たをやめの学舎

ご存知の方も多いかと思うが、私は群馬県で育った。埼玉や栃木との県境近くで、夏は暑く冬はからっ風の吹き荒ぶ町である。外国籍の人が多く、珍スポットを紹介するサイトに町ごと掲載されている。群馬県の人間は山を見て方角がわかるというが、私の町の人間はそのスキルを持つものは少なかった。冗談だと思っていたが、高校で出会った友人たちはそのスキルがあったため本当なのだと驚いたものである。今日はそんな高校時代のお話です。

群馬県には公立女子高が多い。この記事を書くにあたって調べたところ、公立女子高の数は日本一で、九校あるそうだ。私もそんな女子高の中の一つに通っていた。入学時偏差値が64、近隣の中学校で成績上位十人の女子が入ってくると言った感じのいわゆる地方の進学校である。都市部の進学校よりは大分緩いが、学年の大半が四年制大学に進学する。私の在学中に限れば、高卒で就職する人はゼロであり、専門学校や短大への進学者も一学年で片手で数える程度である。そんな女子高での生活を振り返ってみよう。

イメージとして、女子高は陰湿ないじめがあると思っている人もいるのではないだろうか。三年間通った感想としていじめはなかった。つまらないいじめの発端となりがちな男女のトラブルが起こらないのが大きいだろう。人と人との間である。そりゃあもちろん相性の悪い人間も、特に理由もないがいけ好かない人間もいる。しかしそこはお互い関わらないようにすればいいだけであり、いじめに発展するようなことはなかった。生徒同士のいじめはなかったが、気に入らない教師への当たりは中学の頃より明らかに強かった。高二の頃、地味なおばさん英語教師がいた。化粧っ気もなく、パーマをかけた肩までのボブカット。その人が夏休み明け、急なイメチェンを遂げた。明らかに化粧をしている。服も透け感のあるブラウスにスカート。極めつけは腰まで長さのあるエクステをつけていた。そんな変化があれば、年頃の女子高生はからかいたくなってしまうものだ。「彼氏でも出来たんですかー?」クラスでも目立つ女子からの問い掛け。教室中で起こるクスクス笑い。その教師はからかいの対象になった。授業の度に嘲笑が起きる。それは私のいたクラスだけではなく、他のクラスでも授業の度に起こっていた光景だった。その教師はそのうち休職した。今になって思えば、なんと配慮の足りない子どもだったのだろうと反省もするが、エクステはやりすぎだったのではないでしょうか。髪を染めて、化粧をしているくらいであればここまでの嘲笑は起きなかったと思う。校則で化粧も染髪も禁止されている女子高生達。教師は大人だから多少髪を染めていても何も言わないだけの分別は持ち合わせていた。そんな中、急にエクステをつけてきた教師が悪目立ちしてしまうのは少し仕方がないことに思える。だけど、すみませんでした。

修学旅行は京都奈良だった。公立中学出身者はみんな中学でも行っている。他の公立高校は沖縄にいくのが多かったし、隣の男子校ですら京都大阪だった。なぜまた京都奈良なのか……しかし沖縄などにいく高校と修学旅行の積立金は一緒である。その分、修学旅行の割に随分金銭的に余裕のあるプランだった。ホテルの夕食はコースのフレンチ。テーブルマナーを教えてもらった。クラス別での昼食で湯豆腐懐石を食べたり、班行動ではひと班に一台、貸切のタクシーがついた。嵐山のお寺で学年全員で座禅体験をしたのだが、その頃から性の知識がおかしなことになっていた私は「大勢の女子高生が制服で坐禅をするって企画もののAVみたいだな!?」と思っていた。修学旅行の頃までに女子高に慣れきっていた女子高生達は、観光中に夏の京都の暑さに耐えかねて旅のしおりでスカートの中を仰いでいた。煩悩だけでなく、恥じらいもどこかで落としてきたようである。

百合っぽい出来事について。毎年の勉強合宿。夏休み中に、長野の山奥にあるホテルに三日ほど缶詰にされて勉強漬けである。自由時間もほぼ無しで、講義と自習時間。自習時間は夏休みの課題を進められるのでありがたかった。合宿自体は取り立てて女子高らしいエピソードはないのだが、私は就寝時間に女の子を腕枕して眠った記憶がある。何故か私に懐いていた同級生が私と寝るといって聞かなかったからである。多分、勉強ばかりの一日を過ごしてみんな少し頭がおかしくなっていた。あまり漫画のような百合百合しい学生生活はないのだが、学校のイベントで合唱部がミュージカルを演じた時の反応は女の園といったものだった。ミュージカルはきちんと男役と女役がいる。学生レベルの宝塚。男役と女役がダンスで手を取り合ったりすると、全校生徒から黄色い声があがる。如何せん女子高、トキメキが足りない。キュンへのハードルがとんでもなく低い。合唱部の発表の後はみんな恋する乙女の顔だった。

これは女子高あるあるだと思うのだが、若くて太っていないだけで男性教師がとんでもなくモテる。若い男性教師は毎年卒業式の後に数人から告白される。教職に就いていないモテない男性諸君は夢みたいだと思うだろう。しかし当の男性教師は「女子高に赴任して二ヶ月も経てば女性への幻想は全て無くなる」といっていた。女しかいない環境だと女はどこまでも強かに、恥知らずになっていくものなのだ。ある程度の異性の目というの振る舞いを女性らしくするために必要なのではないだろうか。

ぱっと思い出せたエピソードはこのあたりである。個人的な思い出というより、学校の思い出を書いたつもりだ。女子高で青春時代を過ごしたことで、共学高校は男女がキャッキャウフフとトキメキ溢れる学校生活を送っていたと思っているし、公立女子高にいたことで私立女子高はマリア様はみてるの世界だと思っている。

お姉さま、お慕いしております……とかあるんでしょう?


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