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第41.2回 【補講】芸大和声

📚[🎼和声法]芸大和声、禁則(第3音欠如、第3音重複、連続5度、連続8度)
📚[🎶コード理論]パワーコード
📚[👤人物]島岡 譲
📚[🎻楽器法]ギター

 今回はちょっと脱線して、この音楽教室での「和声法」に関係する注意点について、お話しておきたいんだ。

 音楽之友社から出ている和声法の本に『和声 理論と実習』というのがあって、これは島岡譲さんをはじめとした音楽家、音楽研究家の人たちが書いた本で、1冊の別巻を含む合計4巻からなっている。
 第1巻は表紙が赤いことから「赤本(あかぼん)」とも呼ばれていて、音楽の分野で「赤本」と言えばこの本のことを指す代名詞にもなっていたりするね。

島岡譲

 具体的には和声の機能、いわゆる「機能和声」の説明とその実習に特化した内容で、その分野については詳しく書かれているし、音楽の専門教科書としてもわかりやすいと言われているんだけれども、逆に言うとそういうことしか書かれていないので、味っ気がなく、機械的でおもしろくないと言う人もいるみたいだね。
 1960年代に書かれた本で、もともとは多くの生徒さんを集めて和声法を学ばせられる教科書や教室が少ないということで東京芸術大学の音楽学部に向けて書かれたようなのだけど、基礎的なところから応用の部分までまとめられている学術書ということで半世紀経った今でも教科書として使う音楽学校や学習者が多いんだ。
 東京芸術大学の教科書だったことから「芸大和声(げいだいわせい)」とも呼ばれているよ。

 和声記号は、和声法を教える先生や教室、本などによって、微妙に書き方が違っていたりして、第37回で紹介した転回形の書き方は、じつはこの芸大和声にある書き方なんだ。
 芸大和声の和声記号はいろいろと特徴的で、和音の構成音が半音上がったり下がったりすることを「変位音(へんいおん)」と言うんだけど、この変位音をあらわすのをディグリーのローマ数字を加工した特殊な符合を使ったりする。
 たとえばこんな感じとか。

譜例_41_22

 もちろんこんな記号はふつうのパソコンやスマートフォンでは書けないし、僕の音楽教室でも使う予定はないんだけれども、でも、転回形の書き方などは芸大和声にならったものを使っているし、参考にしている部分は多いんだ。

 くりかえすように、芸大和声はもともと半世紀も前の芸術大学向けに書かれた本だし、音楽や作曲法を専門的に学ぼうという人にはいいかもしれないけど、音楽についていろいろ知りたいとか、楽しみたいという人に向いているとは、僕にはちょっと思えない。それに、僕のこの音楽教室も、あくまでも「音楽教室」であって、「作曲講座」や「和声入門」にするつもりはないんだよね。
 だからというわけでもないけど、芸大和声と同じことをやるつもりはないし、もっと言っちゃうと、芸大和声とは違うことも書いちゃう。
 これがどういうことなのかと言うと、僕は芸大和声を参考にはしているけれども、僕の音楽教室を読んでも芸大和声を理解したことにはならないってことなんだ。

 そんなことは当たり前じゃないかって思う人もいるかもしれないけど、芸大和声に限らず、作曲法には「禁則(きんそく)」と呼ばれるものがあって、これは簡単に言えば「やってはいけない音の重ね方や進行」のこと。曲を作るのに禁止されるものなんてあるの?って思うかもしれないけど、学問や様式としての作曲法にはそういうものがあるんだ。
 でも、それぞれの作曲法では禁則であっても、僕はそういうのをあまりよしとは考えていなくて、もっと自由でいいと思っているし、だからできる限り「禁則」とか「避けるべき」みたいな音楽理論には触れていきたくないんだよね。
 例えば、音楽史として「悪魔の音程」が避けられてきたのは事実だし、それは紹介してきた通りだけども、それを今の楽理として用いるのはどうなのかなっていうのが僕の考えなんだ。

 具体的な例をいくつか挙げてみると、例えば芸大和声には「第3音欠如(だい3おんけつじょ)」や「第3音重複(だい3おんちょうふく)」という禁則がある。
 いくつの音を重ねるのかを「声(せい)」という言葉であらわし、4つの音を重ねるならば「4声(せい)」と言うんだけど、芸大和声は「バス」「テナー」「アルト」「ソプラノ」の「4声(4せい)」から成る和音を扱うんだ。そして、三和音ならば、そのうちの1音は4声のうちの2声がユニゾンまたはオクターブユニゾンで奏でることになるし、四和音ならば原則として4声がそれぞれの音を奏でることになる。
 ここまでは何の問題もないと思うけど、和声構成音のうち、第3音は必ずどれかのパートが奏でなればいけないし、だけどその第3音は複数のパートでユニゾンやオクターブユニゾンしてもいけないという規則があって、それが「第3音欠如」や「第3音重複」と呼ばれるものなんだ。

 これは、芸大和声は基本的に機能和声の考え方を中心としていて、和声の機能とは根音と第3音にあるという考えがあるからなんだよね。
 根音が機能を持っているというのは第34回でやった「ベースの魔法」にも通ずることだし、第3音が機能を持つというのも第32回や第36回で長三和音や短三和音を勉強したから、イメージはできると思う。
 でも、例えばギターをやっている人ならば、こんなことを考えたりするんじゃないかな。「第3音を必ず入れなくちゃいけなかったらパワーコードなんて弾けない」ってね。

 「パワーコード」というのは根音と第5音からなる和音のことで、ギターではよく使われる奏法のひとつ。第3音のない響きに力強さを感じた人がいて、それを「パワーのある和音」という意味で「パワーコード」と呼んだ。
 ちなみに和声法には「連続5度」という禁則もあって、「バス」「テナー」「アルト」「ソプラノ」のいずれか2つのパートが、連続して完全5度になる進行をしてはならないというものなんだ。
 だけど、パワーコードを使っていたら、どう進行させたって連続5度になっちゃう。第3音が無いんだから転回形も作れない。つまり、ずっと5度のまま動かしていくのがパワーコードという奏法で、どこまで行っても和声法とは相容れないものなんだよね。

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 まぁ、ギターなどの演奏では転回形を考えないことも多いから、「連続5度」どころか「連続8度」の禁則も当たり前に起きちゃうし、そもそも和声法はギターのような和声を想定していないというのもあるんだけど…、今回はこれくらいにして、次回、第42回ではそういった話をしようかな。

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