兄のワイン。

二歳年上の兄は勉強が得意で、なんでも分析するのが好きだ。僕は兄ほど頭も良くないし、兄みたいな可愛い彼女も居ない。
高校を卒業し、飲食店に就職した兄は一つの夢を見つけた。
ソムリエになること。
まだお酒を飲めない兄は成分や性質なんかを事細かく勉強していた。
親の結婚記念日には親好みのワインを選べるほどに。
一年勉強して、あと一年勉強すれば、ソムリエの資格の参加年齢になれる。その日を夢見て猛勉強していたが、人生はそこまで甘くはなかった。
勤務先で兄が倒れて病院に搬送された。
ただの過労にしては、顔色が悪く見えた。
兄はとても明るい。「気にすんなよ、すぐ良くなるさ」
彼女もよくお見舞いに来てくれていた。

二月もすれば、彼女の姿は見なくなった。
その頃からよく家で母が泣くようになった。
病室にいくと、兄はいつも勉強していた。
こんな時くらいゆっくり休めよ、と声をかけても「試験までには知識を入れておきたい」と聞かない。
彼女は「将来が見えない」とフられたらしい。
詳しいことは僕の耳にはなにも入ってこない。

結局兄は赤線をたくさん引いたノートだけを残して、家族の中から姿を消した。

僕にできることは、このノートを携えて、ソムリエになること。
兄のように強くなりたい。それが僕の夢になった。

まだまだ未熟でありますが、精一杯頑張ります