見出し画像

第3回「特許の鉄人 ~クレーム作成タイムバトル~」を振り返って

第3回「特許の鉄人 ~クレーム作成タイムバトル~」(2023年7月18日、東京カルチャーカルチャー)に選手として出場させていただきました。以下は、その振り返り記事です。


1.出場にいたった経緯

 第2回「特許の鉄人」(2020年1月開催)が終了した数日後に、加島広基先生にご連絡をして、次回は出場させてほしいことをお伝えしました。第1回、第2回ともに会場へ行ったわけではないのですが、twitterのタイムラインにながれてくる皆さんのツイートから、「特許の鉄人」について、楽しそうなイベントという印象を持っていました。当時、twitterをしていたものの、リアルで知財クラの方とお会いしたことがありませんでした。「特許の鉄人」に出場すれば、多くの人に自分のことを知ってもらい、つながりができるのではないか、そう考え、加島先生に、「第3回は選手として出場させてください」とお願いをしました。加島先生からは、出場のご快諾をいただきました。ありがとうございます。

 そうこうしているうちにコロナ禍となり、リアルの場でのイベントが開催されることはなくなりました。今年に入り、ようやくコロナ禍も落ち着いてきて、第3回の開催となりました。私が選手として立候補してから時間もたっていましたので、加島先生から、出場の意思について、確認のご連絡がありました。

 このころになると、twitter経由での知り合い、リアルでお会いしたことのある方も増えていて、最初に出場のお願いをしたころの目的は、ある程度、達成できていました。出場するかについて少し悩みました。自分が即興で書いたクレームを人さまに見ていただくわけですから、恥ずかしいものを見せることはできない。そう考えると、出場するのに勇気のいるイベントですが、迷ったら、無難な道を選ぶより、チャレンジをする方を選びたいと思い、出場を決めました。

2.出場まで

 気になる対戦相手ですが、プロフィック特許事務所の谷和紘先生でした。谷先生は、弁理士育成塾の講師をされ、KTKクレームドラフティング研究班班長もされています。また、私と同じく、高橋政治先生の主催される知財実務情報Lab.の専門家チームのお一人です。知財実務情報Lab.のセミナー等でも、クレーム作成について講師をされており、手強い相手だという印象がありました。

 「特許の鉄人」は、発明ヒアリングからクレーム作成までを25分で行うというものです。少し余裕をもてるように20分くらいでクレームを作成する練習を何度かしたいと思っていたのですが、当日までその時間はとれませんでした。会場に向かう前に少し時間が取れたので、第1回、第2回の過去問のうち2問についてクレームを作成しました。時間のきびしさを事前に感じられただけでも、収穫でした。

 事務所から渋谷の会場「東京カルチャーカルチャー」へ向かいました。事務所を出る前に、事務所の弁理士さんから呼び止められ、twitterのアイコンで被っているプーさんの被り物を渡されました。このイベントにあわせて、ほこりを払い、陰干しをしていてくれたそうです。
 そういうわけで、プーさんをかぶって出場することになりました。さすがに、プーさんを最後までかぶりつづけるメンタルの強さは、私にはありませんでした(笑)。そして、被りつづけたままだと、プレゼンで何を伝えても、説得力がなく、皆さんに響かなかったのではないか、と予想をしています(笑)。それと、ふざけた格好をしていることに、司会の河原あずさんから突っ込みをいれていただいたにもかかわらず、気持ちの余裕がなさ過ぎて、気の利いたことを言えなかった自分を恥じております。

 少し時間は戻りますが、会場につき、開催時間が近づいてくるにつれて、緊張感が高まってきます。その緊張感をやわらげるために、事前に生ビールを一杯だけ、いただきました。出場選手の中で、事前にお酒を飲んでいたのは、私だけのようです。他の出場選手の皆さんのメンタルの強さはすごいですね。ちなみに生ビールを飲んだことによる頭の回転の鈍りはなかったです。

