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フォーレスト・ガンプ

90年代前半、まだ独身で、米国で働いていた頃、封切られてやっていた映画「フォーレスト・ガンプ」を観た。

いっしょに観に行ったアメリカ人の知り合いと、終わってからバーでビールを飲みながら話していたら、こんなことを聞いた。

このフォーレスト・ガンプって、映画のほうは、ビル・クリントンのカリカチュアーなのよね。

別にカリスマも、秀でた指導力もなくて、ごく普通なんだけど、たまたま、時代を変える場に居合わせて、やることがまさに時代を変える



たしかに。ちょっと知恵遅れとデフォルメされて描かれている主人公は、たまたまいくつもの時代の偉業を成し遂げていく、というかそこに同席していくという設定だった。時代背景はクリントンから20年くらい前としてあったが。

思い出せるのだけでも、米中国交回復ピンポン外交、ベトナム戦争、ウォーターゲート事件。なぜか主人公はそういう場面に登場して、結果として活躍する。

映画がたしか93年か94年の封切りで、ビル・クリントンは93年1月に就任していた。

南部の田舎のアーカンソー州知事出身。シングルマザー家庭で奨学金で大学、秀才の奥さんに尻に敷かれている。ジョギング好きで、趣味でテナーサックスを吹く趣味人。

映画のほうは、たまたま事件に居合わせる凡人が変えていく時代。なるほどねえ、と変に納得してしまった。

日本でも、そんな風刺小説というか、気の利いた比喩を沢山盛ったフィクションで、時代を総括するような文学作品はないんかなあ。


たとえば、こんなの。

ごく普通の、ゴルフと駄洒落が好きな、人のいい主人公。

たまたま、生まれてきた家に家業、ファミリー・ビジネスがあって、否応もなくそれに巻き込まれていく。

創業者の、とても狡猾なお爺さん、権力の頂点までのし上がるまでに、闘争や貸し借りを沢山作ってきて、その貸し借り人脈そのものが権力構造を支えていた。

そして2代目社長も、それを受け継ぎ、その家業で頭角をあらわしていくが、頂点を極める前に、惜しくも病で生を終える。

それを引き継いだ3代目、その物語。

本人もやりたくて継いだわけじゃないんだが、まわりが自分しかいないと説得する。お爺さんにも、親にも、口外無用守ってほしい、家業としての掟があって、家族のおまえにしかできないんだと強く言われる。

家業で掲げる商売の「暖簾」は、反共、明快な保守主義と、独特なナショナリズムそして家業の権力基盤の利権擁護。

本人は、主義主張は実はなくて、ほんとうは軽く駄洒落でもかまして演説したいのだが、あくまでも3代目、家業の伝統を大切にブレずに、嫌な取引先にも頭を下げ、来るもの拒まずフットワークよいことを信条に、自分なりに頑張っていく。商売を展開するなかで、業界の恥部にも触れ、ストレスで持病が悪化したりする。辛い日々。

みんなから嫌われていた取引先の新社長に、いちはやくゴルフのクラブをプレゼントに飛んでいったりもした。

無茶苦茶な経営やっている競合企業のワンマン社長に談判しに行こうともした。

彼なりに考え、できることはやった。一生懸命やった。

基本、努力と苦労ばかりの彼の人生。業界地図ががらっと変わることもあった。家業も首位転落、挑戦する側にまわることになったり、身内の中でもいろいろとごたごたもあった。世紀が変わって、世界も激動の時代になった。そこに、ずっといて、ある意味、激動の時代になかなか得難い、安定の常連さんの立ち位置もやってきた。

もちろん、いい気になって、自分は権力乱用のつもりはなかったが、個人的な嗜好を優先させたりはあった。そのくらい、いいでしょ、と自分では思っていた。

そして、自分でもわかっていた。

自分を家業をとりまく権力構造が、彼の家業のネームバリューを使って動いていて、知らぬところで自分がそうしたいと言っていることになっていたりすることを。

それを否定すればその構造が崩れ、崩れると家業の基盤も崩れる。じいさんの頃からの家業だから、しょうがないやと。自分は3代目、家業を守ることが使命と。

そんなフィクションのストーリーは、混沌とした展開の末に、最後のクライマックスで悲劇をむかえるのだが、それだけは悲しいな。やはり、小説には、悲劇からの救済、「救い」がほしいですね。

やはり、救済のテーマは「愛」ですかね。


子供に恵まれなかった夫婦。

政略結婚的にアレンジされて、有力な取引先のお嬢さんとお見合いして結婚したのだが、なぜかふたりは気があった。友達のような、仲の良い夫婦。

奥さんはお嬢さんらしく、世間知らずで暴走したり、自分の商売に泥を塗るようなこともやらかしたが、主人公は決して彼女を責めなかった。いつも、やれやれとため息をついて、火消しにまわる。

それは、unconditional な愛だったのかもしれない。

損得でない、本当にお互い好きになって一緒に過ごしてきたという。夫婦愛。

それが、なんらかの形で、ラストのやりきれない悲劇からの「救い」となるというあらすじ。

うーん、これは売れないな。書く人はいないかなあ。でも、読んでみたいと思います、あれば。だれか、書いていないかなあ。 ■





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