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元気をもらったあの食事 肉骨茶

日清オイリオの応募投稿のお題「元気をもらったあの食事」に、この不思議な名前のシンガポール名物(マレーシアでは自分たちが本家というが)の、肉骨茶、バクテについて書いてみます。

おそらくこのお題、食事そのものはシンプルにたとえばカレーライスとかお茶漬けとか焼きそばで、そのごく普通な食事をとった状況が人生の転機でその元気になった心打つストーリーを募りたいという素晴らしい企画なのでしょうか。べたに、元気がでるスタミナ食事のお題ではないのかなとも思いましたが、めげずに、当地シンガポールに20年近くお世話になって何度も元気にさせてもらっているスタミナ料理そのものについて書いてみました。

バクテについての由来やら名店の食レポは、情報が氾濫する現代、敢えてここに再掲する意味があまりないですし、今時、気の利いた文章はAIが書いてくれますので、徒然なるままに脱線しながら私とバクテのエピソードを綴ってみます。

「シンガポールのペニシリン」

当地シンガポールは北緯 1 度とほぼ赤道直下、熱帯モンスーン気候で常夏なんですが、毎年、旧正月が終わったころから6月頃まで、かなり暑いんです。

とくに5月は、日本の8月のような猛暑で、夜も温度が30度近くなる熱帯夜も多いんです。その後、7月、8月は逆に風が吹いて、日本より過ごしやすかったりしますが。

理系脳でないのでいい加減な推測ですが、日本も夏至の2か月後の8月に暑さのピークだったり、一日単位でも太陽が正午頃に一番高いのに午後2時頃が暑かったりするように、おそらく春分の日の頃に当地の赤道上空で一番高いところにある太陽がこの地域を熱してその熱が5月頃にピークを迎えるのかと想像するのですが、春分とともに、毎年暑い時期の到来を覚悟します。ちょうどこれを書いている今がそうです。


5年くらい前のある年の5月、こんな英語の表現を聞きました。

オーストラリア人で、当地に10年くらい住んでいる知人が、ぼやいて言います。

「毎日暑いよな、たまんないよね。こういう時は、シンガポールのペニシリン、バクテを食って元気つけるしかないな」


どーんとスペアリブ1本のバクテ(深夜版)

なるほど、ペニシリンとは言い得て妙。たしかに、胡椒や漢方もたっぷりはいっているらしいこの豚肉スペアリブのスープは、薬膳の様でいて、がつんと胃にたまって、体に必要な滋養強壮を与えてくれそうなんです。夏バテや暑くて不眠症だったりの5月に、がつんと食いたくなります。元気になります。

たしか、19世紀初頭に、イギリス人がこの島シンガプーラをマレーの王様から買って港町を建設しようと招き入れた、主に中国南部からの移民労働者が、灼熱の中での過酷な労働に耐えるために考え出したともいわれるのがバクテです(諸説あり)。

労働に耐えるために飲まなくてはいけない、苦くてまずい漢方スープを、こってり旨いスペアリブとニンニクのスープに仕立てたんだろうなと、いつも飲みながら想像します。食い物の発明については、中国人、貪欲でクリエイティブだとつくづく感心します。

似たような話は、昔ブラジルでも聞いたことがありましたっけ。

日系移民がアマゾン地域に入植した際に、あの熱帯で、日本同様にご飯に塩魚に一菜の食事の日系人がばたばた倒れた。それで、地元民が食べていたこってりの肉や臓物や豆の煮込みを真似して食べたら、元気が出たと。やはり、それぞれ気候にあう、元気の素となる食事があるんだなという教え。まあ、このブラジル日系移民の場合、現地の飯にあわせたという話で、移民が新たな気候にあわせた食事を作り出したということではありませんが。

このペニシリンという表現、知り合いのオーストラリア人Dは日ごろから表現が独特でおもしろいやつなので、英語の定番表現ということじゃなくて、彼独特の言い方なんだろうと思っていました。

これ、けっこう海外で「あるある」で、TVのキャスターとかじゃないかぎり、ネイティブ話者だからといって、日常しゃべっている文章が必ずしも文法的に正確でなかったり、表現が一般的というよりその人の口癖だったりすることがあるということ。なので自分も、日本語学習中の外国人と話すとき、日本語で文法は正しく、なるべく凝った表現は使わないようにと心がけていますが。

ところが先日、インスタをなにげなく見ていたら、なんとなんと南都銀行、「the Pastina, Italian grandma's penicillin / パスティーナ、イタリアのおばあちゃんのペニシリン」とうまそうなスープが紹介されていました。ペニシリンって英語の表現があったんだ。

多分、誰かがどこかで英語で書いた文章で、万能薬となるローカル飯をペニシリンと表現したのが広まったんでしょうね。

探したらもっとでてくるかもしれませんね。各国滞在の英語話者が書いていたりするかもしれません。「日本のペニシリン、梅干し」とか、「韓国のペニシリン、参鶏湯」とか、「メキシコのペニシリン、ウィットラコーチェ」とか(最後のはトウモロコシに発生する細菌性の病気で黒くなったトウモロコシでまさにペニシリンみたいな作用があるようです。見た目悪いですが、タコスの具として美味いです)。

