見出し画像

第41回 ドイツ音名と和声記号

📚[📖楽典]ドイツ音名、長調、短調
📚[🎼和声法]和声記号、ドミナントモーション、4度進行、強進行
📚[🎶コード理論]ディグリーネーム、ドミナントモーション、4度進行、強進行

 これまで、僕の音楽教室で使われてきた「ⅠⅡⅢⅣⅤⅥⅦ」や「ⅰⅱⅲⅳⅴⅵⅶ」といったローマ数字で音をあらわすものを、「ディグリーネーム」とか「ディグリー」と呼ぶことがある。
 もともと「ディグリー」とは階級や度合いを意味する言葉で、つまり音楽ならば音階をあらわすことになるんだけど、大文字を使った「ⅠⅡⅢⅣⅤⅥⅦ」は特に和声や和音をあらわすときに使うんだ。

 和声や和音をあらわすディグリーには大きく2種類あって、「和声法(わせいほう)」と呼ばれる伝統的な分野と、「コード理論(コードりろん)」と呼ばれる比較的新しい分野とでは、書き方や意味合いが少し違う。「和声法」と「コード理論」の具体的な違いについては、もう少しあとになってから説明するけれども、作曲する方法のことを「作曲法(さっきょくほう)」と呼び、その作曲法のひとつに和声を重視したものがあって、これを「和声法」と言うんだ。
 和声法は、一般にはバロック時代から古典派初期に確立したとされる作曲法で、ある調性から見たときのその和音や進行のそれぞれに機能を見出すものなので「機能和声(きのうわせい)」と呼んだりもするよ。

 和声法で使うディグリーのことを、特に「和声記号(わせいきごう)」と言う。つまり、「和声記号」と言ったら和声法で使うディグリーの意味だっていうこと。
 ちなみに「コード理論」で使われる書き方の場合、和声の機能ではなく、あくまでも和音それぞれの響きを重視するんだ。この結果、たとえば「Ⅴ₇」と書いたら和声法でもコード理論でも、ほとんど場合では似たような意味を持つけれども、「Ⅵ」と書いても同じ意味を持つとは限らなかったりするので、注意が必要だね。

 和声法では「Ⅴ」と書いたらⅴ度の音を根音とする和音のことで、原則としてドミナント性を持つものとして扱うことになるんだ。ここでいう「ⅴ度の音」というのは「ⅴ度の機能を持った音」という意味で、つまり「属音」のこと。
 その最大の例が第37回で出てきた「ドッペルドミナント」で、とにかく「Ⅴ」と書いたら何かの調性や旋法音階に対するドミナントのことを意味するよ。「ドッペルドミナント」ならば属調に対するⅤのことだね。
 最初はわかりづらいかもしれないけど、ドミナントモーションを作りたかったら解決する音を主音の調性に見立てたⅤを置けばいいっていうこと。
 すごい極端なことを言っちゃうと、これでどんな調にも転調ができちゃうんだ。

 例えば、第28回で紹介した『ちょうごうのうた』の前奏部分を見てみよう。

譜例_41_01

 この曲って、1番歌詞はヘ長調なんだけど、前奏と後奏はハ長調なんだよね。
 「後奏(こうそう)」というのは「前奏(ぜんそう)」の対義語で、つまりアウトロのことだよ。

 転調直前、フェルマータ記号の付いている8小節目を見るとC音、E音、G音、B♭音という和音構成になっている。これはハ長調から見るとⅳ度調のⅤだ。この場合のⅳ度調というのはヘ長調。つまり、この和音は、ヘ長調のⅤなんだ。
 楽譜を見てみると、この直後、9小節目から調号が♭1つ付いてヘ長調に転調しているよね。これが転調先の調のⅤでドミナントモーションを使った転調の例。

 それから、8小節目にあるⅳ度調のⅤの、さらに直前の和音を見てみると、その構成音はG音、B♭音、D♭音になっている。これは「減三和音(げんさんわおん)」と呼ばれる、5度が減音程になっている和音で、この音楽教室ではまだちゃんとやっていないけれども、ここではベース音に注目してほしい。G音になっているよね。つまり、このG音が次のベース音のC音に解決しているわけで、ここでもドミナントモーションが使われているわけだ。

