Nature系列のOAの話

間違った形で解釈されてるのかな、と思うことがあったので整理。ざっくり言ってこの記事の部分的な和訳みたいなもんです。

そもそもの背景として、特にERCを筆頭とするヨーロッパの研究界隈ではあらゆる論文はOAになるべきだ、という流れがあります。

22.10.2020 CEST 09:30 追記:ヨーロッパだけではなく世界全体の流れだ、とのコメントを頂きました。僕はヨーロッパのことしか知らないので例えば日本やアメリカでどういう空気なのか知らないので、とりあえずヨーロッパでは、としておきました。OAにしていくべき、という雰囲気は個人的にも感じますが、ERCのように「ERCでやった研究は全て可能な限りOAで発表せよ、その費用はERCがもつ」という強い態度で向かっていくのはユニークなんじゃ無いかなぁと勝手に思っています(なんども言いますがヨーロッパ以外のことは知らないので知らない)。科研費やNIHとかでどういう形になってるのかぜひ知りたいです。

たとえばERCは論文の全てを可能な限りOAにするようにと要求してきますし、そのためのお金をERCのグラントにいれておくことができます。 DFGのグラントも、高い額ではないですが、OAのためにpublication costを申請することができます。要するに、OAにするためにお金がかかるのはおかしなことかもしれないが、それを甘んじて受け入れた上で、それを払うのは研究者ではなくてfunding bodyや機関の責任だろう、という感じです。

その流れで、Nature系列がOAオプションをつくって、色々と交渉が行われてきたようです。Max Planck Society (MPG) の図書館であるMPDLとNatureの交渉の結果、Nature側から、ドイツ全土の120の研究機関に対して「こんな契約をする用意がある」というオファーが出され、MPGが真っ先にサインした、ということです。

その契約の中身ですが、MPGの研究機関(Max Planck Institutes)に所属する研究者がコレスポである論文は、Nature系列の雑誌において自動的にOAになる。その代わりに、MPGはSpring Natureに対して一報あたり9,500ユーロを支払う。ということです。僕の理解では、これは個々の研究者の予算から支払われるのではなく、研究者が論文を出して、自動でOAになって、それをもとにNatureからMPGの上の方(Head quarter)に請求がいく形と思います。

要するに、MPGから出す論文がOAになるかならないか、その費用を誰が負担するのか、という部分の契約であって、MPG以外の研究者に対しては(差し当たっては)特に何も影響を与えないものと思います。単に、Nature系列の雑誌で今後MPGの論文はタダで読めるようになる、ということだけです。Nature系列の全ての論文を読むためには引き続き購読料を払う必要があります。

究極的にはこの契約がどんどん広がって世界中の研究機関がOAで出せるようになれば購読料を払う必要もないので「購読料」という概念が存在し続けたとしても誰も払わなくなるでしょう、という話です。その代わりに研究機関が多額のお金をSpringer Natureに払い続けることになります。

MPGを含めてこれに関わる全ての人が、これが理想の形であるとは思っていないようです。€9,500という高額を払える研究機関はそんなに多くないだろうという問題もあります。ですが、少なくとも今の状況を変える一歩になるだろう、と、好意的に受け入れる人も多いようです。一方で購読料とOA料の二重取りになっているのも確かだし、現状況では色々と問題があるのも間違い無いです。なんにせよ、とりあえずこういう契約がなされた、ということを踏まえて今後どうなっていくか注視していく感じかな、と思います。

この記事の目的はこの契約の是非を問うものではなく、成された合意を少しでも正確にお伝えするものなので、これ以上の議論はここではしません。

また、元記事をざっと読んでまとめただけなので、勘違いしてたり間違ったりしてたりするところがあるかもしれませんので、なにか見つけたら@LuckyStrike1984にDMなりリプなり飛ばしてもらってご指摘いただけたらと思います。

======= 21.10.2020 CEST 10:30 追記 =======
€9,500のなかに購読料もはいってるんちゃうか?という指摘がありまして。確かに元記事では

a lump sum covering the reading and open-access publishing of articles

とあるのでそう読めなくもないんですが、€9,500のところに関しては「1本あたり9,500となる形で計算される」とあるので、やっぱり9,500に関してはpublishingのところだけに係っていて、reading costs(=購読料)はこれにさらに加えて支払われる形になるんじゃ無いかというのが僕の理解です。購読料含めて9,500だとむしろ安すぎる。

======= 21.10.2020 CEST 10.48 追記 =======
MPDLのpress releaseにこう書いてあります。

Reallocation of the vast proportion of reading fees into support for open access publishing based on a cost of €9,500 per article

「購読料の大部分」は€9,500 publishing feeのなかに含まれる形になる、という風に読めますね。購読料も含まれてるってことなんですかね。ただ、MPGからの論文はNature系列の論文の3.5%にのぼるってことなんで、€9,500をクレイジーな回数払ってれば購読料の回収なんて微々たるものってことなんでしょうか。MPDLが購読料にいくら払ってきたのか知らないのでなんとも言えないんですが。

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