 控室にいくと、株式会社アールシーコアの勝間康裕さんがいらっしゃいました。1か月ほど前に、某飲み会でご一緒させていただいたのですが、勝間さんが発明プレゼンターをされるとは知らず、なぜ勝間さんが控室にいらっしゃるのだろう?と思っていました。1回戦が終わってから、勝間さんにお話をお伺いすると、飲み会でお会いした時には、発明プレゼンターになることが決まっていたとのこと。私の前で何も知らないふりをするのは、大変だったかと思います。勝間さん、ありがとうございました。

3.私の作成したクレーム

 お題は、「キンドリングクラッカー」(https://www.firesidestove.com/products/kincra)でした。
 お題が発表されて、正直なところ、何を書けばよいのか、イメージできませんでした。25分という短い時間ですから、早期に請求項1~5のおおよそのイメージをつけて、そのイメージを具体的に形にしていく必要があります。請求項1はなんとなくイメージがわくものの、その他の請求項はまったくイメージがわかず、書けるところから書きながら、イメージをつくっていくことになりました。

 また、この発明品を的確に表現するボキャブラリーをもっていないと感じました。通常であれば、発明を表現するボキャブラリーを持ち合わせていなくても、同じ技術分野の明細書、技術の専門書、Webの情報等を確認しながら、請求項に使用する文言をかためていくことができます。このイベントでは、そのような時間はありません。

 ただ、余裕のない状況だったからこそ、「25分間で、自分にできることをだしきって、クレームを作成しよう」と覚悟を決め、それに集中することができたのかもしれません。

a)請求項1について

 当日に作成した請求項1は、以下のようなものです。

【請求項1】
枠内で対象物を支持する支持枠と、
支持枠の下方に刃と
を備え、
対象物を支持枠内で支持をした状態で、対象物を上方から押圧することで対象物に対して刃に沿って加工をする加工補助具。

 請求項1は、「支持枠」としました。谷先生は、「ガイド」により「移動を規制する」と表現されていました。加工の対象物を「支持する」という表現よりも、「移動を規制する」という表現の方が適切ですね。この点について、谷先生、解説の奥村光平先生にも、ご指摘をいただきました。
 後日、「キンドリングクラッカー」のHPを確認したところ、薪を割る直前、薪はガイドと接していませんでした。つまり、ガイドは薪を支持していません。実際の使用状況をしっかりと把握できずに、「支持する」という用語を用いて表現したこと、「規制する」という用語を思いつかなかったことは、私の実力不足だと思います。

 請求項1は、「薪割り具」とはせずに、「加工補助具」の請求項としました。この発明は、加工の対象物を押圧することで、対象物を加工することができ、そして加工する際の安全性を考慮してガイドが設けられている点に特徴があると考えました。この発明品について、実際に出願された明細書でも、薪以外の物を加工することが記載されているようです。

 請求項1において「薪割り具」とした方が、「加工補助具」とするよりも、新規性・進歩性の拒絶理由をクリアーできる可能性は高いと思われます。ただ、ガイドがあることが特定されていれば、当日、提供された先行技術文献との相違点は出ています。仮に、出願人が、薪割り具を専門で製造・販売する企業であったとしても、将来的に、他の用途へ展開する可能性は否定できません。また、薪割り具以外の分野に進出をしなかったとしても、加工する物を限定しないで特許権を取得しておけば、薪割り以外の用途に限定して、ライセンスできるかもしれません。そういった可能性を考慮すると、加工の対象を薪以外にも適用できるようなクレームにしておきたい。薪割り具への限定は、審査官からの拒絶理由を見てからでも遅くはないと考えています。

 また、請求項1では「割る」という表現を用いていません。「割る」こと以外にも「加工」はあるだろうと考えたからです。例えば、「割る」以外に、切れ目をいれたり、亀裂をいれる、といった「加工」が考えられます。
 ガイドは、加工対象物を割ったときの安全性を考慮したものですし、「割る」に限定しても影響は少ないと考えることもできます。ただ、「割る」以外の加工にも、この加工補助具を利用できる可能性がないかを検討する余地を残すためにも、「加工」と表現をしました。

