見出し画像

第31回 ソナタアルバムの楽章トラック

📚[🧩様式論]楽章、ソナタ、ソナタ形式、協奏曲

 クラシックを聴いていると、よく「ソナタ」という言葉が出てくると思うけど、じゃあソナタって何なのかって聞いて、答えられる人はなかなかいないと思うんだよね。それにはいろいろと理由があるんだけど、今回はそんな「ソナタ」とは何なのかを紹介していくね。

 まず、すごくややこしいんだけど、「ソナタ」には大きく2つの意味があって、「ソナタ」と「ソナタ形式」という言葉があるんだ。
 たいていの事典には、「ソナタ」は「複数の楽章から成る楽曲で、第1楽章はアレグロでソナタ形式をとることが多い」、「ソナタ形式」は「2つの主題を持つ三部形式で、ソナタの第1楽章がこのかたちをとることが多い」みたいな書き方をしてあるんじゃないかな。
 三部形式は前回で勉強したよね。だけどこの説明って、わかったような、わからないような、ぴんと来ない書き方だと思うんだ。だって、「ソナタ」の説明が「第1楽章はソナタ形式」で、「ソナタ形式」の説明が「ソナタの第1楽章」。国語ではこういうのを「自己言及」って言うんだけど、つまり、何の説明にもなっていないってことなんだよね。

 そこで、そもそも「楽章」って何?ということから説明したほうがいいと思うんだ。

 誰が「楽章(がくしょう)」という言葉を作ったのかは、よくわからないんだけど、これは「ムーブメント」という言葉を訳して作られたものなんだ。じゃあ「ムーブメント」って何なのかって言うと、これは「動き」とか「動作」というくらいの意味しかないんだけどね。

 「ソナタ」は、もとの意味としては「鳴り響くもの」なんだけど、どういう意味として使われ始めたのかは、今となってはよくわかっていない。でも、使われ方を考えていくと、どうもこの言葉は今でいう「アルバム」みたいな意味だったように思えてくるんだ。
 CDにはアーティストさんの曲が複数収録されているよね。そして、それを「アルバム」と呼んでいるけど、1枚のCDに収録されているそれぞれの曲は、関連性があったりなかったり、いろいろで、ときにはアーティストさえ違うこともあるよね。でもそれらをまとめて僕たちは「アルバム」って呼んでる。

 ソナタという言葉は16世紀から17世紀頃に生まれたみたいなんだけど、もちろんそんな時代にCDみたいなものは無いよね。でも、曲や楽譜を発表するときに、1曲1曲じゃなくて何曲かまとめて発表するのは今とあんまり変わらない。
 歌や物語など、何か題材になるもののある曲には題名が付けられることもあったけど、そうでもなければ曲には名前の付かないことも多かった時代、そういうのをまとめて「ソナタ」として発表したんだ。

 CDアルバムでも1曲目は聴く人の心をつかむような、印象強い曲を収録することが多いけど、これは400年前だって同じで、「わっ、今度の新曲、いいね!」って思わせる曲がソナタの1曲目に収録された。かっこいい曲って、今でもリズムが良かったり、テンポが軽快だったりすることが多いけど、これも当時だって同じで、だから1曲目、つまり「第1楽章」はアレグロになることが多かったんだ。第25回で勉強した速度記号を覚えているかな。

図表_25_03

 そう! 「速く」という意味の音楽用語で、イタリア語では「陽気な」とか「楽しい」ということ。
 第1楽章をアレグロにしなくちゃいけないんじゃなくて、「今度の新曲いいね!」って思わせるために、かっこいい曲を第1楽章にしていただけなんだ。

 当然、その曲は時代を代表する流行的な音楽じゃないと、聴いてくれる人は満足してくれない。これも今と同じだよね。
 今だったらAメロがあってBメロがあってサビ…みたいな感じだけど、当時のそれは三部形式だった。
 「ソナタ」と呼ばれるアルバムの、第1楽章はそんな形式がよく使われていたから、それを「ソナタ形式(ソナタけいしき)」と呼ぶようになったんだ。

 だんだん見えてこないかな。
 つまり「協奏曲第1番」とか「交響曲第2番」っていう「第1番」「第2番」っていうのは、今で言ったら「ファーストアルバム」「セカンドアルバム」みたいな意味だったんだよ。「協奏曲第1番第1楽章」は「協奏曲スタイルのファーストアルバム、1トラック目の曲」みたいな感じかな。

 今の歌謡曲だったらサビが聴かせどころになるけど、当時は「これが今度の新曲だ!」と、曲の最初で主題という聴かせどころをまず持ってきた。今でもサビだけじゃなくてAメロやBメロがあるように、主題が1つだけじゃ聴いてる人は飽きちゃう。そこで主題を2つにして、それぞれを「第1主題」「第2主題」と呼ぶことにしたんだ。
 第1主題でまず「この曲いいね!」と思わせて、第2主題で一息つかせる。そして「またあのかっこいい出だしを聴きたいな」と思い始めたところで第1主題が復活する。聴いてて、わくわくが止まらない!
 これが前回も出てきた「主題提示部」だね。

 そうやって2つの主題を聴いてもらったところで、今度はその主題をもとに少しずつ、そしてだいたんに変化をつけていく。これを「展開(てんかい)」と言うよ。そう、この部分が「展開部」だ。
 展開部はどんどん変化をつけて、雰囲気が変わっていくから、聴いてる人をわくわくさせながらも焦らしている部分でもあるんだよ。

 そして最後に主題がもう一度あらわれる。「再現部」だね。曲のクライマックス。聴いてる人は、焦らされたところで、あのかっこいい主題をまたまた聴くことになるから、もう興奮が止まらなくなっちゃう。
 これが「ソナタ形式」と呼ばれるようになっていったんだ。

図表_31_02

 一方で、アルバムという意味での「ソナタ」は、かっこいい曲だけを集めてもおもしろくないから、たいていは2曲目、「第2楽章」はおちついた感じの曲を置くことにしたんだ。第1楽章がアレグロなんだから、第2楽章はゆったりしたラルゴとかアダージョ、ということだね。

 それぞれの曲やソナタ全体としての規模によってもいろいろだけど、CDなんてなかった時代は、音楽を聴くのは演奏会くらいしかないんだから、最後は盛り上がって終わりたい。ソナタっていうのはアルバムであると同時にコンサートでもあったんだね。
 だから最終楽章は最高に盛り上がる曲を置くことになるんだ。
 たとえば3楽章形式だったら、こんな感じだよね。もちろん例外もたくさんあるけどね。

図表_31_03

 こうしてソナタを聴いた人は「今度の新曲、本当に良かった!」「最後なんて最高に盛り上がったよね!」…なんて言っていたのかはわからないけど、数百年前のコンサートがどんなものだったのか、ちょっとは想像できたんじゃないのかな。
 ソナタのもともとの意味が「鳴り響くもの」だったのは、そんな背景があったからなんだ。

 ちなみに、独奏と合奏の組み合わせによる楽曲を「協奏曲(きょうそうきょく)」って言うんだけど、これは「コンチェルト」を訳したもの。でも、これってじつは、もともとは「コンサート」と同じ言葉なんだ。
 新曲が発表されるたびに「◯◯ソナタ」とか「◯◯コンチェルト」みたいに呼ばれていたのかもしれないね。

 というわけで、今回は200~400年前の演奏会の風景を想像するお話になったよ。当時の「ソナタ」がどんな様子だったのかを思い浮かべることができたならいいな。
 次回は和音について紹介するね。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?