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研究プロセスをオープンにする時代は来るのか? - 東京web3ハッカソン参加備忘録

だいぶ前の話になりますが、2022年10月22日〜11月6日に東京web3ハッカソンに参加しました。良い経験ができたので、記憶をたどりながら整理していきます。

経緯

きっかけは、佐藤さんのツイート。

web3事業に関心はあったのですが、実際にアクションしないと机上の空論になると感じていたため、佐藤さんに連絡しました(2018年6月のイベントでお会いして以来!)。申し込み締切にギリギリ間に合いKICK OFF sessionに参加することに。

KICK OFF sessionでは、web3領域で活躍中の多様なプレイヤー(Gaudiyさん、Wagumi DAOさんなど)から話題提供がありました。詳細は割愛しますが、当日の様子は☝️の動画で全編公開されていますので、ご関心のある方はご覧ください。

会場は六本木のDMM本社オフィス

コンセプトを決めよう

ハッカソンは座学の場ではなくプロトタイプを出す場なので、早速佐藤さんとディスカッション。互いのバックグラウンドが近いこともあり、1〜2時間で「『失敗』をオープンにする」を軸に進めていくことに決まりました。

研究 / 研究開発を最大限加速するには、あらゆる研究プロセスがリアルタイムで公開されていると良いのですが、そこには各国や各企業の資金が各々の目的で投下されているため、すべてをオープンにすることは簡単ではありません。

しかし17世紀までは、研究成果を公開する文化もありませんでした。研究成果を公開すると、その先取権争いが起きてしまっていたためです。当時の科学者たちには、研究成果を公開するインセンティブがなかったと言えます。そこで登場したのが、パトロンです。科学的発見によりもたらされる公的利益は大きく、偉大な発見への支援者として与えられる名声もある。そう考えたパトロンたちは、研究成果をオープンにすることで研究者に職や名誉が与えられる文化への移行を求めるようになり、19世紀には研究成果を公開することが一般的になってきました。

そうであれば、全く新しいインセンティブ設計により、研究プロセスを公開する文化ができる可能性は十分にあります。実際に21世紀に入ってからは、少数のパトロンが高額を支援するだけではなく、多数のサポーターが少額を支援する仕組みも定着しつつあります。そして昨今のweb3の潮流により、上述した「偉大な発見への援助者として与えられる名声」がより一層可視化されやすくなるはずです。

チームを組もう

さて、KICK OFF sessionに参加はしたものの、その段階では2名体制で開発メンバーがいませんでした。サービスの詳細を詰める前に、プロトタイプ作成を手伝ってくれる開発メンバーを見つけなくてはなりません。KICK OFF sessionの懇親会や知り合いに声をかけていくなかで、academistの開発を手伝ってくれていた森川さん、そして佐藤さんの同僚の澤田さんにサポートいただけることになりました。

全員が本業を持つメンバーということもあり、対面で打ち合わせすることはできませんでしたが、議論はDiscordで、決定事項はNotionにまとめていきながら、プロトタイプ開発を進めていきました。

プロトタイプをつくろう

「『失敗』をオープンにする」を軸に議論を続けた結果、最終的に下記の仕組みをつくることに決まりました。

図1:プロトタイプで作ろうとしたアイデア

4タイプのステークホルダーが関連しますので、順に紹介していきます。

①研究者(Researcher:図1の左上)
👉 研究者は研究プロセス(Seed)を投稿することで、NFT(Non-Fungible Token)を受け取ることができます。たとえば、検証中の理論や、数値計算の結果、実験ノート、フィールドワークで撮影した写真、アンケート結果などです。もちろん一般的な研究シーズもここに含まれます。

②貢献者(Contributor:図1の右上)
👉 貢献者は研究者の研究プロセス(Seed)にコメントすることができます。たとえば、検証中の理論に同じ分野の専門家がコメントをしたり、数値計算の結果に異なる分野の専門家が質問をしたり、フィールドワークで撮影した写真に現地の人が補足したりなどです。コメント自体も研究プロセスに影響を与えるため、コメントもSeedとみなし、貢献者も研究者と同じCollectionのNFTを受け取ることができます。

③キュレーター(Curator:図1の左下)
👉 キュレーターは数ある研究プロセス(Seed)のなかから特定の切り口で情報を集約することで、Collectionをつくります。たとえば「カーボンニュートラル」「人工知能」など一般的に注目されているものから「私の注目する研究」や「30年後のノーベル賞研究」などさまざまな形が考えられます。Collectionをつくった段階では、NFTを受け取る等はできません。

図2:プロトタイプで作ろうとしたアイデア

④ユーザー(Users:図2の右下)
👉 研究者と貢献者のSeedは公開されていますが、キュレーターがまとめたNFT Collectionは非公開となります。NFT Collectionを閲覧できるのは、関連するNFTを持つ研究者と貢献者のみで、彼らは同じNFTを持つメンバーとしてコミュニティ内でやり取りすることができます。このCollectionに関心のあるユーザーがコミュニティに入るには、プロダクト内で利用できるFT(Fungible Token)が必要となり、FTは三者(研究者、貢献者、キュレーター)に一定の割合で配分されます。

ここで一番悩んだことは、NFTの「価値の源泉」をどうするかということでした。研究プロセス(Seed)にFTが流れる仕組みが最もシンプルなのですが、Seedはオープンにすることを前提に考えているため、今回はCurationを価値の源泉として整理しました。このあたりは検討の余地が残されているので、コメントいただけると幸いです(ディスカッションも大歓迎!)。

振りかえり

DEMO DAYに進めるのは各分野から3チームのみ。採択率は約5倍という状況でしたが、残念ながら落選となりました。(当日のDEMO DAY動画を見てみたところ、各チームのレベルが高く驚きました…!)

今回のプロトタイプは web3 というよりは web2 × NFT に近い発想だったようにも思います。せっかくのハッカソンでしたので、テクノロジーベースで考えてみても良かったのかもしれません。また「『失敗』をオープンに」というコンセプトで進めていたので、本プロジェクト自体も『失敗』を公開し、インタラクティブな形にできたようにも思います。

まとめ

academist を運営していても、クラウドファンディングで集めた資金で研究が失敗したらどうするのか、支援者への責任はどう取るのかを聞かれることが頻繁にあります。ただ研究(に限らず革新的価値を生み出す活動全般)は仮説検証の繰り返しを通じて進展するものであり、『失敗』なしにイノベーティブな成果が生まれることはありません。

また佐藤さんが強調していたように、今回のプロトタイプは研究のみならずあらゆる創造行為に関係するものですので、今後も多様なバックグラウンドを持つ方々と一緒に協働しながら、プロジェクトを育てていきたいと思います。(佐藤さんの関わるポッドキャスト「metascientia」でもハッカソンについて紹介されていますので、こちらもあわせてご視聴ください。)

最後になりましたが、イベント全体の熱量が高く大変刺激的な機会でした。チームメンバーの皆さん(佐藤さん、森川さん、澤田さん)、参加された皆さん、そして企画・運営されたAKINDOさんには、この場を借りてお礼申し上げます。

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