 実際の発明ヒアリングの場では、発明者は、他の加工対象物にも適用できる可能性や、「割る」以外の加工方法にも適用できる可能性に、気が付いていない可能性もあります。発明者がとらえているより、上位の概念で発明を捉え、それを伝えれば、発明者から更なるアイデアを引き出すことができるかもしれません。「割る」以外の加工方法でも、安全性の問題を解消するために、ガイドがあった方がよいなどの情報を引き出せたら、しめたものです。

 刃が上を向いていることについて、「対象物を上方から押圧することで対象物に対して刃に沿って加工をする加工補助具」といった機能的表現を用いました。私は、今回の発明を、「対象物を押圧することで、対象物を加工することができ、そして加工する際の安全性を考慮してガイドが設けられている物」であると捉えていました。ですから、請求項1では、対象物を押圧して加工できることさえ特定できれば、OKと考えていました。
 この点について、解説の鮫島正洋先生から、請求項1において「刃が鉛直方向を向いている」ことを特定しなくても問題がないかについて、ご指摘をいただきました。これについては、当日、回答をしましたように、上方から押圧することで対象物に対して加工できる、という機能的表現を用いることで、「刃が鉛直方向を向いている」ことも包含するような表現になっていると考えています。

 このような機能的表現を用いることで、構造や形状そのものを特定するよりも、権利範囲を広げることができるのではないかと考えています。例えば、刃が斜めを向いていても、刃が横を向いていても、加工対象物を加工することはできます。機能的表現であれば、これらも技術的範囲に含めることができます。もちろん、刃が鉛直方向を向いていることが最も実用的であると思いますが、それ以外も技術的範囲に含めることができるのであれば含めたい、という意図です。
 加工対象物を「割る」ではなく「加工する」という表現を選択したことを考慮すると、機能的表現を使わざるを得なかった、ということかもしれません。きりがないのですが、「加工する」という表現を選択したため、「刃」についても、より上位の概念とした方がよかったかも、と考えてしまいます。
 機能的表現は、一歩間違えると、願望クレームとなり、明確性違反等の対象となりますが、出願時の技術常識を考慮して、請求項の記載から発明を明確に把握できれば、明確性違反とはなりません。今回のケースも、明確性違反にならないと、考えています。

 請求項1を書き直すとしたら、以下のような感じでしょうか。
 
【請求項1】
ガイドと、
ガイドの下方に設けられた刃と
を備え、
対象物がガイドの内側にある状態で、対象物を上方から押圧することで、刃により対象物を加工することができ、
ガイドが、加工された対象物の水平方向における移動を規制可能である、加工補助具。
 
*谷先生、申し訳ございません。谷先生の表現を参考にさせていただきました。

b)請求項2について

 当日に、作成した請求項2は、以下のようなものです。

【請求項2】
支持枠が円形状を有する、請求項1に記載の加工補助具。

 この請求項は、イマイチですね。仮に請求項1で新規性・進歩性の拒絶理由をクリアーできなかった場合に、請求項2で拒絶理由をクリアーできるか? と考えると、引用文献の内容にもよるのでしょうけど、難しそうです。

 作成する請求項の数が5であるというルールを考えると、別の特徴についての請求項を書いた方がよかったですね。

c)請求項3について

 当日に、作成した請求項3は、以下のようなものです。

【請求項3】
台座と、
台座から上方に延びて支持枠を支持する支軸と
を備え、
台座と支持枠の上下方向を逆とした場合に、水平面に安定して設置可能である、請求項1又は2に記載の加工補助具。

 発明のプレゼンの際に、「キンドリングクラッカー」を上下に反転させることで、椅子として使用できることの説明がありました。請求項3は、これを請求項に落とし込んだものです。
 「キンドリングクラッカー」の上下を反転させた場合に、椅子として使用できるための条件は、
・上下を反転させた場合に、水平面に安定して設置可能であること
・上下を反転させた場合に、台座が座部として使用可能であること
が条件になるのではないかと思います。

