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精霊流しの思い出

 2005年、祖父が亡くなった。人が亡くなるといえば、親に連れられて遠い親戚の通夜に行った事はあるものの、親しい人が亡くなるというのは初めてだった。葬儀の日には思い出が走馬灯のように溢れて人生で一番泣いた。

悲しみも薄れた一周忌の夏、一家で精霊流しという行事に参加した。初盆を迎える年に、木で作られた小さな船を用意する。日も落ちて暗くなった夜に、精霊船と呼ばれるそれを川辺に持っていって浮かべるというものだ。
最近知ったのだが、この精霊流しという風習は九州の一部地域にしか無いらしい。
精霊流しに使う船は市販されている物があるのだが、経費削減のためかホームセンターで材料を買ってきて作るという役を仰せつかる事となった。昔からDIYのような事をしてきたため、白羽の矢が立ったというわけだ。


(左上に足が映り込んでいるが、霊ではなくうちの父である)

ホームセンターで板を買ってきて貼り合わせ、隙間から水が侵入しないようコーキング材を充填、船らしい形が出来上がった。飾り付けは親族が行い、精霊船が完成した。

精霊流し当日の夜。近所の川へ行くとそれなりの人数が来ていて、何隻かの精霊船の光が揺らめいていた。今思えばこの光景を写真に収めておけば良かったと思うのだが、当時はそんな考えなど浮かばなかった。
ちなみに川そのものはわりと浅瀬で、しばらく船を浮かべたら回収して持って帰るようになっている。昔はそのまま流していたようだが、環境意識の高まりもあって自然を汚すわけにはいかない。

いざ、うちの精霊船を川に浮かべた時、不思議な事が起こった。浮かべた後に船を手でポンと押してスーッっと進ませるのだが、何度やっても船が180度向きを変えて戻ってくるのだ。右回転して戻ってきたり、その逆だったり、動きは一定ではないが、浮かべてから数分経つと必ず戻ってきてしまう。仮に船の作りが悪くて戻ってくるのであれば、回転方向が一定のはずである。
川の流れはゆっくりしたもので、他の精霊船はどれを見てもそのような動きをしていない。この光景を見て親族は「よっぽど未練があるんだろうねぇアハハ」と笑っていた。

祖父の葬儀以来、身内が亡くなるという事が全く無かったため、精霊流しを体験したのは後にも先にもこの時だけとなった。しかし、毎年お盆になるとこの不思議な体験を思い出すのであった。


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