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マジックアワー


「走りたいですね、逃げるんじゃなくて追いかける感じで」
「何を?」
「わかんないです、でも走りたくないですか?」
真意は全くわからないけれど、これ以上は野暮な気がして黙って速度を上げた

彼女が好きだと言うものは良いものなんだと思ったし
独特の好き嫌いもセンスだと思った
彼女にしか似合わないような洋服を纏う姿に
その世界観の中で生きる姿を生きづらそうだとも思った

「生きづらいくらいがちょうどいいんですよね」
「あんま聞かないけどね」
「なんか生きてるって感じがする、生きやすいとか違うとか、捉え方の問題なんでしょうけど」
「難しいね」
「難しく捉えちゃうんです、考えたいしそうじゃないと自分が薄くなる気がするんです」

飲み会の後、こうして歩くのが恒例だった
最初は何となく、好き嫌いが似ている気がして話しやすかった
普段は年下と思えないくらいしっかりしている彼女が、酔うと弱気になったり手を繋いでくるのが可愛かった
いつの間にか飲み会の次の日の予定は遅めに設定するようになった

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