 さらにそのひとつ前のベース音はD♭音。ここでの和声構成音もD♭音、B♭音、G音だから構成音は変わらないんだけど、D♭音をD音が半音下に変化したものだと考えれば、G音と4度の関係になる。ここでは上行ではなく下行進行しているから5度になるけどね。

譜例_41_02

 これは厳密にはドミナントモーションとは呼べないんだけど、ドミナントモーションよりも広い言葉で「4度進行(4どしんこう)」とか「強進行(きょうしんこう)」と呼ばれるもので、バロック時代から現代にいたるまで、ひんぱんに使われる和声進行の定番みたいなものなんだ。

 ちなみに、この「ドミナントモーション」や「4度進行」、そして「強進行」という言葉は、人や場面によっていろんな意味で使われることがあるから、ちょっと注意が必要かもしれない。
 人によっては完全4度の上行進行しか「4度進行」と呼ばないこともあるし、2度や5度の上行進行も「強進行」と呼ぶことがあるんだ。
 僕のこの教室では呼び分けをするために、完全4度上行や完全5度下行のものを「ドミナントモーション」、4度上行や5度下行全般を「4度進行」と呼ぶことにするね。

 話を戻すけれども、こんな感じで和声記号ではⅤと書いたら属和音をあらわすことになるし、だから主調以外の属和音には必ず何度調のⅤなのかを書かなくちゃいけない。
 ということは、そもそも主調が何なのかもわからなければいけないってことだよね。

 そこで、次の譜例のような感じで、何調なのかも書くのが「和声記号」の書き方なんだ。見慣れない記号は、今は気にしなくてもいいからね。

譜例_41_03

 「C-Dur」は「ツェー・ドゥアー」と読むよ。これはドイツ語で「ハ長調」のこと。
 和声法は伝統的なクラシック寄りの楽理だからなのかな、ドイツ語を使うのが習慣になっているんだ。
 もちろん絶対にドイツ語を使わなくちゃいけないというわけではないのかもしれないけど、たいてい、どこに行ってもドイツ語で呼び合うことが多いから、和声を扱うならば覚えて、慣れておいたほうがいいのも確かなんだよね。

 まず、長調は今も説明したように「Dur」と書いて「ドゥアー」と読む。
 短調ならば「Moll」と書いて「モール」と読むよ。「moll」と小文字で書く人もいるね。ドイツ語では短調は習慣的に小文字で書くことが多くて、音名でも小文字を使うんだ。カタカナでは「モル」と書くこともあるよ。

 音名もドイツ語読みになるんだ。
 それぞれ「C(ツェー)」「D(デー)」「E(エー)」「F(エフ)」「G(ゲー)」「A(アー)」「H(ハー)」になる。短調ならば「c(ツェー)」「d(デー)」「e(ェー)」「f(エフ)」「g(ゲー)」「a(アー)」「h(ハー)」だね。
 「エー」と言うと、英語音名では「A音」のことを指すけど、ドイツ語音名では「E音」なので注意が必要だよ。

質問_2020050406430000

 そうだね、これは歴史的に「H(ハー)」という呼び方が使われているんだ。
 「B(ベー)」と言うと、英語音名でいうところの「B♭音」をあらわすことになるよ。

 これ以外の半音は、♯記号ならば「is」を付けて「ィス」、♭記号ならば原則として「es」を付けて「ェス」と呼ぶ。例えばC♯音ならば「Cis」で「ツィス」、D♭音ならば「Des」で「デス」。
 ただしE音やA音は、それ自体が母音になる文字なので、E♭音は「Es」と書いて「エス」、A♭音は「As」と書いて「アス」と呼ぶんだ。

 まとめると、こんな感じだね。

図表_41_04

 それから、ドイツ語音名の便利なところは、ダブルシャープやダブルフラットの音にも対応しているところで、例えばCダブルシャープ音ならば「Cisis」と書いて「ツィシス」、Aダブルフラット音ならば「Ases」と書いて「アセス」と呼べばいいんだ。

質問_2020050406450000

 ああ、うん。
 これって必ず出てくる質問だよね。
 今回はちょっと長くなりすぎちゃったし、これまでにして、次は補講にして、その質問に答えるね。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?