 当日、作成した請求項3は、「上下を反転させた場合に、台座が座部として使用可能であること」は特定することができませんでした。この点は、反省点です。

 請求項3において「水平面に安定して設置可能である」と記載したのも、理由があります。水平面に安定して設置可能とするためには、多くの場合、ガイドの上面が平面状であるような構成が採用されると思われます。ですが、ガイドの上面が平面状ではなく、多少の凹凸があっても、水平面に安定して設置することができる場合もありますし、ガイドの上面が平面状であっても、突起が一つでもあれば、水平面に安定して設置することができなくなります。そのような例外を考慮すると、請求項において「ガイドの上面が平面状である」と表現するよりも、「上下を反転させた場合に、水平面に安定して設置可能である」と機能的に表現した方がよいのではないかと考えています。 

d)請求項4について

 当日に、作成した請求項4は、以下のようなものです。

【請求項4】
支持枠が、加工者が対象物を上方から押圧するための加工具の把持部の長手方向の長さよりも長い径を有する、請求項1又は2に記載の加工補助具。

 発明のプレゼンの際に、ハンマー等で薪をたたいた後、ハンマーが刃にあたらないことのご説明がありました。これを想定したものです。

 この作成した請求項4ですが、誤りがありました。「加工具の把持部の長手方向の長さよりも長い径を有する」は、正しくは、「加工具の把持部の長手方向の長さよりも短い径を有する」ですね。
 それと、後になって考えると、ハンマー等で薪をたたいた後、ハンマーが刃にあたらない理由を考えると、ガイドの内径に対して、ハンマーの持ち手の長さが長いことよりも、ガイドと刃との距離が、ハンマーのヘッド部の端部から把持部までの距離よりも長いことの方が重要であるように思いました。このことを、請求項4で表現した方がよかったですね。

 作成した請求項4には、もう一つ問題点があります。これについては、当日も気づきながら書いていました。プレゼンでも軽く触れました。それは、加工具(ハンマー)の把持部の長手方向の長さを用いて、「加工補助具」を特定している点です。ハンマーの把持部の長さが変われば、発明の技術的範囲も変わるため、発明の範囲が明確ではありません。
 ただ、「ハンマー等で薪をたたいた後、ハンマーが刃にあたらない」という観点を請求項に盛り込みたい、という意図があり、あえて記載をしました。ガイドの内径の具体的な数値範囲を用いて加工補助具を特定するのが、現実的な対応かもしれません。あるいは、方法クレームとするか、加工補助具と加工具のセットクレームとするのも1つかもしれません。

e)請求項5について

 当日に、作成した請求項5は、以下のようなものです。

【請求項5】
枠内で対象物を支持する支持枠と、支持枠の下方に刃とを備える加工補助具を利用して、薪を支持枠内で支持をした状態で、薪を上方から押圧することで薪を刃に沿って加工をする加工方法。

 請求項1~4までは、「加工補助具」の請求項でしたが、請求項5は、「加工方法」の請求項としました。請求項5が、他の請求項と異なる点は、加工の対象物を「薪」に限定したことです。

 加工の対象物が「薪」であることを特定する請求項として、例えば、「対象物が薪である、請求項1又は2に記載の加工補助具」といった請求項を設けることが考えられます。ただ、このような請求項ですと、加工補助具の構成を特定しているわけではありません。そうすると、薪が対象物であることは、方法の一要素として捉える方が適切ではないかと。こういった理由から、「加工方法」の請求項を記載することとしました。

 この他、「薪割りに用いられる、請求項1又は2に記載の加工補助具」といった請求項も考えられますね。この場合、加工補助具は、薪割りに適した大きさを有し、薪割りに適した素材でできた物である、と解釈することができそうです(特許・実用新案審査基準第III部第2章第4節「特定の表現を有する請求項等についての取扱い」では、「用途限定が付された物が、その用途に特に適した物を意味する場合は、審査官は、その物を、用途限定が意味する形状、構造、組成等を有する物であると認定する」とあります)。こちらの請求項でもよかったかもしれませんね。

