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心地よい温度


好きな人にはずっと触れていたい。

髪の毛から頬から指先まで。ぜんぶ。
形を覚えるように撫でて触れていたい。

それはきっと、惹かれている人同士なら
お互いそう思うことは自然なこと。


でも、わたしは、
目の前に人の手が伸びてくるのがすごく怖い。

昔の経験からか、どうしても怖くて、
叩かれる!と思って身体を守ってしまう。

そんなこと話しても理解してもらえないから
誰にも話したことはなかった。

あまり気付かれることでも無いし。


でも、あなただけは違った。

キスをしようと頬に触れてくれるときも
頭を撫でてくれようとするときも
髪の毛を直してくれるときも。

優しく触れようとしてくれているのは
分かっているのに反射的に身構えてしまう。

それをまだ付き合いが浅いときに彼に見抜かれて
「大丈夫。怖いことは無いよ」
と、すぐに言ってもらえた。

「ゆっくり目をあけて。大丈夫。大丈夫。」

なんて穏やかな声だったんだろう。

恐る恐る目を開けると
あなたが愛おしそうに微笑んで
わたしを見つめていてくれた。

わたしはそれが嬉しくてあなたに抱きついて
「ごめんね」と言ったけれど
「なにが?」とそう言って笑って
抱き締め返してくれて
何も聞かないでいてくれた。

今まで抱えていた悩みのようなものが
全て消えてなくなったのを覚えている。
すごく安心したの。

それから彼はわたしに触れる時に
目の前からグッ。と手を伸ばすことはやめた。

視界からなるべく外れるように
抱きしめてから触れたり
顔を触れる時は特に
「触れるよ?」と一言断ってから触れたり
わたしを怖がらせないように
触れてくれるようになった。

いつもお互いにふざけてじゃれあって
楽しい時間を過ごしているのに
そういう優しさがあなたにはたくさんで
愛情深くて心が広くて
溺れてしまいそうになる。

愛情表現が苦手なあなたが
一生懸命わたしにだけは
向き合ってくれているのがすごく嬉しい。

あなたの優しさに守られて
少しだけ、わたしのことを好きになれる。


落ち込んでいる時も、弱っているときも
あなたはそばにいてくれる。

「抱え込まないで話して欲しい。
気を遣うな。その方が嫌だ。」

そう言ってわたしの中にズカズカと入ってくる。

わたしがわたしを守る隙さえ与えてくれず
容赦なくいとも簡単に入ってくる。


でも、それに嫌な気はしない。

気付いたときには
あなたに身を預けて守られている。

あなたの優しさを
あなたの愛情を
溢れるほど受け取って
ぬるま湯のような関係が心地いい。

誰かを愛おしいと思ったり
優しさを与えたいと自然に思える相手がいるということは、どれだけ幸せなことなんだろうか。

あなたに触れながら
わたしに触れながら
もう少しだけ、このぬるま湯の中で
心地よく溺れていたいの。


時間が許す限り。もう少しだけ。




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