Liam is Where did you come from.後編
腹部の痛みと揺れで目が覚める
「おや、起きましたか。ずっと寝ていてもらっていたほうが都合がいいのですが。」
「あー・・・ぁ?・・・―――いって・・・!」
腹部に鈍い痛みを感じる、手首には冷たい感触。
「貴方の右手は少々危なそうなので拘束させて頂きました。」
「おいおい・・・こんなゴツい電子手錠なんてつけやがって、ボクには似合わないだろ。」
「そうですか?お似合いですよ、無様で。」
この犬――狼森だったか。と楽しく歓談しながら手錠を観察する。
椛重工製第4・・・第3世代電子式手錠拘束具。材質は12層合金破壊は不可能・・・接合は溶接ではないな、仕込みの工具で分解はできる。義手の回路を使うか。
「ところで狼森さんよ」
「何です?」
「この無粋な塊のいいところは何だと思う?」
「そうですね・・・追跡が容易なこと、頑丈なこと、管理がしやすいところですかね。」
「全部正解~。でも一番のいいところを見逃してる!」
「ハァ・・・なんです?お喋りに付き合ってあげてるんですから早く言ってください。」
「組み替えれることさ」
狼森がハンドルを離し構えるが既に遅し、手錠・・・もとい粗暴な爆弾が炸裂した。
コントロールを失った車は鈍く派手な音を出しながらクラッシュする。
「オラッ!」
爆破に乗じて窓を蹴破・・・かったいなこの窓!
右腕に仕込んだブレードで扉を分解して外に出る。
犬は・・・まだ状況を読めてない。今の隙だ。
群がる人混みをかき分け裏路地に駆け出した。
「ハッ...ハッ....クソッ...!」
・
・
・
まだ義肢慣れきらない身体を酷使して走る。
「何なんだよ...!あの犬野郎はよ...!」
「また...犬と呼びましたね?」
少し影が差したかと思うと、意外なほど靭やかにその獣人ーーー狼森冴子は着地し、言った。
「・・・足で私から逃げ切れるわけが無いでしょう?いい加減大人しくしてください」
・・・しまったな。脱出したあとのことを考えてなかった。
「見逃してくれたりは?」
「しませんね。」
「だよな。」
じりじりと近づく狼森。さて、どうするか・・・
「逃げろォォォォォォ!!!!!!!!!!!!!!!!」
「!?」
「!?」
二人の間に男が走り込んで来る。
束の間、男に続くように人の波が押し寄せる。
「ッ!何です!?」
「あんた・・・環境課か!?ならアレ止めてくれよ!」
「アレは・・・パワードユニットですか・・・!」
男が指差す先には工業用のパワードユニット・・・中の男は昏睡しているようだ。
「チッ・・・今日は厄日です。」
狼森が長巻の鯉口を切る。
「ちょっ・・・ちょっと待て!」
「なんですか、また邪魔をするなら切り捨てますよ」
「違う!アレは今暴走状態だぞ!あんなん斬り伏せたら装着者が無事じゃすまない!」
「あなたはそんなの気にするタマじゃあ無いでしょう・・・どうすれば?アレ、貴方のとこの製品では?」
パワードユニットを注視する・・・ロックアウト製、と言ってもボクは関わってないモデルだが・・・
「あなた、解りますね?」
「・・・ボクを誰だと思ってるんだ?」
ゴーグルを装着し対象を注視、動力の流れをトレースする。バッテリーは・・・内部か、厄介だな。
制御ユニットと隣接しているようだ、同時に機能を停止させる必要がある。
「狼森サン!内部のバッテリーと制御ユニット!同時にやれるか!?後部ボックス32センチの所にケーブルが纏まってる!」
「ハァ・・・。」
狼森は不機嫌そうに眉をひそめる。
「・・・面白そうですね、試してみましょうか。」
一言発するとまるで散歩にでも行くように足を踏み出した。
――0.1
筋肉がしなやかに膨張する
――0.6
スーツが張り詰める程に膨張した筋肉が――爆ぜる
――0.8
弾丸の様に対象との間合いが縮まる
――0.9
火花を伴い鯉口が―――切られる
――1.3
鈍く、重い音に反して驚くほど鮮やかに、重機は一瞬で鉄塊へと姿を変えた。
――2.0
軽やかに着地すると、何事もなかったかのようにこちらに向き直る。
「これで良かったですか?」
明らかに別次元の動き、義眼でなければ追うことすら叶わなかっただろう。
「あ、あぁ・・・完璧だ。」
狼森はフフン、と得意げに鼻を鳴らすとにこやかな顔でこちらに向き直す。
「協力感謝します、リアム・ロックアウト。貴方のおかげで市民の安全が守られました」
律儀に礼をされる。人助けなど、いままでしたことがあっただろうか。
研究室に引きこもり、人を殺す技術ばかり作っていた。
