第38回 進行と動機と
📚[📖楽典]進行、動機
📚[🎼和声法]和声進行、ドミナントモーション
📚[🎶コード理論]コード進行、ドミナントモーション
📚[🧩様式論]主題、ライトモティーフ
第29回で音の動きのことを「進行」と呼ぶと説明したけれども、この「進行」には大きく2種類があって、ひとつは「順次進行(じゅんじしんこう)」、もうひとつは「跳躍進行(ちょうやくしんこう)」と言うんだ。
「順次進行」とは半音や全音といった、音階的な音の動かし方のことで、たとえばこんな感じだね。
これに対して「跳躍進行」は3度以上の音程をもって動かすことを言うよ。
3度以上ならばどんな音階的に離れていても「跳躍進行」と呼ぶんだ。もちろんオクターブ以上離れていても「跳躍進行」だよ。
ちなみに減3度音程は全音、重減3度音程は半音になっちゃうけれど、これは順次進行と跳躍進行のどちらにも解釈できるね。
音や楽器として見るときは順次進行と考えることが多いと思うけど、楽曲の構造として見るときは跳躍進行として扱うことのほうが多いかもしれない。
それから、具体的に「5度進行」「短3度進行」という感じで、音程と組み合わせて言うこともあるね。
この、音程と組み合わせた言い方の場合、2つの意味があって、ひとつはふつうに音の動かし方をあらわしている場合。そしてもうひとつは、和声としての進行をあらわしている場合があるよ。
和声としての進行の場合、その和声が何度の機能を持っているのかを言い表しているときと、和声から和声への進行をあらわすときとがあって、その意味を考えないとかんちがいしてしまいそうなこともあるかもしれない。
例えば「5度進行」と言ったとき、Ⅴというドミナントの響きを持つ和音からトニックへの解決、つまり前回も出てきたドミナントモーションのことを意味するんだけど、これ以外にも、ⅠからⅤとか、ⅡからⅥという感じで5度の音程差のある和音への動きを意味していることもあるから注意が必要だよね。
文章で書くときは、和声の機能を言い表すならば「Ⅴ度進行」「Ⅴ進行」みたいな書き方をするほうが一般的かな。
「保留(ほりゅう)」という言い方はあるんだけれど、ふつう、同音連打は進行とは呼ばないんだ。
進行とは音を動かすことを言うわけで、自動車とかの交通の意味でいう場合の「進行」でたとえるならば、同音連打とは同じ場所でエンジンを空ぶかししているだけのようなものと考えてくれれば、イメージしてもらえるかな。
でも、進行と同音連打を含めて「動機」というものができるんだ。
これは「モティーフ」を訳した言葉で、楽曲の構成上、その最小単位をさす言葉のひとつになるよ。
第30回で「主題」とか「テーマ」という言葉がでてきたけれども、じつは「主題」とは「テーマ」を訳した言葉で、いくつかの動機が組み合わさってできたものを指しているんだ。
言葉ではちょっとわかりづらいかもしれないけど、主題が転調したり、ある程度リズムが変わってももとの旋律を感じられるのは、この「動機」という最小単位があるからだというのが音楽の考え方で、つまりそれが進行などのことになるんだけどね。
映画やドラマ、お芝居なんかで使われる音楽のことを「劇伴(げきばん)」と呼ぶんだけど、この劇伴で昔からよく使われる様式に「ライトモティーフ」というものがあるんだ。日本語で「示導動機(しどうどうき)」とも言われるよ。
これは、登場人物や情景、状況など、場面を象徴するもののそれぞれに「主題」と名付けた旋律を用意しておいて、場面や状況の変化に合わせてその主題をもとに、主題に含まれた動機を展開させるなどして曲を編んでいく作曲方式のことなんだ。
ちょっと簡単な例を作ってみようかな。
たとえば昔話『桃太郎』の劇伴を作るとするよ。「桃太郎のテーマ」なんだから、やっぱりこんな感じだよね。
おなじみの童謡、『桃太郎』のメロディーだね。作曲は岡野貞一さん。明治時代から昭和のはじめ頃に活躍した日本の音楽家だよ。
「鬼たちのテーマ」はこんな感じかなぁ。
こっちは作曲者不詳のわらべうた。ちょっと単調だけど、「鬼さんこちら、手の鳴るほうへ」という、誰でも知っている旋律だと思うんだよね。
さて、桃太郎が冒険の旅をはじめるよ。そうしたらこんな感じの曲になるかもしれない。
あの明るいリズムの童謡が、勇ましい行進曲になっちゃったよ!
ちなみに、これはオーケストラの「スコア譜(スコアふ)」とか「総譜(そうふ)」と呼ばれるもの。オーケストラ全体の楽譜をまとめて記したもので、指揮者はこれを見ながら指揮を振るんだ。「スコア譜」は「スコア」と略して言うこともあるよ。
よく見ると、楽器によって調性が違うけれども、これは多調とは別で、じつは楽器によって記譜法が違うからなんだけれども、これはまた別の機会に少しずつ取り上げていくね。
そして大海原を渡って、いよいよ霧の向こうから鬼ヶ島が見えてきたら…、
低音の弦楽器による「鬼たちのテーマ」の動機をもとにした舟をこぐようなリズムとともに、やっぱり木管による「鬼たちのテーマ」が上のほうでも鳴っている。
いざ、桃太郎が鬼たちと対峙したら、「桃太郎のテーマ」と「鬼たちのテーマ」が交錯してこんな感じになっていくわけだ。
まず「鬼たち登場!」という感じで「鬼たちのテーマ」が、そして身構える感じで「桃太郎のテーマ」、最後の2小節は2つのテーマが絡み合っているのがわかるかな。
さて、この3つの譜例から気が付いてほしいのは、「主題」という意味では、それぞれ、だいぶかたちを変えちゃっているということ。
たとえば桃太郎の冒険の曲は、トランペットやオーボエが「桃太郎のテーマ」をなぞっているけれど、よく見てみると音の動きはだいぶ違う。まず、もとの主題には無かったアウフタクトが付いているし、ただ短調にしただけではなくて階名としても別物になっている。さらに、音が高くなったり低くなったりという進行も少し違っているよね。
「動機」と言ったときは、あくまでも要素をばらばらにして見ていくんだ。それは進行だけだったり、リズムだけだったり、楽器や音色だけだったりということもあって、それでもそれを聴くことで提示されていた元の主題を思い浮かべることができる程度に組み立て直すことで「展開」というものになっていくんだよ。
「動機」という言葉をわかりやすく説明するのはむずかしいんだけど、例えば何かのアニメをもとにしたプラモデルがあって、そのもととなっているキャラクターが「主題」だと考えてみよう。そして、プラモデルを組み立てるんだけど、ちょっと間違えたり、わざと違った組み立て方をしても、「あ、これってあのキャラクターだな」ってわかるのは、プラモデルの部品が結局はそのキャラクターを作るひとつひとつの要素になっているからで、これが「動機」にあたる部分だって思ってくれればいいかな。
というわけで、今回は進行と動機について、お話してみたよ。
ところで今回の譜例には、またまたいくつかの記号が出てきたんだけど、次回はそのことを少し説明しておきたいな。
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