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【小説】ユア・アイリッシュ・パブ インバウンド繁盛記

「しんちゃん、それ、大きな間違い。外人はさ、1年、暗~い空の街で、毎日嫌々働きながら、今年の3週間の休暇はどこへ行こうかなとそれだけをおもって生きてるわけよ。で、タイのビーチとかに行くんだけど、今年は、職場のダニエル夫婦が行ったらえらくよかったという日本に行ってみようかとなるわけ。でもね、休暇でくるから、スシ、テンプラ、サケ、イザカヤ、だけじゃだめなんだよ」。 白あご髭と鼻髭をたくわえた初老のおやじが、中年後期の髪がちょと薄くなりかけてきた男にむかって、諭すように言う。

小説「ユア・アイリッシュ・パブ」後日譚

ぶぅん。 ロンドンに出張中のシンイチの携帯のインスタにメッセージが飛び込んでくる。 「えええええ、シンちゃん、ロンドンいるの?俺も昨日リバプールからロンドン入り。いつまで?」 懐かしい人からのメッセージだと、シンイチはまず思う。コロナで京都のパブを店じまいしたのが2020年の7月だからもう3年会っていなかった。ちょうど自分が昨夜インスタにアップしたロンドンの街並みの写真に反応したのか。 「マルさんも、イギリス!? You は何しにイギリスへ?私しゃ、明日金曜日の夜便で

【短編】アンデスの雪解け 世界の中心から一番遠い所でニヤリと眠る

大学の1年先輩にNさんという人がいた。ひょろっと背が高くて、短髪なのにボサボサの髪で、細長い顔がいつも日焼けしているような人だった。 日焼けの訳は、たしか登山部で結構山登りしていたから。当時、僕は中南米を研究するという学科にいて、そこの1年先輩だった。 その研究室は、先生が現地主義で、学生もどんどん現地へ行って来いという感じだったので、僕がその研究室にはいったときに、多くの先輩達がなんらかの形で中南米渡航経験者だった。遺跡の発掘の手伝いだったり、文化人類学のフィールドワー