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受け取る''MEME''、委ねる''MEME''

数日前。
5年前に一人暮らしを始めてから最長となる、2年半住んでいた家を引き払った。

横浜の思い出は軽くアンニュイになったり涙ぐんだりしてしまうくらいには、たくさんある。
が、それはさておき、無事に管理会社の方との立ち会いを済ませて新居に戻る帰路でのこと。

東横線の途中でスマホの電池が切れてしまった自分は、その後の電車内での時間潰しも兼ねて渋谷のTSUTAYAで本を買った。

それがサムネイルの文庫本。
『創作する遺伝子 僕が愛したMEMEたち』(小島秀夫 著)である。

小島さん(小島監督)は有名なゲームクリエイター。
メタルギアシリーズを始め、昨年11月にはKONAMIから独立後初となるビッグタイトル、''DEATH STRANDING''を発売し世界的に注目されているクリエイターである。

この文庫は、小島監督がこれまでの人生で触れてきた思い入れのある書籍を紹介する、雑誌''ダ・ヴィンチ''での連載をまとめたものだ。
一冊辺り数ページを割いて、各書籍から彼が受け取ったものと、他者に推薦したいわけについて、記されている。

他の暇つぶしが無いことや、読書をするのには最高の天気の良さであったこと、そして、どれも奥深い世界観の書籍を鮮やかに数ページで紹介してみせる美筆に酔ったことなどが重なり、気になる本のタイトルをメモしながら読み進めた自分は気付けば横浜駅に戻って来てしまっていた。

心ここに在らずのまま、帰路を脚に委ねたところ、脚は迷うことなく横浜へと自分を向かわせてしまったのだ。
この先にもう帰れるところは無い、さっき引き払ってきたじゃないか……と呆れつつも、本を読み進める時間が出来たと思うことにしたのだった。

それから数日が経ち、この本。
未だ読み終わっていない。

というのも、紹介されていた書籍を読み、再度紹介されていたページに戻って読み直す、というのを繰り返しているからだ。

''MEME''とは、情報のこと。
''GENE''が生物としてDNAに刻まれた遺伝情報であれば、''MEME''は国境も言語も時代も超えて伝達される、記憶や感情や思い出などにまつわる「人間的な」情報である。

小島監督ほど、人生の至る地点で本と親しく過ごしてきてはいないし、造詣が深いわけでもない。
けれど、この本の紹介を通して小島監督のMemeを丁寧に丁寧に受け取り、自分の中にMemeの種のようなものが積み上がっていくのを感じるのは、とても心地が好い。

どれほど晴れていようが元気だろうが、外出出来ず人とも話せぬ日々が続く。
それでもこうして過ごす春は、寂し過ぎずいいものだ。

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