夾竹桃で花束を

「花盗人は風流のうち」

そんな言葉を思い出しながら剪定バサミを手に、踊るように夜の街を歩く。川辺に夾竹桃を見つけて足を止める。枝を少し長めに切って足元へ。手の届く花をあらかた切り終えると、剪定バサミを川へと放る。自由になった両手で切った花を抱えて帰ろう。だって今日はトクベツだから。ずっとずっと悩んでいたけど、決めてしまえばこんなに心が軽い。誰もいない夜の街をクルクルと駆ける。

家に帰ると、大きめの花瓶に夾竹桃を生ける。邪魔な葉を落とすと口へ。固い歯触り、青臭い匂いが鼻に抜ける。これでいい。トクベツな今日だから。葉を口へ。葉を口へ。葉を口へ。葉を口へ……。少し萎れてしまった花も食べてしまおう。しゃりしゃりとした食感がやさしい。ああ、身体がだるい。夾竹桃を生け終えると、煙草に火をつける。なんだか気持ちが悪いけれど、吐いてしまっては意味が無い。ゆっくりと煙草を吸う。目を閉じる。

ゆっくりと、ゆっくりと落ちていく。身体はそのままに、私だけが虚無に落ちていく。楽しかったな。

ゆっくりと、ゆっくりと落ちていく。楽しいこと、沢山あった。でも嫌なことはもっと沢山あった。

ゆっくりと落ちていく。自分の身体が溶けてしまったような感覚。悲しいことも沢山あった。でもこれで全部おしまい。花で全てを終わらせよう。

ゆっくりと……脳みそが後ろに引っ張られる。やめて、やめて。

何処にも行けなくなった私。夾竹桃の夢を見る。

何処にも行けなくなった私。川辺の匂い、あめのにおい。

何処にも行けなくなった私。手折られた花のようにわたしもあとは朽ちるだけ。

何処にも行けなくなった私、どこにもいけなくなったわたし。

きょうちくとうのあるまちのやさしさに

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