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第50回 2種類の分数コード

📚[🎶コード理論]分数コード、ポリコード、オミットコード、パワーコード
📚[🧩様式論]ポリモード

 和声法では転回形という言葉があって、ベースが和声構成音の根音以外になるときは転回形と呼ぶことになっていたよね。
 コード理論でも「転回形」という言葉はあるし、第34回でやったようなベースの機能がコード理論にもあることは変わらない。
 今回はそんな、コードネームにおけるベースのことを取り上げていくよ。

 コードネームでは、特に何もことわりが無ければ、ベースは構成音の根音を奏でるという「やくそくごと」があるんだ。つまり、特に何も無ければ転回形のことなんて考えなくてもいいということだね。
 でも、それは逆に言えば、特にベース音を指定したいときは、それを書きあらわす方法もあるってこと。

 この書き方はものすごく簡単で、例えばCM7でE音をベースにしたいときは「CM7/E」と書けばいいんだ。

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 算数の分数のような書き方だから「分数コード(ぶんすうコード)」なんて言い方をするよ。

 コードネームにはいくつかの書き方があって、分数のような書き方以外にも、こんな書き方もあるんだ。

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 「on」と書くから「オンコード」という呼び方もあるんだ。「on」とは「…の上に」という意味で、つまり「E音の上にCM7が乗っているよ」ということ。見たまんまだよね。両方を合わせて「CM7/onE」のような、ていねいな書き方もあるよ。
 読み方は分数表記の場合でもオン表記の場合でも「CメジャーセブンスオンE」といった感じになる。

 この分数コードやオンコードは、単に転回形だけでなく、非和声音をベースに持ってくることもできるんだ。
 前回、テンションノートは三和音以内の音に隣り合わせることはないって説明したけれども、そうした音をベースに持ってくることはできるということ。なぜならば、コード理論では一般に、ベースとテンションは別物という考え方をするからなんだ。

 だからこんなコードも書くことができる。

譜例_50_03

 ここまでの説明で、もしかしたら気付いたかもしれないけど、ただベースを鳴らすだけならば、コードネームの表記法は和声記号なんかよりも読み方はずっと簡単だということ。だってコードネームには必ず根音が書かれているし、根音以外がベースのときも分数コードやオンコードでばっちり書かれているんだもの。英語の音名が読めれば、もうそれだけでベースを弾けちゃうのがコードネームだったんだ。これできみも、今日からベーシスト!

 ところで、分数コードにはもうひとつの意味があって、じつはこれを使って、第34回で出てきたようなポリモードも書きあらわすことができるんだよ。

譜例_50_04

 こういった、ベースではなくコードが低音に来るものを「ポリコード」と呼ぶんだ。

 「CMaj/FMaj」と、わざわざ「Maj」と書いているのは、これがただのベースではなくメジャートライアドコードであることをわかるようにするためのもの。メジャートライアドコードはふつう、根音だけを書くから、それでは単音のベース音なのかコードネームなのか、わからなくなるからね。

 ちなみに、「CMaj/FMaj」みたいなのは「FM7(9,11)」と同じなので、ポリモードであることを積極的に主張するとき以外はポリコードとしては書かないこともあるんだ。
 ポリコードはもっと、「CMaj/GMaj」とか「CMaj/D♭m」みたいな、和音単位での転回形や接点のなさそうなコード同士で感じで使うものなんだよね。

譜例_50_05

 こういったポリコードは使い方がむずかしいんだけど、独特の響きや旋法を使うようになると欲しくなる音でもあるんだ。

質問_2020052112440000

 この質問には、ちょっと答えるのがむずかしい。
 コードネームとは、鳴っている音を書きあらわすものではなくて、その和声を解説したり、伴奏のガイドとして使うことを想定しているから、例えばメジャーセブンスコードの第5音が省略されていたからといって、それをわざわざ書きあらわすようなことは、ふつうはしないんだ。

 でも、特にこの音を省いた和音が欲しい、というときはあるよね。
 そんなときは「omit」という書き方をすることはあるんだ。

譜例_50_07

 この曲は、僕の知り合いの詩的なツイートに、僕が曲を付けたものなんだけど、7小節目を見てほしいんだ。「G9(omit7)」というコードが見えるよね。「omit7」は「オミッテッドセブンス」と読むよ。これもまたディミニッシュドやオーグメンテッドと同じように過去分詞の語尾を省略して「オミットセブンス」とか「オミットセブン」という読み方のほうが一般的だね。
 「G9」と言ったら、ふつうは短7度が含まれるんだけど、ここではわざと第7音を省いた響きが欲しくて、このコードを使ったんだ。
 「オミット」とは「取り除く」という意味で、つまり第7音を取り除いたわけだね。

 「G9(omit7)」と「GaddA」の違いは何?って聞かれそうだけど、アドコードは「ヨゴシ」と呼ばれるように、どちらかというと音をぶつけることを意図したものに使われるんだ。
 この曲では、確かにA音はB音とぶつかっているけど、その前の小節から右手のF音を抜いた和音が続いている。この、D音とA音の完全5度音程が続く開離の響きを強調したかったから、ここではオミットコードを使ったんだ。

 それから、オミットコードとはちょっと違うんだけど、第3音を省いて鳴らす「パワーコード」というものも紹介しておこうかな。

譜例_50_08

 根音に続けて「5」と書くよ。この「5」はもちろん完全5度のことだけど、この場合は第3音を入れずに、根音と第5音だけの二和音を奏でるという意味になる。
 和声法では第3音は絶対に省略してはいけない音で、なぜかと言えば第3音は和音の響きを左右する、もっとも重要な構成音だからなんだ。コード理論で言えば、メジャーコードかマイコードか、その響きの性格をはっきりさせる音ということになるね。

 そんな大事な音をどうして省くコードがあるのかというと、響きの性格ははっきりしないけれども、根音と第5音という完全5度音程が力強く響くからなんだ。完全音程なんだから響くのは当たり前だよね。

 これを「力強い和音」という意味を込めて「パワーコード」と呼ぶんだ。
鍵盤楽器などでも使われるけど、特にギターでよく使われる和音で、エレキギターの奏法として確立していると言ってもいいかもしれないね。

質問_2020052112440001

 例えばCを根音として完全4度を積み重ねれば「C7sus4(omit5)」、完全5度ならば「C5(9)」のような書き方はできるけれども、特に完全音程を重ねたという意味での定着したコードネームは無いね。

 でもそれって、見方を変えると、純正律やピタゴラス音律を意識した表記の仕方とも言えそうだよね。
 第43回でも倍音関係をあらわす記譜法が出てきたし、次回はその解説をしてみようかな。

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