家事育児のこと

よく聞かれるんです、「4人も子どもいて海外で、どうやって研究と家庭を両立してるんですか」って。


1人目が生まれてからの8年間、研究と家庭を両立させてるという感覚は一度も持ったことがない、というのが答えです。


家庭を立たせば仕事が立たん、仕事を立てれば家庭が立たん。その狭間で、今はどちらを立てるべきか、というのを精査しながらなんとか両方が潰れないようにやっている感じです。家庭のことをやらなければもっと研究進んだだろうな、もっと実験できただろうな、と思うこともありますし、仕事が忙しくなければもっと家族と過ごせるのに、もっと家庭のこと手伝えるのに、と思うこともあります。

大変ですよ、そりゃ。研究しながら学生の世話しながら子どもの世話して嫁さんのサポートして。研究は遅々として進まないし、子どもは話を聞かないし、夫婦でもそれぞれの利害関係が一致しないことはもちろんあるわけで。

そりゃ愚痴りますよ、大変だって。しんどいって。くそめんどくさいって。もういやだって。

でもね。家事や育児にコミットするのが嫌だとか、もっと仕事したいのにできない、とか、なんかそういう風に思って捉えられるのは遺憾なわけです。



大変ですよ、そりゃ。だって2つのことを追い求めてるんですもん。自分が本当にやりたいと思うものが複数あって、普通はそのなかから1個選んだりするわけですが、僕は仕事や研究もガッツリしたいし、家事や育児もできる限りやりたいわけです。二兎を追ってるわけですから、大変なのは当たり前
なんですよ。

逆にいうとね、本当に幸せだなと思うんです。この大変な状況が。自分が本当に大事だと思うものを、自分のわがままで両方追い求めることができてるわけじゃないですか。

ドイツの研究システムだったり空気、家庭を尊重する社会、それを物的にサポートしてくれるシステムやコンソーシアム。そういうものがあるからこそこれだけ家庭にコミットして、子どもたちの成長を一緒に眺めながら、一緒に成長しながら、子どもたちが必要とする時に必要な場所にいてあげることができるわけです。

仕事が忙しくなった時、大事な出張があるとき、帰りが遅くなったり数日間家を開けたりしても何も文句言わずに家を守ってくれている嫁さん。会議の後の飲み会とかも、本来スキップして帰らないといけないようなものなのかもしれないけれど、「そういうところの付き合いが大事なんでしょ」と快く送り出してくれる嫁さん。ドイツに来る時も仕事を辞めてついてきてくれ、新しいポストを探す時も「あなたの仕事にとって一番いいと思う選択をしてくれれば私たちはついていく」と自由にさせてくれる嫁さん。「新しい言葉を話す新しい街に行って、また新しい言葉を勉強しないといけないところに引っ越すってなったらどうする?」と聞くと「大丈夫!いく!」と笑って喜んでくれる娘。まだあんまり何もわかってないけどとりあえず家にかえるとぱぱぁぱぱぁぱぱぁぁぁぁぁぁ!!!と飛びついてきてくれる息子たち。そういう家庭があるからこそ研究に集中しないといけない時に家庭を放り出して集中できるわけです。

そしてそんな時に「大変でしょ」と嫁さんや家族を家に呼んでくれたり、ごはんを差し入れてくれたり、いつも遊んでくれたり、そういう素晴らしい仲間たち友人たちに囲まれているからこそ、安心して家族を残して出張にいけるわけです。

こんな状態で、家庭も仕事も好きなように、しかも自分がやりたいと思う時だけやって、自分がやりたいと思う方だけやっていいとこ取りして、なんとなく両方のおいしいところだけもらっていくような生活ができてるのは、本当に恵まれていることだなと思うわけです。



仕事を放り出して子どもを病院やセラピーや補習校に連れて行ったり、学校に迎えにいったり、保護者会にいったり、そういうことをしているときには、
「あぁあの実験ができなかった」
「あぁ締め切りが」
「あぁやばい」
「あぁ詰んだ」
「あぁ誰か助けて」
という思考が頭をよぎっていきながらも、娘をみてくれるセラピストやお医者さんや先生から直接話を聞けて、娘と直接色々話ができて、天真爛漫な息子の工作や歌やその他色々な謎のことを聞くことができて、毎日毎日成長していきもうすぐ言葉喋るかなとか思いながら双子をずっとそばでみていることができる、その幸せを噛み締めているわけです。

愚痴りますよ、そりゃ。だって仕事進まないんだもん。愚痴らんと心が死にますよ。だって大変だもん。

でもね、愚痴ることができるほどに、自分のやりたいようにやれているこの環境に、そして支えてくれる嫁さん、家族、友人たちに、ひたすらに感謝の念しかないわけです。




子どもを複数持つというのも、海外で研究するというのも、家庭と仕事と両方にコミットするというのも、どれも自分が望んだことです。

その望んだ通りになっているこの状況に、感謝です。



これからも、クソミソに愚痴りながらも、愚痴れることに感謝をしながら、仕事がすすまないことを嘆きながら、子どもたちの成長を、成長していく子どもたちの今しかないこの瞬間を見逃さないように、毎日を健康に大切に生きていこうと思う日々です。

まもなく年の瀬も近づいてきます。クリスマスが終わればあっという間に新年です。一時帰国ができずに苦しむ在外邦人のみなさま、海外にいってしまっている家族、パートナー、友人に会えずに寂しい国内のみなさま、その他様々なことが制限されて辛い思いをしているみなさま、「つらい」という事実はどうやっても変えることができませんし、なんの対策も助言もあるわけではありませんが、兎にも角にもまずは自分自身が健康でいて、そして少しでも自分の心を労ってあげて、皆々様が心も身体も健康に新年を迎えられるようお祈りしています。

どうか、ご自愛くださいませ。



2021年12月10日
中野亮平トーマス


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