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【詳しくない人向け鉄道車両紹介】 第1回 「京成電鉄3500形(更新車)」

上野~成田空港を最高時速160kmで結ぶ「スカイライナー」でお馴染み京成電鉄。京浜急行・都営地下鉄・北総鉄道・新京成電鉄と広範囲な直通運転を行い、新旧様々な電車が多方面からやってくる。
その中に、製造から50年近く経っているベテランの電車が走っている。京成3500形だ。

京成3500形は1972年12月1日、記事執筆時点からちょうど50年前に登場した京成電鉄の通勤形電車。まだ新幹線が博多まで伸びておらず、また冷房のある電車が必ずしも当たり前でない時代に、京成電鉄の通勤電車としては当時初めて冷房が載った電車だった。隔世の感があるほど昔の電車なのだが、今でも京成本線や京成千葉線、京成金町線で主に普通電車として運用されている。
50年前の電車だけあって、最近都心部で見られる通勤電車と異なる点が多い。そこで今回はこの京成3500形の魅力を3つ、主に「詳しくない人」に向けて解説しようと思う。

都心では珍しくなった「抵抗制御」の電車

山手線や京浜東北線、新幹線に至るまで、現在の通勤電車、特に東京都心を走る電車はかなりの数が、「交流モーター」を使用しており、細かく分類すると扇風機やエアコンにも使用される誘導モーターか、主に電気自動車などで使用される同期モーターのどちらかを使用している。これに半導体を接続し、半導体に流れる電気を目にも止まらない速さでオンオフし、車両に搭載したコンピューターによってオンオフのタイミングを制御することでモーターを駆動している。
ざっくりとした説明だが、これがいわゆる「VVVF制御(正式名称:可変電圧可変周波数制御)」と呼ばれる方式で、省エネルギーでメンテナンスもしやすく、乗り心地もよいといった特徴があり、現在は世界的に見てもこの方式が主流になっている。

しかし京成3500形の走行機器は、こういったハイテクな方式ではなく、俗に「抵抗制御」と呼ばれる旧式のもので、モーターも理科の実験やミニ四駆で使うような「直流モーター」を大きくしたものを使用している。
抵抗制御とは、走行に必要な電気回路に電気を流れにくくする「抵抗」と呼ばれる電気部品を使用し、モーターにいきなり大電流がかかってモーターが故障しないよう、電気回路から抵抗を少しずつ抜いていき、かかる電圧を少しずつ強めていく制御方式の総称だ。
減速の時に使った電気を熱に変えて捨ててしまうため省エネルギー性に欠けること、モーターの制御が半導体やコンピューター任せに出来ないこと、そしてメンテナンスの手間がかかることが欠点だが、これが3500形の最大の魅力と言っても過言ではない。

3500形の床下に搭載されている抵抗器。
走行中の風で冷やされる作りになっている。

抵抗制御の電車は基本的に、VVVF制御の電車と異なり、モーターにかかる電圧を上げていく度に、回路を切り替える必要がある。この回路切り替えの時に、車両が前後に揺さぶられるショックが生じ、VVVF制御の電車とは異なる独特の乗り心地を生んでいる。2022年現在、このようなローテクな機構を備えた電車が、東京都心で気軽に乗れることは大変貴重であり、京成3500形の魅力のひとつだ。

50年前の電車と思えないプロポーション

先述した通り、京成3500形は1972年、今からちょうど50年前に登場した電車だ。冒頭の写真を見てとてもそうは思えないと思った方も多いだろう。
それもそのはず、同車は1995年からリニューアル工事、すなわちアンチエイジング工事を受けており、新車と見まごう見た目になったのだ。

3500形のリニューアル前の姿。
列車の種別を表示板で表示するなど、少しレトロな電車としても知られていた。
(JS3VXWの鉄道管理局(鉄道うんちくのJ鉄局)より借用)
3500形のリニューアル後の姿。

鉄道車両は経年で各部が劣化する。対処として新型車両を導入することも手だが、大手私鉄(ざっくり言うとJR以外の鉄道会社)を中心に、所有している車両を永く大事に使いたい鉄道会社も少なくなく、この場合はリニューアル工事による延命処置を取ることが多い。
京成3500形はこの延命処置が大々的に行われた電車で、走行機器はほぼそのままに、車体の殆どに手が加えられた。