 ところで、特許・実用新案審査基準第II部第1章第1節「実施可能要件(特許法第36条第4項第1号)」には、「物を生産する方法の発明には、物の製造方法、物の組立方法、物の加工方法等の発明がある。」と記載されています。ですから、請求項5に係る発明は、加工された薪を生産する方法の発明であると言えます。物を生産する方法の発明の場合、その方法により生産された物の販売等も、発明の実施行為となります。第三者による、加工された薪の販売行為に対しても、特許権を行使することができるかもしれません。
 この点、請求項5を作成した際には気が付いていませんでした。1回戦が終了した後に、高石秀樹先生から、物を生産する方法の発明の作成についてご指摘をいただきました。高石先生、ありがとうございます。

 私も勉強不足なので、研究が必要なのですが。薪を刃のある方向に押圧して加工することそのものは公知の技術ですし、発明の特徴であるガイドを設けることは、生産された薪(割られた薪)の状態に影響を与えるものでもありません。時系列でみても、ガイドが薪の飛散を防止するのは、薪が割れた後です。そう考えると、請求項5は、加工方法の発明として記載されているものの、実質的には、加工時に薪が飛散するのを防ぐ方法の発明とも捉えることができます。そのため、生産された薪の販売等にまで、特許権の効力が及ぶかどうかは、難しい判断となりそうな気もします。

f)請求項1で特許が認められなかった場合について

 クレーム作成後の質疑応答で、審査委員の木本大介先生から、もし請求項1で特許が認められなかった場合、どの請求項に限定するのか、クライアントにどのように説明をするのか、といった趣旨の質問がありました。
 私は、このご質問に、請求項3又は請求項4で限定することを提案すると回答しました。請求項3は、加工補助具が椅子として使用できることを想定したもので、請求項4は、ハンマー等を使用した際の安全性確保を目的とするものです。この「キンドリングクラッカー」を販売する際に、「椅子として使用できます!」、「ハンマーが刃にあたらず安全です!」ということを、商品のウリ(商品の独自の強み)にしたとします。もし、請求項3又は請求項4で特許を取得することができれば、競合他社は、同じような製品を販売することができません。「椅子として使用できます!」、「ハンマーが刃にあたらず安全です」ということをアピールして、商品の販売をすることは難しくなります。
 このように、マーケティングやセールスにおける商品の強み・特徴を、特許権で保護することができれば、他社に対する優位性をもって事業ができるのではないかと考えています。うまくお伝えできたかはわかりませんが、そういったことをお伝えしようと、木本先生からのご質問に回答をさせていただきました。

4.追加したいクレーム

 当日は書けませんでしたが、追加したい請求項が2つあります。

a)追加請求項その1

 追加したい請求項の1つ目です。

【請求項〇】
刃が、下方に向かうにつれて幅が広くなる形状を有し、
前記加工により対象物が割られた場合に、割られた加工物が刃よりも下方に落ち、加工物の下側先端が、ガイドの外側へ向かうことが可能な空間が存在するように形成されている、請求項1に記載の加工補助具。

 請求項1の従属請求項です。審査委員の甲斐先生からご指摘をいただいた特徴です。この請求項を記載することができませんでした。刃が、下方に向かうにつれて幅が広くなる形状を有することで、割れた薪が下方に落ちる際に、薪をガイドの下から外方向に逃がすことができるものです。
 ただ、刃の幅が広くなりすぎて、割れた薪が落ちる空間がなければ、割れた薪をガイドの下側から、ガイドの外側へ向かって逃がすことができませんから、「前記加工により対象物が割られた場合に、割られた加工物が刃よりも下方に落ち、加工物の下側先端が、ガイドの外側へ向かうことが可能な空間が存在するように形成されている」といった記載を加えました。

b)追加請求項その2

 追加したい請求項の2つ目です。

【請求項〇】
ガイドの下方に刃を設けた状態で、ガイドの内側の対象物を上方から押圧することで、刃により対象物を加工し、
ガイドにより、加工された対象物の水平方向への移動を規制する、方法。

