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宝石になる
大切に育てられた。
生誕を祝福され、不自由ない家庭に育ち、友人に恵まれ、いっぱしの大人になった。大きな病気もせず、お金の苦労もなく、犯罪に巻き込まれたこともない。
宝石のように扱われている、と思った。それはとても素晴らしいことで、稀有なことで、心から感謝することだ。なにせ宝石だ。愛されていたのだ。
でも私は自分がそんな大層なものだと思ったことはなかった。
まわりがどれだけ称えてくれようが、大切にしてくれようが、愛してくれようが。しょうもない、そこそこの出来の、メッキを貼りたくられた存在、それが私による私の扱いだった。自分のことは嫌いではないが好きでもなかった。ましてや愛するなんて論外だった。
そんなある日のこと。
唐突だった。
心を持っていかれた。
理由も理屈も知らない。とにかく好きで好きでしょうがない対象ができた。なんだこれは、と思った。胸に花が咲いたようだった。言わば、それは私にとっての宝石だった。キラキラを錯覚するほどの、いやたしかに感じたのだ、視界が弾けた。
そしてそのキラキラは私を侵食していった。
今まで素通りしていたものに意味が宿って、掃いて捨てていた日常が忘れたくない思い出になって、後ろより前を、下より上を見るようになった。
笑顔が増えた。幸せを感じることが増えた。好きなものが増えた。楽しいと思うことが多くなった。もっと一生懸命に生きようって思った。あの輝きに近付きたいって願った。初めて自分の生き様と向き合った。
そうして私は宝石になった。
自分を愛した。愛していなかった頃の自分も、それなりに生きてて偉かったって褒めた。例えこの先どんな未来が待っていようと、少なくとも今の私は最高に輝いてるよ、そう思うようになった。
人からどれだけ宝石として取り扱われても模造品にしかなれなかった私は、私だけの宝石を見つけて本物になったのです。
そして遥か一等星のような輝きに恋焦がれて、私もまたこの輝きを増していくでしょう。
了
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