「バクテのテーブルマナー」

マナーなんてないんですが、自分なりに会得した食べ方のご紹介です。

昔ながらのバクテ屋は、朝早くオープンして、店によっては昼頃には閉まってしまう。朝飯型の店。

そこには飲み物はビールなどなく、お茶が基本。テーブルの横に炭火のコンロがあって大きな薬缶がぐつぐつと煮たっていて、まずはそのお湯で、テーブルにある箸とか皿とかを熱湯消毒してました。20年近く前の話で、更に昔の衛生状態が悪かったころの名残か、いまでは十分清潔なのでこの消毒は不要ですね。過去10年くらい消毒をやった記憶がありません。ポイントは朝方のスープをメインに白いご飯を食べる店では、飲みものは基本は中国茶だという点。

昔来た頃は、うちの子供も小さくて胡椒の辛いのがダメだったので、家族でランチにバクテに行くときは、とある店であまり胡椒がきいてないのも出す店に行ってました。

スープの味は基本は、かなりペッパーリー、胡椒が効いていて、さらになにか知りませんがちょっと漢方的な味がちょっとします。大人の食べ物ですね。

基本となるのは、豚からでてくる濃厚なスープ。濃厚といってもトンコツみたいな乳化して白濁したのでなく、クリアスープが基本。まったくクリアなのと、味付けからくるのか醬油色の濃い色のがあります。ラーメン屋といっしょで店ごとにスープがけっこう違います。

注文するとすぐに、バクテのスープでスペアリブが1、2本ごろっと入っているのがでてきます。

いつも、カイランとか空心菜とか野菜を1品頼んで、バクテ・スープと白いご飯と食べてました。ときには、パンみたいな麩みたいな油条の輪切りも頼んで、バクテにつけてひたひたになったので更にスープを堪能したりします。

スープの中の具のスペアリブは超熱いので、僕の流儀は、すぐにスペアリブをご飯の上に移動させて冷ます方法。これ重要なポイントで、なぜなら、店のおばはんが小さなポットとともにテーブルを巡回して、スープをつぎ足しにくるんです。そう、スープはおかわりありの飲み放題。そういうおばはんの動きがみえない店があったとしても、店員に「加湯、じゃーたん」と言うとポットをもってきて加えてくれます。これ、ありがたいのですが、このお蔭でスープがいつも熱くてスペアリブが手でもてなくなる弊害ありなんです。ほかに皿もくれないので、結局、ご飯の上に置くことになりますが、これ、スープがご飯に染みてきて一石二鳥の食べ方でもあります。

スペアリブ丼みたいですが載せて冷ましているだけ

それで、スペアリブが骨を手で持てるくらいに冷めたら、手で骨のところを持って食べます。

肉はそのまま食べても十分美味いんですが、テーブルにある、真っ赤な唐辛子の輪切り数個に、醤油のような調味料差しにはいった、かなりどろっとした煮詰まった醤油のようなのにつけたりもします。ちょっと甘い醤油という感じです。それにスペアリブをちょいとつけて食べます。唐辛子はかなり辛いので要注意です。

唐辛子と甘い醤油

食べ終わった骨は、昔はテーブルの上に直接ほっといたのですが、最近は骨入れみたいな入れ物がある店がふえてきた感じがします。近代化ですね。フードコートは年々清潔におしゃれになってきてます。

基本的に、普通の日本人のシンガポール在住者はバクテが大好き、嫌いだという人はまだあったことがないですね。基本、うまいスープですからね。

そしてスープを何度か飲んでいると、これって麺いれたら、うまいラーメンできるんじゃね?とみんな思いつきます。

これ面白い発想なのですが、今のところ僕の結論は、麺よりご飯が合うというもの。

バクテ屋で細い麺の料理を別途出しているところで、麺だけ出してくれと頼んでバクテにいれてみましたが、いまひとつ物足りない。いろいろ試行錯誤しましたが、朝食やランチで食べるときは、白いご飯に勝るコンパニオンはいないですね。

さらに不健康ですが、バクテは、当地での飲み会での最後の深夜の締めのラーメン的な使い方も可能です。

バクテ屋によってはかなり遅くまでやっているというかほぼ24時間営業で、明け方から早朝にバクテをたべているローカルもみますし、深夜零時すぎにバクテを食べる人でにぎわっている店もありますね。私が懇意にしている店は、夜でも零時前ならビールも飲めます。そして24時間営業。

じつは昨夜、日本から古い知人の日本人がきていたので、深夜2時に飲み会締めのバクテしてしまいました。上にスペアリブ1本(深夜版)と載せた写真のものです。

コロナもあったので、3年ぶりくらいの久しぶりの締めのバクテでしたが、さすがに健康を考えて、ごはん無しで、スペアリブを齧りながらそれをスープで胃に流し込んで、帰路につきました。

昨夜はBoat Quayという繁華街で、5時間ほど、したたか飲みましたが、最後の深夜バクテのお蔭でしょうか、今朝起きたら、頭はすっきり、胃腸は好調、血圧だけちょっと高めでありました。

肉骨茶、ありがとうございました。 ■






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