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明日、うどん食べに香川行きませんか?


 日曜の19時。サザエさんが終わったタイミングで提案する彼女に、今週のサザエさんうどんの話だったのか、と思った。ご飯を食べて、なんとなくそのままサザエさんを眺める彼女の隣で、僕は最近ハマっているYouTubeを見ていた。

「うどん食べたいの?」
「うどんは食べたいです、けどうどんのために遠くに行きたいって感じです」
 同じ職場で働く僕たちは、大多数のサラリーマン同様土日休みが基本だ。本気で言っている訳ではないということは分かるけれど、その真意は分からない。

「香川でうどん巡りとか、したいね」
「ですよね、有名なお店に並んだりして、食べたことないくらい美味しいうどん探したいです」
 分からないなりに、彼女の想像に乗っかることにした。未来の話をよくする彼女は、実現のために口に出すというより、考えて口に出すこと自体が楽しいようだった。オーロラを見に行きたい話や、花屋とカフェとセレクトショップが混在する店をやりたい話、すごく高いドラム式洗濯機に憧れる話や、競馬で4億当たった後の話もあった。現実をよく観察している彼女は、感受性も想像力も豊かで、それがしんどそうな時もあった。

「明日、私たちが出勤しなくても、会社は回るし、もしずっと行かなくなっても、それはそれでみんな何とかなるんですよね」
「でも周りは大変じゃない?」
「それはそうなんですけど、そんなことしないですよもちろん、ただなんか、それって自分の居場所って言えるのかなって」
 言いたいことはこれっぽかった。自分の居場所について考えてどうなるのか、とか本音を言うと、もう何も言ってくれなくなる気がした。

「まあ、行くんですけどね、結局。現実逃避したかっただけかも」
 こっちの気持ちを透かしたように、話題を切り上げた彼女は、諦めて明日からの仕事のメンタルを作り始めたようだった。

「サザエさん症候群ってやつかな」
 そういえばお中元の話でしたけど、あの時代設定を続けていくのって大変そうですよね。

 うどんが食べたいみたいだった。

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