気づいたら様式

いま、何十人もの人がきれいに横になって、寝たりテレビを見ているところにいます。そこで4列目の端から2番目にいます。


さっきまで2階にある温泉にゆっくり浸かっていて、珍しく一人サウナに入ってみました。

入ったら、プラ椅子が並んでいて、中央に水甕と塩甕がどんと置いてありました。中には女子大生二人組みと、おばさんが一人、わたしが入ると、続けておばさんが一人、甕を囲んで座っています。


そんな洒落たサウナは初めてで、使い方も書いていないので、ひとまずイスに水をかけ座ります。汗がじわっと出て来るのを、ぼーっと眺めています。


3m四方くらいの部屋には、女子大生の恋バナが響き渡っていて。ドライブデートの話だと思ったら、相手には彼女がいるとかなんとか、、とキャッチーな内容が勝手に耳に入ってきます。聞いてる一人は、相槌を打ちながらも、ずっと塩を手に取り体に塗り、座り、水で流す、を繰り返しています。


わたしは、見よう見まねでその様に塩を塗って、流して、をしてみます。

はじめにいたおばさんはいなくなり、お姉さんが入ってきました。二人組みも相槌をする女の子のタイミングで流れる様に出てゆき、それと入れ替わりで、おばさんが入ってきます。


お姉さんと後から来たおばさんが手慣れた様子で、ハイペースで塩を塗ります。



しゅかしゅかしゅかしゅかしゅかしゅかしゅかしゅかしゅかしゅかしゅかしゅかしゅか


ここはそうあるべきみたいな音が鳴り響いてた。


謎の高揚感がこみ上げて来て、私もちょっと多めに擦ってみる。

あの時の高揚感、表現難しいけれど謎の一体感があって、ひと波終えると、一斉に退出していく流れまで、とてもスムーズで少し感動してしまい、彼女たちのリズムを壊さない様に、私も体を流し、椅子を流し、出て行く。


いま、リクライニングシートの上で思い出しても、あの3分ほどの塩塗りタイムは、美しい。


水甕用には桶が2つしかなく、それをスムーズに焦らせたり、手渡しする様子もなく、みんなが良いテンポでパスする様子が本当に美しかった。



そういう、わずかな時間で形成される、様式は美しいな、と感じる。



しかもきっとそれは、「素晴らしいものを作ろうと思って作られていない」ことが重要で。なんとなく、いつの間にか美しいと感じていたんだよ。


論理的に説明はできないけど、横断歩道の縞模様で遊んでいた子供の頃は美しいと思うし。今でもそういう瞬間に出会うとクスッと笑ってしまうやんね。いつの間にか、新しかったことは、懐かしいことになって、映画のワンシーンに定型文的に使われるの。


塩塗りタイムが定型文になることはきっとないけど、ここの立派な?様式になる、10年後ぐらいにきっとわかるはず。


今月末がんばろ〜ヨシ