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今を生きることを決めたのさ

映画「ドライブ・マイ・カー」を見て2週間が経ってしまった。少しずつ感想を書けたらと思っていたがなかなかまとまらないので、印象深かったところだけでも覚え書きしておこうと思う。

事前にあらすじは大方調べていたので、刺さりまくって帰りは瀕死かもと思って敬遠していたが、大きなスクリーンで西島秀俊さんを見たいというのも相まって最終上映1週間前にやっと見に行った次第。

今も目に焼き付いているのは広島の海の景色。あの穏やかさと車の疾走感で3時間飽きずに観られたのだと思う。

最初は観ていて傷に塩を塗るようなヒリヒリ感がずっとあった。漠然とした喪失感、なんとなく自立できない危うさ、あの時の自分の行動がこうだったら…みたいなモヤモヤした後悔が思い出された。そして転機はやはり2年後くらいに訪れるのだということも共感できた。

印象に残るシーンは車中での喫煙を解禁し、タバコを掲げる場面。

『正しく傷つくべきだった』ふたりは死者に線香に見立てたタバコを手向け、自分と向き合うドライブに出る。そしてたどり着いたみさきの実家でようやく自分たちの想いを吐露する。

家福「生き残った者は死んだ者のことを考え続ける。どんな形であれ。それがずっと続く。僕や君は、そうやって生きていかなくちゃいけない」
家福「大丈夫。僕たちはきっと、大丈夫だ」

この台詞が少し私を楽にしてくれたように思う。故人が寂しがってすぐにでもお迎えが来ると思ったが、そうでもないようだ。きっと大丈夫、そう思って今を生きていくしかない。

時々訪れる無音のシーンも物語にグッと引きつけられた。雪の静けさを感じたり、手話への集中力が高まったり。

ラストシーン、家福は妻そのものであった愛車を手放し、みさきは故郷と顔の傷を手放している。そこに幸せな生活があるのか。家福さんはどうしているのだろう。各自の想像力に託されるラストであった。

感じていたヒリヒリは少しずつ癒えていき、最終的にはみさきの傷のようにすーっと薄くなった。終わった後は微炭酸を飲んだかのような爽やかさ。そのまま車で海沿いを走らせたい気分だった。

『まだ見ぬ世界で あなただけの音を鳴らせ
あなたが世界を変えるのよ』

自分の世界は案外自分で変えられる。どうせなら腹を決めて、弱い自分もズルい自分も受け入れてお迎えがくるまでいっちょやったろやないかい、と思える映画だった。

さて、米アカデミー賞作品賞なるか!楽しみ。