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デュワーズうまいね〜

 父は洋酒を嗜まない男だった。ビールと日本酒のみが彼の食卓には並んでいた。彼は食を重んじる男である。「ウイスキーやジンなどの洋蒸留酒はメシに合わない」ためであるらしい。

 彼の気持ちは非常に理解できる。ウイスキーはそれそのものを味わうコンテンツであり、「食」の入り込む余剰を許さないからだ。ビールや日本酒やワインなど主に食中酒として嗜まれるものたちは色々な食べ物たちのお友達が多い。一方ウイスキー。彼はストイックな性格であるため友達といってもせいぜいナッツかチーズか合鴨ソテー程度、たまに気分でチョコレートともつるむけど基本的には馴れ合いを好まない。

 そうするとウイスキーと私との相性は悪い。日本酒や焼酎、ウォッカなどはまあ飲んでも翌日には酔いから回復しているのだがウイスキーのアルコールだけは何故か翌日に持ち越してしまう。炭酸なんかが入ってきた日には、そのガスに溶けたアルコールが私の胃を優しく充満し気付いた時にはコロッと酩酊してしまっている。過去を振り返るとウイスキーには振り回された思い出しかない。ウイスキーとあまり仲良しになれていないこと、中々に由々しき事態なのだ。

 初めて飲んだウイスキーはその辺りのスーパーマーケットに売られていた白いジムビームだった。高校3年も終わろうとしている3月、男3人を家に呼び卒業直前パーティーなるものを企画したのだ。私は父親に頼んだ。「帰りにジムビーム買ってきてくれ」。何故ジムビームだったのか。ラベルがカッコよかったからである。というより当時そのラベルデザインがプリントされた特製グラスがキャンペーンで特典としてついていたからだった。

 結果男4人でこの世の地獄を見るが如く泥酔した。18歳には余りにも強い刺激─ 別に経験しなくてもよかった事態を私が周囲を巻き込み引き起こしてしまった。そして初めての嘔吐。こんなに苦しいのならこんなに悲しいのなら、酒などいらぬ─! 朝8時の実家のトイレでそう思った。

 しかし人間の意思というものは脆く弱いもので、あの時の誓い、自訓を全く忘れ頭カラッポでウイスキーを飲んでいる。だってうまいから。氷がちょうどいい具合に溶けてきた。香りとか風味がどうだとかの小難しい評品はしたくない。安酒でも構わない。目の前にロックグラスが一つあり冷えたデュワーズが飲めることを酒の神に感謝したい。

 ウイスキーの友達を一人忘れていた。タバコである。互いに渋みがアイデンティティであるが故か非常に相性がよい。グラスを置いて一息付きながら火を点けたタバコの香り、これ以上の至福はない。いや〜ホントに健康度外視の贅沢だね。タバコが吸える肺がまだあることもタバコの神様(インカあたりの神だろうか)に感謝したい。

 しかしやはりウイスキーは酔いが早くまわる。私とウイスキーとの付き合いの悪さは一生モノなのであろう。

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