見出し画像

オジサン、高校教師になる~第9話~

~教員採用試験・2次試験終了~  

8/17(木)夏期講習の真っ只中で2次試験の2日目、最終日が行われた。
1次試験合格時に2次試験の内容が公表されていたわけだが、その内容にはかなり不満があった。
というのも、2回に分けた2次試験の2日目は「集団面接のみ」だったのである。
なにが不満かというと、1次試験ですでに「集団面接」は行われていたのに、また集団面接、しかも、個人的にめちゃくちゃ忙しい中である。

この試験にあたって、スタッフに授業の代わりを依頼しなければいけない。
代わってもらうスタッフにだけ、今回のチャンレンジについて告白した。
表面上は、当然応援してくれる。
しかし、内心は複雑だったと思う。
というのも、会社の社長が転職しようとしているのである。
今後の自分の仕事や処遇、会社自体どうなるのか?いろんな思いがあったと思うが、とりあえず、引き受けてくれたことに感謝している。

当日は、まず会社で代わりの先生に授業の最終打ち合わせをして
生徒にも午前の授業だけ代わってもらうことを伝えて教室を後にした。

試験会場が近かったこともあり、会場近くの喫茶店に入り、前日から取り組んでいる準備の最終確認をした。
集団面接は得意であることが1次試験でも証明された。準備といっても特に何をすると考えたわけではないのだが、せっかくここまで読み込んできた「学習指導要領」の教科の心得的な内容をもう一度読むことを自分に課していた。

試験会場に着くと、暑い中、会場の外で数分待機させられた。
「こんにちは」そう挨拶してくれたのは、同じセカンドキャリア受験組のオジサンである。オジサンと言っても私よりは10歳は若いだろう。
1次試験でも顔を合わせ、待ち時間が長いねと私から声をかけた。オジサンの悪い癖だ(笑)
2次試験1日目でも受験番号が近かったことと集団討論が同じ組だったため、会場を出てから少しだけお互いの健闘を祈った、そんな同志である。
「こんにちは、しかし、集団面接2回目ですね」会うなり、私は愚痴をこぼした。
「そうなんですけど、セカンドキャリア以外の受験生は1次試験で集団面接してないんですよ、集団面接の代わりに一般教養試験やってますからね、私たちにはなかったですけど・・・、だから我々だけが集団面接2回目なんですよ」とさわやかに教えてくれた。
鋭い考察であるし、私がどれだけ自分のことしか考えていないかが露呈してしまった。

集団面接は面接官3人、受験生4名で行われた。
一般的な質問に自分の思いを語る場面も多かったが、重要なことはそこではない気がしていた。
「お答えは1分以内でお願いします」
円滑な面接進行のためと思われがちな前置きだが、始まると真ん中の面接官がストップウォッチを出して、しゃべりだすと1分を計測し始めた。

私はこれは1分を守ることが大事なんだとすぐに悟った。
ひとつの質問にほかの受験生が1分以上答えてしまい「はい、そこまでです」と止められていた。
私はすべての質問に要点を絞って1分以内に答えた。
1分の感覚も普段から塾の生徒相手に「残り1分で解説始めるよ」などと多用して時間間隔である。染みついている。

「では、最後の質問です。ご自身が指導される教科の魅力を1分以内に生徒に伝える模擬授業をしてください、少しお時間を差し上げますので、まとまった方から挙手してください」

今でもこの1問が私を合格に導いたと思っている。
教科の魅力?自分が思うことではない、学習指導要領に書いてあったことが頭をよぎった。
そう、この時のために、あの長い長い学習指導要領を読み込んできたのだと思う。

言語・文化・継承


そして、面接官の前に立った時、明らかに「カチッ」とスイッチが入る音がした。今まで25年間何時間も何時間も行ってきた授業の集大成がこの1分なのだ、相手を引き付ける声のトーンで話し始めた。

「みんなは受験のために国語を勉強していると思うもしれない、
でもね、国語、言語というのは文化なんだよ
そして、みんなはSNSで先生の知らない言葉も作り出してもいるよね
だからね、国語を勉強しているということは日本という国の文化のつないでいく継承者なるということで、そして、これからの日本の文化をつくっていく創造者になるということなんだよ。」

要約するとそんな感じのことをまさに目の前に生徒がいる口調で話しかけた。創造者というフレーズは完全オリジナルでその場で思いついた。
というより、その1時間前、ついさっきまで、実際の生徒の前で内容は異なるが語りかけていたのである。どれだけリアルだったか容易に想像いただけるだろう。

正直、本当にこの集団面接はやり切ったと思っている。これでダメなら、本当に後悔がないと思えるところまで、半年かけて準備してきたことを出し切ることができた。
2次試験はすべて終了した。


集団面接の結果は・・ほぼ満点だった。



いくつになっても夢を追いかけるオジサンのサポート、よろしくお願いします 頂きましたサポートはさらなる夢見る活動費に使わせていただきます。