まず前面のヘッドライトは丸形から角型のものに付け替えられた。フロントガラスの面積は広げられ、前面の種別表示も見やすいものに変更された。側面の窓は開閉しやすい物に変わり、縁を黒くすることで大きく見せている。

窓はフックを外しながら引き下ろすことで開けることが出来る。

そして最も変化したのが車内だ。とても50年前の電車とは思えない、現代的な作りに変化した。

同時期に登場した他の電車と同じ意匠になっている。

50年前の電車というと、どうしてもレトロな車内を想像する方も多いだろう。3500形はこのリニューアル工事の際に、同時期にデビューしていた新型車両と同等の設備に変更され、車内の作りを大きく変化させた。ドアの上にモニターはないが、それでも極端な古臭さは感じない。

天井には扇風機が取り付けてある。
運転席の様子。
備えられているハンドルは、左手のハンドルで加速の制御を行い、
右手のハンドルでブレーキをかけたり緩めたりするタイプ。
ツーハンドル式マスコンと呼ばれる。

内外装にこれだけ手が入っておきながら、前項で解説した通り、走行機器にはほとんど手が加えられていない上、運転席も古めかしい作りのままだ。この「ギャップ」も3500形の魅力である。普通に乗るだけでは、まさか50年前の電車だと思えないほどのプロポーションを持っているのだ。

2両単位で編成の長さを自在に変えられる

京成線には4両編成、6両編成、8両編成の電車が走っている。

  • 4両編成は金町線の全ての電車と千葉線の一部電車

  • 6両編成は主に京成本線や千葉線の普通電車と、新京成線からの直通電車

  • 8両編成は主に本線の快速電車や特急電車、北総線や京急線へ直通する電車とスカイライナー

このうち、京成高砂から柴又を経て金町へ向かう金町線は、狭い所に線路を通しているため駅のホームの長さは4両分しかない。そこで活躍するのが3500形(と3600形)だ。
3500形を含めたかつての京成電鉄の車両は、そのほとんどが先頭車両と中間車両の2両で構成されるユニットを組み合わせ、4両編成・6両編成・8両編成を自在に組み替えられる構造になっていた。2両+2両の組み合わせで4両編成を組めば、金町線に入ることが可能となる。本線などで6両編成を組む時は、写真のように中間車両のすぐ隣に先頭車の前面が来るような繋ぎ方を見ることが出来る。

中間車両の隣にいきなり先頭車両の先頭部が繋がっている。
かつてはJRなどでも時たま見られたが、このような光景は少なくなった。

ちなみに編成の組み換えは車両基地で行っており、駅で見ることは出来ない。
途中駅での列車の連結切り離しは今でも様々な路線で見ることが出来るが、中間車両の隣に先頭車両の先頭部が繋がる電車は、現状では3500形が首都圏ではほぼ唯一の存在となり、需要に合わせて2両単位で編成の長さを自在に調節する電車は珍しいと言えよう。

あとがき

登場から50年を迎えた京成3500形。その魅力を3つ挙げたが、実際には3つどころではないたくさんの魅力が詰まっている。金町線で柴又へお出掛けの際には、是非注目していただければ幸いである。

参考文献

飯島 厳,成田 喜八,諸河 久著,『復刻版 私鉄の車両12 京成電鉄 新京成電鉄 北総開発鉄道 住宅・都市整備公団』,ネコ・パブリッシング,2002年.
諸河 久,岸上 明彦著,『カラーブックス 892) 日本の私鉄 京成』,保育社,1996年.
野本 浩著,『定本 電車基礎講座 "知ってるつもり"から"確かな知識"へ』,交通新聞社,2022年.
京成グループ長期経営計画「Dプラン」及び. 中期経営計画「D1プラン」の策定について(https://kabuyoho.jp/discloseDetail?rid=20220728507248&pid=140120220728507248, 2022/12/04閲覧).
京成3500形未更新車の画像:http://js3vxw-02.cocolog-nifty.com/photos/keisei_3500_3501f_3573f/keisei_3573.html(2022/12/04閲覧).


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