第42回 開離配置と密集配置
📚[🎼和声法]開離配置、密集配置、和声音、非和声音
📚[🛡音楽史]ルネッサンス時代、4声コラール
📚[🎤声楽]コラール、斉唱、合唱、パート
第41.2回でも紹介したように、和声法には禁則やきまりごとがあって、「この音はこう動かさないといけない」とか「こう動いてはならない」みたいなルールがいくつもあるんだけど、その前に、和声法ができるまでの歴史を簡単に説明しておくね。
まず、一般に和声法と呼んだとき、第41.2回のさいごのほうでも触れたように「バス」「テナー」「アルト」「ソプラノ」の4声による和音による進行を呼ぶんだけど、この4つの言葉をどこかで聞いたことがあるという人も多いんじゃないかな。
複数の人たちが、いくつかの「声部(せいぶ)」に分かれて歌う様式を「合唱(がっしょう)」とか「コーラス」って言うんだけど、学校で合唱をするときに「バス」「テナー」「アルト」「ソプラノ」に分かれて歌っているという人は多いと思う。「声部」とは「パート」とも呼ばれるもので、つまり「バス」「テナー」「アルト」「ソプラノ」それぞれのこと。
西洋音楽では、バロック時代くらいまでの音楽の歴史と言えば、だいたい教会音楽の歴史のことになるんだけど、その教会音楽のほとんどは「コラール」と呼ばれる讃美歌に代表されるもので、もともとは今でいうところの合唱ではなく、みんなで同じ旋律を歌う「斉唱(せいしょう)」と呼ばれる様式だったんだ。「校歌斉唱」とか「国歌斉唱」なんて言葉を耳にしたことはあるんじゃないかな。
時代が新しくなるにつれて「斉唱」だったものは次第に声部が増えていき、「4声コラール(4せいコラール)」へと発展していく。「合唱」の誕生だね。
この、複数に分かれたそれぞれのパートを、「低い音」を意味する「バス」と呼んだり、「高い音」を意味する「アルト」と呼ぶようになったんだ。
もともと言葉としての「アルト」は高低差のある距離をあらわすもので、「高い」とか「深い」といった意味になるんだ。
「ソプラノ」は「さらに上の」という意味で、つまり「アルトよりも上の」ということなんだよ。
今ではソプラノのほうが主旋律になることが多いから、アルトのことを「副旋律のアルト」という意味で「コントラルト」とか「コントラアルト」なんて言ったりもするけどね。
副旋律のことを「カウンターメロディー」と言い、テナーに対するもうひとつの男声高音部を「カウンターテナー」と呼んだりするのを聞いたことはないかな。この「カウンター」と「コントラ」は同じ語源で、どちらも「もうひとつの」という意味なんだ。
ちなみに、ここから転じて「コントラ」は「低い」という意味も持つようになって、「低い音、すごく低い音!」というニュアンスで低音部弦楽器を「コントラバス」と呼ぶようになったんだ。もっとも、コントラバスの場合、チェロに対する「もうひとつのベース」という意味もあるけどね。
話を戻すけれども、こうして増えた4声それぞれの音域に合った譜表が、第19回で紹介した「ソプラノ記号」とか「アルト記号」だったんだよ。日本では「テナー」のことを「テノール」とも呼び、その音域が「テノール記号」ということだね。
合唱曲を歌ったり、楽譜を見る機会のある人は知ってるとは思うけど、それぞれのパートは「ド」「ミ」「ソ」みたいにきっちり和音を詰めて歌っているわけではなく、ときにはオクターブ近くも開くことがある。
4声コラールに起源のある和声法も同じように、それぞれの声部はぎっちり詰まっていることもあれば、大きく開くこともあるんだ。
この、それぞれのパート間で音を開けたものを「開離配置(かいりはいち)」、音をぎっちり詰めて積み重ねたものを「密集配置(みっしゅうはいち)」と呼ぶよ。
和声法ではバスを除くと、原則として大きな跳躍進行は避けないといけないんだけど、開離配置と密集配置は変えてもかまわない。そこで、第41.2回に出てきたような禁則を回避する手段として配置を変えるのはよく行われるものなんだ。
それぞれの和声に含まれている音、つまり構成音のことを「和声内音(わせいないおん)」とか「和声音(わせいおん)」と言い、それ以外の音を「和声外音(わせいがいおん)」または「非和声音(ひわせいおん)」と言う。
和声法では非和声音は原則として不協和音になるので使えないんだけど、和声音が3度以上離れているとき、これをグリッサンドのようにしてつなぐことができる。これを「経過音(けいかおん)」と言って、芸大和声でもあとのほうになると経過音を使わなければ解けないような課題もたくさん出てくるんだ。経過音を使うことで開離配置と密集配置を入れ替えるだけじゃなく、第9音を増やしたりということもできるようになる。
ちなみに芸大和声ではⅤ₉以外では第9音は原則として使えないというきまりなんだけど、経過音を使えば「たまたま第9音になった」ということで片付けられるんだ。こういうのを「偶成和音(ぐうせいわおん)」と呼んだりするよ。
第3音はかならず置かないといけないけど、第5音は置かなくてもいいというのが和声法で、それだけでなく、じつは根音もかならずしも置かなくてはならないというものではないんだ。これを「根音省略(こんおんしょうりゃく)」と言って、つまり芸大和声ではⅢのように見えても、じつはⅠ₇の根音省略と読むのが正しいということが多い。
ⅢとⅠ₇の根音省略って何が違うのって思うかもしれないけど、機能和声の考え方をするので、Ⅰの機能、つまり主音や主和音としての機能があるならばⅠと捉えるのが芸大和声なんだ。
芸大和声の本には「たんに紙上で配置・連結を行いうるだけでは無意味」と書いてある。「連結(れんけつ)」というのは和音の進行のことで、つまり、ただパズルを解くように和音を置いていってもそんなのは和声法の勉強にはならないって意味なんだけど、でも、きまりごとが多くて、僕には芸大和声ってパズルのように見えるんだよね…。
というわけで今回はここまで。
次回は、今回出てきた「和声音」「非和声音」、そして「協和音」や「不協和音」の正体ってそもそも何なのかというお話をしてみたいと思うよ。
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