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途中から見ればなんだってドラマだと思いませんか?

 突然始まった思考の整理は、程よく肯定しながら聞き流すのがベストだ。

「映画やドラマって、主人公の人生の一部しか見ないからドラマだと思うんです」

「自分はドラマにも映画にもならないってこと?」

 まあ極論そうですね。掴みかけた核心をあっさり手放すように、汗をたっぷりかいたハイボールを掴んで流し込んだ彼女は、この話をどうしたいのか、考えるだけ無駄な気がした。

 ちょっとお手洗い行ってきます。言いながら立ち上がった彼女に道を開けて、ルーティンになっているゲームにログインしておく。今やっているイベントは結構頑張った方で、今日までだけれど悔いはない。ただ、年数回のイベントと毎週行っている彼女との飲みを天秤にかけてもなお、彼女が勝っているのはどうにかしたかった。

「なんか、日常ってドラマにならないけど、ドラマには日常があるんです」

「ほお」
 トイレで続きを考えたのか、再び核心を探し始めた彼女を邪魔しない相槌を繰り出す。

「自分の日常なんて、劇的なイベントでもない限り、自分の想定内である限り、ドラマにはならなくて、」
 息継ぎをするように身体にハイボールを入れる姿は、ちょっと令和ロマンのくるまに似ていた。良い意味で。

「他人の日常は、どこか全部自分とは違う気がして、何でもドラマになる気がするんです」
 だから、ドラマの中には日常があって、こっちもそれを日常だと認識するけどドラマとしては成り立つっていう、まあだから何って訳じゃないんですけど、

 途中から自信を無くしたのか、ただ単に会話に飽きたのか、分からなかった。

「そういえば、いつものゲーム、あれいいんですか?なんかイベントって言ってましたよね」

「うん、あれはもう終わったからいいよ」

 このゲームだって、彼女からしたらドラマなんだろうか。


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