 この請求項は、単純方法の発明です。この請求項には、「薪割り具」、「加工補助具」といった用語は用いられていません。これまでの請求項では、ガイドと刃が備えられた加工補助具が特定されていました。しかし、ガイドと、刃とが、それぞれ別々の物品である場合、ガイドと刃とを備えた加工補助具の請求項では、これに対抗することができません。
 例えば、加工の対象物を押圧して刃と接触させて、対象物を加工しているような事業所において、後からガイドを設置して、安全性を向上させる、といったことも考えられます。もしかすると、専用のガイドを製造・販売する企業がでてくるかもしれません。単純方法の請求項であれば、専用のガイドの製造・販売に対して、間接侵害であるとの主張もできるのではないか、と考えています。

 こうして見ていきますと、「キンドリングクラッカー」は、シンプルな構造であるものの、発明の捉え方、クレーム作成において考慮すべきことが多く、非常に面白い発明ですね。この発明品を出題すると決められた、加島先生の眼力はさすがですね。

5.時間をかけて作成したクレーム

 最後に、時間をかけて作成したクレームを、残しておきます。

【請求項1】
ガイドと、
ガイドの下方に設けられた刃と
を備え、
対象物がガイドの内側にある状態で、対象物を上方から押圧することで、刃により対象物を加工することができ、
ガイドが、加工された対象物の水平方向における移動を規制可能である、加工補助具。
【請求項2】
刃が、下方に向かうにつれて幅が広くなる形状を有し、
前記加工により対象物が割られた場合に、割られた加工物が刃よりも下方に落ち、加工物の下側先端が、ガイドの外側へ向かうことが可能な空間が存在するように形成されている、請求項1に記載の加工補助具。
【請求項3】
ガイド及び刃の下方に設けられた台座を備え、
ガイドが、ガイドと台座の上下を反転させた場合に、水平面に安定して設置可能となるような形状を有し、
台座が、ガイドと台座の上下を反転させた場合に、座部として使用可能な形状を有する、請求項1又は2に記載の加工補助具。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の加工補助具と、押圧具とを備える加工セットであって、
押圧具が、対象物を上方から押圧するための押圧部と、利用者が押圧具を把持するための把持部とを備え、
ガイドと刃との距離が、押圧部の対象物側の端部から把持部までの距離よりも長い、加工セット。
【請求項5】
ガイドと、ガイドの下方に設けられた刃とを備える加工補助具により、
薪がガイドの内側にある状態で、薪を上方から押圧することで、刃により薪を加工し、
ガイドが、加工された薪の水平方向における移動を規制する、加工方法。
【請求項6】
ガイドの下方に刃を設けた状態で、ガイドの内側の対象物を上方から押圧することで、刃により対象物を加工し、
ガイドにより、加工された対象物の水平方向への移動を規制する、方法。

6.まとめ

 25分という短い時間で請求項を記載するのは大変ですし、それを多くの人に見られながら、というのは、プレッシャーも非常に大きいです。ですが、選手として出場して、ほんとによかったです。是非、次回以降もこのイベントを継続していただきたいですし、多くの方にご参加をいただきたいです。

 自分の弱点を知れたことは、大きな収穫です。谷先生のように、いとも簡単に、発明品の形状・構造を的確に表現される人がいらっしゃる、ということを知ることができました。経験を積めば積むほど、自分ができないことを、さらっとやってのける人がいるのを、目の前で体験できることが少なくなります。この体験ができたことは、大きな収穫です。谷先生、ありがとうございます。

 会場にお越しいただいた皆様、オンラインにてご観戦いただきました皆様、ありがとうございました。
 このような貴重な機会を与えていただきました加島先生、司会をしていただきました河原様、発明プレゼンターの澤井様、勝間様、荻野様、第2回戦で選手として出場されました佐竹先生、綾木先生、ご審査をいただきました甲斐先生、木本先生、松本先生、押谷先生、ご解説をいただきました鮫島先生、奥村先生、当日の運営を滞りなく進めていただきました知財塾の上池さん、Miyaさん、スタッフの皆様、深くお礼申し上げます。ありがとうございました。

弁理士法人ライトハウス国際特許事務所
弁理士 田村 良介

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?