転用され世のために生かされても、ロックアウトの「裏稼業」のために作られたのは変わらない。
今まで感じたことのない感覚。少しだけ、今日飲む酒が旨くなる気がした。
「・・・こっちこそ、おみそれしたよ、狼森サン。・・・また何かあったら、声かけてくれ。」
雑踏に向けて踏み出す。
日の光はいつもより明るく、歓迎されているようで―――
「それはそうと逃しませんよ?」
本日二度目の、鈍痛。
薄れていく意識の中で思い出したのは、朝飯を食い損ねたことだった。
・
・
・
――――環境課、取調室―――――
2時間ほど前から、鈍い音と呻き声が響いている。
狼森が呆れた顔で手を振り上げた時、不意に扉が開いた。
「調子はどうだ、狼森?」
「!課長・・・いらしたのですか。」
課長、と呼ばれた獣人は椅子に拘束されたリアムに近づく。
「こんばんは、リアム・ロックアウト。私が課長の皇だ。」
「へぇ・・・あんたが噂の女王様か、犬の躾ぐらいしたらどうだ?」
狼森の鋭い一撃、再び意識が飛びかける。
「そんなに痛めつけて大丈夫か?」
「えぇ、どうやら全身に補強が入っているようです。中途半端な義体化、訳ありのようですが。」
ふむ・・・と少し考える素振りを見せると、皇はリアムに顔を近づける。
「リアム・ロックアウト、お前に選択肢をやろう。」
なにを言い出すんだこの猫は
「一つ、このまま狼森に痛めつけられたのち、刑務所に収容される。お前は器用なようだから特別警戒エリアで拘束のオマケも付けてやろう。」
「そろそろ休暇がほしかったんだ、願ったり叶ったりだね。」
強がっては見たものの拘束付きとなると少し厄介だ。まず脱獄の材料が手に入るか・・・
「2つ目は?」
皇は表情一つ変えずに言い放った。
「我々の仲間になれ、リアム」
「課長!」
狼森が声を荒げる。
「黙れ、狼森。」
「しかし・・・」
「報告は聞いた、今の我々に足りない技術、知識をこいつは持っている。もし何かあれば私が責任を持って処分を下す。」
「・・・承知しました。」
・・・驚いた、どうやら大変な話になっているようだ。
「それで、どうする?リアム。」
「どうするも何も選択肢が無いだろ・・・いいぜ、但し条件を出させてもらうよ」
「いいご身分だな、聞かせろ。」
この忌々しい名は捨てたはずだった。
「・・・ボクをロックアウトの名で呼ぶな、あのクソ野郎どもの名で。」
「なんだ、そんなことか・・・いいだろうリアム。契約は成立だ。安心しろ、福利厚生は充実している。」
急な展開に動揺を隠しながら狼森に目を向ける。
「これから同僚だな?もう殴るなよ、狼森サン?」
狼森は訝しむようにこちらを一瞥すると部屋を後にした。
「まずは治療だな、医療係を呼ぶ。おとなしくしておけ。」
皇も部屋を出ようとし、ふと思い出したようにこちらを見る。
「あぁ・・・忘れていた。」
こちらに向き直り手を差し出す。
「環境課へようこそリアム―――共に良い環境を作りましょう。」
差し出された手を恐る恐る握り返すと、想像よりすこし、暖かかった。
面白い事になった。ハッピーの驚く顔が目に浮かぶ、あいつに顔は無いが。
・
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・
・
・
―――数カ月後
「いやぁ!懐かしいな冴子サン!」
「その話はもういいでしょう・・・大将、もう一本ください。」
赤ら顔の二人は上機嫌に酒を飲んでいる。
「あのときの傷、治すの大変だったんだぜ?骨格の補強にまでヒビ入れるなんてどんな力してるんだよ!あ、ボクも追加で。」
「貴方が聞き分けがないのが悪いんでしょう・・・あのときはまだ人員も少なくピリピリしてましたしね。」
狼森は少し恥ずかしそうに酒を含む。
その時二人の端末が同時に振動した。
「これは・・・緊急招集?ったく・・・最近多いんだよ、何が福利厚生しっかりしてるだ」
「私はともかく貴方は大丈夫なんですか?結構飲んでるでしょう」
リアムは赤ら顔のままいたずらっぽく笑う。
「大丈夫さ!ボクは―――」
「天才、でしたね。」
「そういうこと。」
「フフ・・・さぁ、急ぎましょう。」
席を立つと二人の課員は先程までとは別人のように、現場へと急いだ。
END
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CAST
皇 純香
狼森 冴子
リアム
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