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第43回 和声音と非和声音と協和音と不協和音

📚[⌁音響物理学]協和音、不協和音
📚[🎼和声法]和声音、非和声音、増三和音
📚[🎶コード理論]オーグメンテッドトライアドコード
📚[🌌現代音楽]微分音、ハーフフラット、ナチュラルシンメトニックコンマ、シャープシンメトニックコンマ、13リミット四分音

 前回、「和声音」と「非和声音」という言葉が出てきたよね。
 でも、例えば「ド」と「ミ」と「ソ」の和音があるとしたら、それ以外の音、つまり「レ」「ファ」「ラ」「シ」の音や半音は非和声音だというのは何となくわかるとは思うけど、第7音とか第9音なんて音が出てくると、だんだんと何が非和声音なのかわからなくなってくるという人は多いんじゃないかな。
 もしも半音のことは考えないとしても、音階には7つの音があるわけだから、第9音まであるということは「五和音(ごわおん)」ということ。つまり2つの音以外はすべて和声音。それはわかるとしても、すでにコード理論を知っている人なんて、「6th(シックスス)」と呼ばれる第6音や「sus4(サスフォー)」と呼ばれる第4音の存在があることも知ってると思うし、「テンションノート」と呼ばれる第9音よりも上の音もあって、そうなると何が和声音で、何が非和声音なのか、どんどんあいまいになってきちゃう。
 「対位法(たいいほう)」と呼ばれる作曲法なんかだと、ユニゾンやオクターブユニゾンを除けば3度と5度と6度以外は非和声音とすることもあったりして、そういうのも知っていると、「じゃあ第7音って何?」と思ったりするんだよね。

 第10回で「協和する」という言葉を学んで「ハモる」と呼ぶことをおぼえたけれど、第36回や第36.4回で短3度はハモらない、いや、ハモると考える、みたいな話が出てきた。
 第16回では「不協和音」という言葉も出てきた。逆に、ハモる音を「協和音(きょうわおん)」と呼ぶわけだけど、じゃあ和声音と協和音、非和声音と不協和音って何なんだろう?
 もし、不協和音が非和声音だとしたら、短三和音はその構成音自体が非和声音ということになっちゃう。

 この混乱は、狭い意味での「和声」と広い意味での「和音」の混同にあるんだと僕は思う。
 例えば「ド」の音にハモる音と言えば、まずユニゾンやオクターブユニゾンの「ド」の音があって、次に完全5度の「ソ」の音、そして長3度の「ミ」、続いてその下倍音になる「ファ」や「ラ♭」、さらにそれらの完全5度の音…と続いていく。これは、単に「協和音」にはどんなものがあるのかを挙げているだけだ。
 そして、それらの音を組み合わせることで「和音」ができる。けれども、ここで勘違いしてはいけないのは、「和音」とは、あくまでも複数の音を重ねたもののすべてをあらわす言葉で、つまり「不協和音」を重ねても「和音」なんだよね。広い意味での「和音」には、こうしたものも含まれる。

 一方で、「和声」と言ったときは、すでに音の重ねられたものをさしているか、少なくとも音の重ねることを想定しているものを考えている。このときの「音の重ねられたもの」や「想定した重ねる音」とは、その構成音が協和音か不協和音かという話とは別で、とにかく和音として完成された、または完成されることを想定したものなんだ。
 そして、その構成音以外もまた、協和音か不協和音かは関係なく、「非和声音」という言葉でひとくくりにされる。

 じゃあ結局、「和声音」や「協和音」、「非和声音」や「不協和音」って何なのかってことになるんだけど、これはそこで使われている様式や作曲法、または旋法や音律などによって左右されるものなんじゃないのかな。
 第18回で、現代に使われている「平均律」という音律はオクターブ以外がハモることはないと説明したけれども、だけど「純正律」は本来、半音や短音階を想定していないんだ。でもだからといって、音の協和を求めて平均律に否定的な人たちが短3度音程や短三和音を使わないのかと言ったら、もちろんそんなことはないんだよね。
 これはつまり、その人がどんな様式や音楽理論をよしとしているのかということなんだと思う。

 これは音楽の歴史を見てもわかることで、昔は禁じられていたり避けるべきとしていた和音に「増三和音(ぞうさんわおん)」というものがあるんだけど、こんな音なんだ。

譜例_43_01

 根音と第3音が長3度関係で、第3音と第5音も長3度関係。そして根音と第5音は増5度関係になっている。
 長3度は協和音だけど、その長3度を2つ重ねたら増音程ができてしまうし、これは不協和音。
 これは、その長3度を基音に対して5倍音、第3音に対して5倍音という、倍音関係で音律を作っても変わらない。

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 下向きの矢印が付いているような見慣れない臨時記号が出てきたけど、これは5倍音関係をあらわす微分音記号だよ。これでC音に対してE音が5倍音から作られた、G♯音が5×5で25倍音から作られた音であることをあらわすんだ。E音、G♯音がそれぞれ14セント、28セントほど低くなっているから、協和しているかはともかく、平均律の音に耳慣れていると、ちょっとこもって聴こえるかもしれないね。

譜例_43_03

 前にも倍音の表は紹介したけれども、14倍音を越えるあたりまで音が高くなると、ほとんど半音階なので協和するとかしないとか、あまり関係がなくなっちゃう。

質問_2020051110440000

 音名としてはA♭音とG♯音は異名同音だけど、この13倍音のA♭音は40セントほど高くて、ほとんど四分音で言うところのAハーフフラット音なんだ。5倍音を重ねて作ったG♯音はじつは平均律のG♯音より27セントも低いから、第13倍音のA♭音はそれよりも70セント近くも高くて、完全に別の音だね。
 せっかくなので、C音、E音、Aハーフフラット音の和音や、5倍音のE音と第13倍音のA♭音を使った和音も紹介しておくと、こんな響きだよ。それぞれ10セントくらいの差しかないから、ほとんど同じ音に聴こえるかな。

譜例_43_05

 ハーフフラットが重なったような、見慣れない記号は13倍音関係をあらわす記号だよ。
 この5倍音や13倍音をあらわす臨時記号は特に今は覚えなくてもいいし、話もだいぶそれちゃったけれども、ある特定の作曲法や、ある特定の時代区分、様式論などの中で考えるならばともかく、自由に曲を作る上では、結局はそれって作曲者の持つ音に対する考え方がどうなのかということだから、何が和声音で、何が不協和音なのかは作曲者自身が決められるものなんじゃないのかなと、僕は思っているんだ。

 というわけで今回はここまで。なんだか補講みたいなお話になっちゃったね。
 次回は、せっかく和音について勉強しているんだし、和音に特化した楽器にも触れてみようかな。

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