見出し画像

涙腺 4 『何故 あなたは 生きて帰ってこなかったの?』

海洋調査船 マリーナの制御室
船隊長 タドコロは制御室内に立て篭り 入口ドアに背をもたれて座っていた。制御室の外では村木が必死に呼びかけていた。

「俺だって死にたくねぇよ。でも こうするしか選択肢がないんだよ」とタドコロは叫んでいた。
「タドコロ隊長 それなら出てきて下さい。一緒にオルドールに帰りましょう」と村木は制御室のドアを叩きながら タドコロを説得していた。 「来月 茜ちゃんが小学校入学だって言ってたじゃないですか。入学式の日 タドコロさんに当直させない為に みんなでスケジュール調節したじゃないですか。お願いですから 出てきてください。沈没まで 時間がないんですよ。一緒に帰りましょう。早瀬がなんとかして救命小型船を切り離しますから」と村木もまた泣きながら叫んでいた。

物語 マリーナのミッション
太陽系最大級の火山が発見された。我が国 オルドームと親交の深いブロブーゼル共和国からわずか数千キロしか離れていない海底にあるというではないか。もしこの火山が噴火したら?地球壊滅の危機に直面しているのであろうか? 友好関係にある我が国は海洋調査船 マリーナ(総トン数 8700トン 前兆120メートル 搭載人員(乗員 35名 研究者 30名 支援要請 15名)を派遣した。そしてマリーナは その解決策を導く為 航海に出発したのであった。その調査結果は『海水と水圧のお陰で(例え)噴火しても 新しいリゾート地がうまれるくらい』だと判明した。オルドール いや 地球に 再び安堵の日を迎えられる重要な情報であった。

海洋調査船 マリーナ 沈没3時間前
調査船マリーナはまさに地球を救ったヒーロー。我が国 オルドール政府からは船員全員がオルドール賞(国民栄誉賞みたいなもの)を授与される予定であった。しかし 帰路への航行中 調査船は氷山に衝突し 船体に穴が開き まさに沈没しようとしていた。                   調査船艦長 タドコロは救命用小型船で大半の乗組員や研究員を脱出させた。自分自身は残りの乗組員4名と最後の救命用小型船に乗り込み 沈没しようしている本船から脱出しようとしていた。  しかし 本船との連結部分になんらかの不具合が生じ 遠隔で操作できずにいた。助かる為には 誰かが1人 本船に残り 制御室内にある手動レバーで救命用小型船を本船から切り離さなければいけなかった。      

残された船員全員4名                                                                  通信士の村木は再三の『海氷が存在する』と言う警告を軽んじていた。整備技術者の早瀬は事故など起こるはずもないと鷹を括り救命用小型船の整備を怠っていた。航海士 関は当直中 眠気をもようし 氷山の発見を遅らせる原因を作った。同じく航海士で 唯一の独身 石渡は凱旋する自分の雄姿を想像して 関の状態確認を怠った。みんなが それぞれ沈没する原因を作っていた。

海洋調査船 マリーナの制御室
「俺だって死にたくねぇよ。生きたいよ。生かさせてくれよ。避妊治療してさ 40歳過ぎて やっとできた娘のお祝いに 俺も立ち会いたいよ。家族に会いたいよ。もう一度会いたいよ」とタドコロは泣きながら訴えた。タドコロはその場で泣き崩れていた。思いの丈を村木にぶつけてたお陰で 数分後 タドコロは冷静さを取り戻した。置かれている状況を再確認し「村木 お前も小型船に行ってくれ。俺の計算だと あと1時間でこの船は沈む」と淡々と村木を諭した。渋る村木をみて タドコロは護身用の拳銃を取り出し「村 もう時間がないんだよ。このままじゃ みんな マリーナと心中だ。お前が今行かないなら 俺はこれで自殺する。そうなったら もう一人犠牲を増やすんだぞ。村 お願いだ。みんなと小型船に行ってくれ」と頼み込んだ。村木はタドコロの迫力に圧倒された。そして なによりも 村木自身も 残り時間が僅かだとわかっていた。「せめてタドコロさん以外は助けないといけない」と悟り始めた。そして 深々と一礼して制御室を後にした。

救命小型船内                村木 早瀬 関 石渡 の4名は救命小型船に乗り込んでいた。4名はモニター越しで制御室にいるタドコロを見ていた。タドコロは制御室の中央で胡座をかきながら 右手には拳銃を持ち モニター(4人に向けて)に語り始めた。「俺さぁ 小さい頃に父ちゃん亡くしたんだ。母ちゃんと2人だけで生きてきた。自分の子供が産まれた時は俺以上に母ちゃんが喜んでくれたんだ。『お前には父ちゃんがいなかったけど お前は立派に父ちゃんになったな』って言ってくれた。まさか 茜にまで俺と同じ経験をさせちまうとは」と言ってボロボロと泣いた。「オルドールに帰ったら 嫁さんに『父ちゃんのいない生活で苦労かける。役目を果たせなくってごめん』って謝っておいてくれ」と伝言を頼んだ。タドコロは胸ポケットからエコーを取り出して まさに最後の一服とばかりに満面の笑みで煙草を吸った。そして 深妙な顔にもどり「お前達には 重い重い荷を背をわせる事になっちまうな」と話し続けた。その台詞を聞いて 救命小型船に乗っていた4名は不思議に思った。タドコロは「もし俺が誰かを犠牲にしてオルドールに帰ったら... 最初は地球を救った調査船の隊長として崇められるかもしれない。オルドール賞だもんなぁ。でも俺は 必ず 『仲間を見捨てた隊長』ってレッテルを貼られる。『誰かを犠牲にして あいつは生きて帰ってきた』って誹謗中傷される。俺だけならまだ耐えられる。俺には大事な家族がいる。もし 俺が生きて帰ったら... 茜が小学校でイジメを受けるかもしれない。嫁さんが近所でのけ者に扱いされるかもしれない。俺が生きて帰らなかった事で 嫁さんや茜には苦労をかけると思う。でも父親として 家族を守り抜くと言う点では 父親の役目を果たすと思う。どう考えても 嫁さんや茜がネットなどの誹謗中傷に耐えられるとはおもえないんだよ。俺が死ぬ事で家族へのバッシングが起きないんなら... お前らには申し訳ないと思っている。隊長を見殺しにした船員と罵られるかもしれない。でも俺の場合と違って お前らは4人いるだろ。みんなでこの十字架を4等分にわけて背負うってくれ」と言いながら 本船と救命小型船の解除操作を行った。小型船はゆっくり 本船から離れていた。タドコロは(モニターに向かって)深々と一礼し そして 左手で持った拳銃を鳴らした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?