海監督のイラストを描いて持ってきていたインド人男子の、近くに行ってサインもらいたいんですけど、というやや強引な申し出にも快く対応していた。すばらしい。神対応とはこのことか。そしてついに夫まで「本当はアニメとかあんまり興味なかったんだけど、オレ、新海監督のファンになっちゃったよ。」と言い出した。夫が誰かのファンを自称するのはめちゃくちゃ珍しいことだけれど、気持ちはよくわかる。きっとあの場にいた観客はみんな、新海監督のことがもっと好きになったと思う。

ちなみに夫は映画の根底にあるテーマが気候変動であることについて、聞いてみたかったのだそうだけれど、最後に質問した小柄なインド人の女の子がさらっと質問してくれて、満足したようだ。

話題のグレタ・トゥンベルさんのスピーチで、環境問題がにわかに脚光を浴びているけれど、この映画の中に登場する人物が、自然を敬い、畏れ、悠然と構えるフレーズにはっと我に返るような思いにさせられたのだとか。実は私も同じ場面・同じフレーズに、いいなと思っていた。新海監督が最後のインド人女子の質問に対してさらっと受け答えをしてそれぞれに考える余裕を残したのも、好感がもてた、と夫は言った。私達夫婦にとって、新海監督はとても心地よいバランス感覚の持ち主だ、ということで夫婦一致した。

私もいくつか聞いてみたいことがあったのだけれど、あまりに一生懸命にまっすぐ手を上げ続けるインド人のファンたちを前に、つい手を挙げるのを遠慮して帰ってきてしまった。(とっても日本人的な私…)

新海監督に届け!

日本人的に空気読んで会場での質問は諦めたので、note上で公開質問をしてみよう。新海監督に届くかなー?

新海誠監督へ
まずは、私の愛する佐久地域ご出身の新海監督が、遠く離れたインドの地でこうしてインドの人たちに囲まれていることがとても不思議でそして誇らしく思いました。それから同じ日本人として、インドの人たちがこんなにも日本の映画を愛してくれることが、嬉しい驚きでした。世界平和を作るのは、政治でも科学でもビジネスでもなくて、文化なのではないだろうか、と思わせる力強さを感じました。ところで、この作品をインドでインドの人たちと一緒に鑑賞した日本人として感じたのは、インドの人たちの映画鑑賞はとてもダイナミックで素直で、リアクションも大きく、日本人の鑑賞の仕方とはずいぶん違うのではないか、ということでした。日本で舞台挨拶をしたり、日本人が鑑賞する様子と比べて、インドでの反応をご覧になって、どうお感じになったのかお聞きしてみたかったです。新海監督の目に、インドの人たちはどんなふうに写ったのでしょうか。

うん、別に大した質問ではない。だけれど、インド人にはきっと感じられなかった感覚だろうと思うの…。そしてその、インド人の素直で大げさな鑑賞方法とリアクションを、新海監督はどう感じたのかにとっても興味がある。

北風と太陽の太陽をもっと

「天気の子」はとても美しくて、そしてある意味でとても日本的な映画だと思った。にもかかわらず、この、あらゆる垣根を軽々と乗り越えてしまうようなインドの人たちの熱烈な映画(とシンカイ)への愛は、スポーツやアートのそれと等しく、ものすごいパワーを持っていると感じざるを得なかった。政治的にどんなに対立していたり、どんなに文化的に理解できないことがあったとしても、そしてそれがどんな政治的・経済的な力でもってしても取り去ることができないものだったとしても、ほんのひとつの映画へ愛が、それを軽々となかったことにしてしまう力を持ち得ている。まるで北風と太陽の太陽のように。今回のセレモニーは、そう感じずにはいられない一時だった。

我が家の8歳の娘は、「おせんべおせんべやけたかな」という日本のゲームを通じて、インド人ともエクアドル人ともアメリカ人ともパキスタン人とも輪になって遊んでいた。

世界平和に必要なのは政治批判でも、金でもなくて、もっとポジティブな何か、そう、例えば「おせんべおせんべやけたかな」とか、音楽とか、スポーツとか、シンカイ監督の映画とかなのかもしれない。

あたたかな太陽のような、かつとてもパワフルな方法を教えてくれた新海監督と、ファンのインド人のみなさん、どうもありがとう。

ジャパニーズ・フィルム・フェスティバル

ジャパニーズフィルムフェスティバルは9/27〜10/6、アンビエンスモールグルグラム(Ambience mall Gurugram)とセレクトシティウォーク(Select city walk)の2箇所で開催中。

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