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民族共生象徴空間「ウポポイ」から見る「アイヌ」と「日本人」

室蘭に移り住んで早10ヶ月、ようやく「民族共生象徴空間『ウポポイ』」に訪問してきた。

今夏は異常な数の「ウポポイ」広告が全道的に打たれており、そのおかげで訪問前は「政府主導の対民族問題緩衝施設」みたいなイメージを持っていたものだが、実際行ってみると全く違う印象になったため、その感想をざっくばらんに残しておこうと思う。

○僕らは「侵略国家」の末裔
ウポポイに入場して目の前にあるのが「国立アイヌ民族博物館」だ。
博物館1階にはシアターがあり、そこでまずアイヌ民族の歴史と現代に至るまでの過程を見ることが出来る。
(※注:他にも映像コンテンツがあるので回に注意)


そこでは僕ら「日本人」は「和人」という異人であり、「アイヌ」と「和人」がどう関係性を築いてきたかが描かれている。
先住民族アイヌの土地へ進出した和人松前藩と幾数回の衝突、江戸幕府による不平等交易の強要、明治に「開拓」を掲げて以降の言語、文化剥奪を用いた同化政策…といった侵略から、現代での先住民族認定や文化復興の話までだ。

いまや北海道から沖縄まで「日本」とされ、度々それは「世界で最も長く続く国家」と称される。しかしこの展示を見たあとは、確かに核である「日本」は変わっていないが、帝国主義の旗本に我正義と周囲を侵略してきたことを忘れずに見つめるべきだなと思った。
それを忘れることは「日本人」である僕らが、「日本人」であるためのアイデンティティを放棄することに他ならないだろう。

○アイヌは前時代的生活を望んでいるわけではない
博物館2階は展示室だ。
そこではアイヌの文化、歴史がひとつの空間に展示されている。展示は良くできていて分かりやすく、係の人も質問に対して丁寧に対応してくれた。いい博物館だ。

個人的に1番印象に残ったのが、アイヌはいまどう暮らしているのかを12人分個々にフィーチャーした展示だ。
そこには白老町のメーカーで営業している人、コーヒー好きが転じて海外でコーヒー屋を営んでいる人などで、いわゆる『アイヌ』的な生活をしている人はほぼいない。
けれども、彼らのアイデンティティは『アイヌ民族であること』にある。と強い意志をその展示から感じた。

アイヌの復興が取り沙汰されるようになり、それらのニュースを聞いた時、僕ら「日本人」は「彼らはいわゆる『アイヌ』の生活に戻りたいのかな?」というイメージを持つことが多いだろう。
しかし、彼らは望むのはそうではなく、「日本人」の同化政策により無かった事にされた先人達の文化、およびその先に立つ自分達を認知、受容して欲しい。といったことなんじゃないだろうか。

自分の思慮が未熟なことを痛感しつつも、ここではかなりインパクトを受けた。

○節々に感じる違和感とその正体
博物館以外のエリアでは、アイヌ文化の展示、実演、体験が出来る。特に実演では実際のアイヌが、アイヌの挨拶や祭祀を演じてくれる。作り物ではないのだろうと肌で分かるが、日本人と同じ顔で、日本語を混じえて話す彼らに強い違和感を感じた。

また、ウポポイではアイヌ語が公用語とされ、あらゆる看板にアイヌ語での記載がなされている。しかし、アイヌ語は文字を持たないため、全て「日本人」の文字であるカタカナで記載されている。

上記の2点から、日本人の侵略によって日本人の文化が混ざりこみ、「純粋」なアイヌ文化は失われ、それはどう足掻いても返ってくることはないのだなと理解した。
これはなかなか厳しい。日本人である自分が論ずることでもないし、白黒論でもないが、かなり厳しい。

○同化政策の威力
日本政府が実行したアイヌへの同化政策は、日本語の強要、伝統的な刺青や装飾の禁止、狩猟の禁止が主軸だ。
文字を持たないアイヌでは、言語を封殺されると急速に文化が消滅していったであろうことは想像に難くない。その上で、身体の自由と生業を奪ったのならばもう骨抜きだろう。そんなアイデンティティを根こそぎ奪われた彼らに、日本文化を注入することは容易だっただろう。

当時は世界のあちこちで似たような事がやられていただろうが、あまりに強力で暴力的な施策だということが分かった。
また焼け野原になった日本とそこに降り立ったアメリカの影響や、津波に土地を流された東北にも思いを馳せることになった。どれも大変に厳しいことだ。

○『ゴールデンカムイ』すごい
アイヌといえば『ゴールデンカムイ』だろう。ウポポイの売店でも売っていた。詳細は割愛するが、面白いからとりあえず読んでくれ。


あの漫画はストーリーに関係なくね?と思う程度に、アイヌ文化の解説にページを割いているのだが、どれも博物館での記述と整合性があった。作者は相当なアイヌオタクだろう。

また、和人の杉元とアイヌの少女アシリパがコンビ主人公で、日露戦争後の時代が舞台の漫画なのだが、アシリパはしばしば「わたしは『新しいアイヌ』だ」と自称する。
それは和人に侵略、弾圧される中でもアイヌとしての文化は守りつつ、和人文化を拒まず折衝を探るという意思表現なのだが、実際当時のアイヌの中にあった思想だったんじゃないか。

また、和人杉本は過激なアイヌ文化(ex.鹿の脳を食べる)に困惑しつつも、それを否定することなく受け入れようとする。
『ゴールデンカムイ』には、文化の混合は避けようがない現代でのひとつの「正しさ」が描かれているのではないかと感じた。
すごい漫画だ。

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以上、感じたことをバーッと書き出してみたが、いい施設だった。まさに『民族共生象徴空間』だ。
北海道胆振地方に来た際には、ぜひ多くの人に行って欲しいと思う。

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