ピアノの鍵盤は見たことがある_2019123017320000

第25回 ゆるゆると進むように陽気な速さ

📚[📖楽典]速度記号、メトロノーム記号
📚[🖋記譜法]速度記号、メトロノーム記号
📚[⏳指揮法]棒式指揮法、テンポ♩=120学習法
📚[👤人物]ヨハン・ネポムク・メルツェル

 第23回で「ベロシティー」という言葉が出てきたけど、この言葉のもともとの意味は「速さ」だと説明したのを覚えているかな。
 もちろん音楽用語として「ベロシティー」と言ったときは、前回説明したように「強弱」という意味になるんだけど、それとは別に音楽には演奏する速度というものがあるんだ。「テンポ」と言うほうが多いかもしれないね。

 これまでにも出てきたように、音符や休符にはそれぞれ音価があって、それが音の長さをあらわしているんだけど、でもこれは、例えば四分音符は二分音符の1/2の長さだというだけで、じゃあ四分音符の具体的な長さはどのくらいなの?…ということはわからないよね。
 これを具体的にあらわすものが「メトロノーム記号(メトロノームきごう)」なんだ。

譜例_25_01

 メトロノーム記号はふつう、基本となる音価が1分間にいくつぶんになるのかを書くことになっているよ。
 上の図のように「♩=120」と書いてあれば、1分間に四分音符が120個、つまり四分音符を1拍とするならば、1分間に120拍を打つという意味になるんだ。1分は60秒だから、この場合、四分音符の長さは0.5秒ということになるね。

 基本となる音価は四分音符とは限らないから、メトロノーム記号も四分音符以外が使われることもあるんだ。
 「♪=120」だったら1分間に八分音符が120個だから、「♩=120」の2倍の速度になるわけだね。

 ちなみにこんなふうに書くこともあるよ。

譜例_25_02

 「M.M.」っていうのは「メルツェルズ・メトロノーム」の略だよ。
 19世紀のドイツで、ヨハン・ネポムク・メルツェルさんが音楽の速度を計って演奏の練習をするための道具「メトロノーム」を発明したのだけど、この「メルツェルさんのメトロノーム」という意味なんだ。

ヨハン・メルツェル

 「M.M.」と書いたときは、1拍とする長さを単位としていることをあらわしているんだ。音楽について書かれた本や先生によっては「M.M.」と書くのが正しいと教えているところもあるね。
 でも、何を1拍とするのかがわかりづらいこともあるから、僕は「♩=120」のように具体的な音符を書いたほうがいいかなって思ってるよ。例えば「2/2拍子」は、拍子としては二分音符を1拍として考えることになるけど、ふつう、二分音符は「2拍のばす」って教えていることが多いよね。こんなときに「M.M.」で書かれちゃうと、単位が二分音符なのか四分音符なのか、わからなくなると思うんだ。両方を組み合わせて「M.M.♩=120」という、ちょっとていねいな書き方をすることもあるよ。

 ところでメトロノーム記号は1分あたりの音符の数で速度をあらわしているけど、これはもちろんメトロノームという道具が普及して、正しい時間と演奏速度の関係が計れるようになったからだよね。ということは、それ以前には別の書き方をしていたっていうことなんだけど、こんなふうに言葉で表現していたんだ。

図表_25_03

 これらの音楽用語をメトロノーム記号に置き換えたらどのくらいになるのかは、人それぞれで考え方が違うから説明がむずかしくて、たいていのメトロノームだと「Moderato」を「M.M.=92」くらいに、「M.M.=132」を越えたら「Allegro」なんて書いてあったりするんだけど…、今は正確な時間を計る方法がたくさんあって、1分間、60秒間を簡単に計ることができるからなのかな、「♩=120」を基本の速度とする人も多いね。電子楽器のほとんどは、何も設定しなければ「♩=120」でリズムを打ってくれるよ。
 オーケストラの楽団の前で棒を振って拍子をとるのを「指揮(しき)」と呼び、その方法のことを「指揮法(しきほう)」と言うんだけど、今は指揮法を学ぼうとすると「♩=120」の速度をからだに覚え込ませられたりするみたいだよね。そんなこともあって、「Moderato」を「♩=120」相当とする考えをもつ人もいるよ。
 もともとのイタリア語としての意味は「おさえこんだ」とか「制御された」だから、からだに覚え込ませられた指揮者さんたちからすれば、もっともなのかもしれないね。

 上の表には書いていないけれど、「Tempo giusto(テンポ・ジュスト)」っていう速度をあらわす言葉もあるんだ。これは「正しい速度で」という意味で、今ならば時計を基準にして考えるから「♩=60」とか「♩=120」みたいな意味でとらえる人が多いのかもしれないけど、この言葉が使われ始めた頃は心臓の鼓動や腕の脈拍でテンポを作っていたから「M.M.=80」前後を想定していたんだよ。
 こういう時代背景がわかると、今の速度の感覚と、昔の感覚とに違いがある理由も想像できるよね。

 ちなみに「…ィーノ」や、強弱記号にも出てきた「…ィッシモ」のように「やや…」「とても…」みたいなものは、そのもととなっている音楽用語に対する比較になっているけど、それ以外の、異なる用語同士の関係は、どちらが速いか遅いかというのは、あまり明確には決まっていないんだ。
 例えば「Largo」と「Lento」のどちらがより遅いかは、人によって考え方が違うよ。もとの意味がそれぞれ「幅が広い」と「のろい」で、そのどっちに、よりゆっくりした印象を持っているかによってくるよね。
 「Grave」は「重い」「深刻な」といった意味だけど、英語では「お墓」のことを指す言葉で、古くは「棺桶」や、その棺桶の穴を「掘る」という意味だったみたいだよ。つまり、ここで言う「重い」というのは「重くて深刻な話」というだけじゃなくて「棺桶を引きずる」といったニュアンスもあったみたいなんだ。だから、ただゆっくりなだけじゃなくって、曲も暗くて重々しいもののほうがふさわしいよね。

 というわけで、今回はここまで。
 次回は、この演奏速度に変化を付ける記号について紹介するよ。

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