【感想ブログ】小説 止まりだしたら走らない / 品田遊
こんにちは。クロシオです。
ちょっと前に、私の大好きな本屋に寄ったんですよ。青山ブックセンター って言うんですけれど。
ここの本屋、本当品揃えが良い…痒いところに届くセレクト…そして雰囲気も良い…ナイス…本当に…みんな行ってみて…
いきなり話が逸れました。
そこでこの本を見つけましてね。
著者は品田遊さん。そうです。みんなだいすきダ・ヴィンチ恐山さんですね。
というわけで、今回はこの本の感想記事です。
ネタバレ有り無し分けて書くので、読みたい所までどうぞ。
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【1】概要 (ネタバレなし / 雰囲気バレあり)
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まずは概要。
…あ、ネタバレ無しで書きはするのですが、ここから先どうしても「雰囲気バレ」はせざるを得ないので、それも嫌な人は今すぐに買って読んで下さい。
というか全員買いましょう。暇でしょ?家にいるの。
なんかKindle版が安いらしいよ今。
著者本人が言ってた。
さて、これだけ行間空けたらいいかな。
では書きます。
この本は短編集となっています。
①主人公の都築が、よく分からない話をし続ける新戸部先輩に適当に相槌を打ちながら、目的地までの電車旅を続ける。
②さまざまな電車の乗客達のショートストーリー。サラリーマン、女の子、露出狂、駅員…
この2つが交互に展開されます。
すごく緩くて読みやすい小説です。
1話10ページくらいでサクッと読み進められます。恐らく狙っての事だと思いますが、我々読者が電車の中で、目的地までの2-3駅の間にちょっとずつ読めるようにこの構成になっているのかなと思いました。
①の物語は、1話1話淡々としています。新戸部先輩の蘊蓄を横耳にモヤモヤと進む、次の②までの繋ぎのような感じ。気まずさが漂う、妙〜にリアルな、緩いやり取りが続きます。ただ、これらの①が、次の②のストーリーとの間の良い緩衝材となっており、①②の緩急が本を読み進めやすくしてくれています。
②の物語は、色んな立場の人の「あるある」が主軸になった話が展開されます。本の帯に書いてあったので言ってしまうんですけれど、この本のテーマが「共感」なんですよね。「こんな事、あるある!」っていうだけではなく、色んな立場の人の「これが私の日常です」という点が細かく分かれており、そこに何かしらの「自分の目線」「他社の目線」が対比して書かれている小話となっています。
全体を通して、ワクワクするでもなく、強く心に残る名言が生まれているような作品でもありません。ただ、読み終えた後の余韻がすごく心地良いものになっています。
…なんかこう書いていると、すごく地味な本だと言っているようにも聞こえますが、騙されたと思って買ってみてください。このいい余韻を味わってほしいなー。いろんな方に。
あと、オモコロファンとして語ると、ダ・ヴィンチ恐山 / 品田遊がこんなに綺麗な文章書けるのか…と驚きます。
あの人、Twitterやオモコロ記事では人を信頼していないような言葉ばかり放っているのに…この小説、別々の人間の細々とした動作や振舞い、考え方を、凄く淡々と書いているんですけれど、これ絶対難しいんですよね…「さっきも見たなこういう考え方のキャラクター」って被りが起きないのがすごい。
まあなんにせよ、是非読んでみてください。オモコロファンは絶対ダ・ヴィンチ恐山を今より5割増しで好きになるから。
では、次からネタバレ完全にアリの感想です。
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【2】感想 (ネタバレあり)【乗客達のショートストーリー】
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では、ここからガッツリネタバレありの感想です。一応、目次から間違って飛んできた人のために、ここも行間空けておきます。
…あ、改めて本当に、このネタバレ読む前に、本買って読んでね。是非とも。
この名称未設定ファイルも読みたいなー。探して買おう。紙の本で欲しいんだよなー。
あとこの記事も好き。
さて!こんだけ空ければええやろ。
では感想。
上記①の都築・新渡戸の話は、この本のメインストーリーなので後回しにします。先に②のそれぞれの乗客達の話の感想を分けて書いていくよー。
そして今回、少し強く自分語り寄りになってしまっていることをご了承下さい。『共感』というテーマから考えるとどうしてもね…
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【2-1】タイムアタック / 河口
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バーイセコ、バーイセコ。
本を捲ると一番初めに始まるこの物語。一番初めの「あるある」だ。
淡々と速さを求める気持ちは、やっぱり男として(?)は分かる。あれは何なのだろうなー。ここまで過剰ではないけれど、目の前の人を「追い越したい」、と思う気持ちは私にもある。「早歩き」という、自分に課した縛り付きで。
何かの損失のために「急ぐ」のではなく、純粋な面白さのために、自己承認欲求のために動く「速さを求める」は、なんだかんだで楽しめつつ、時間も浮いて気持ちが落ち着くのよね。
そして、誰に言う訳でもなく、その手段を模索して、一つ一つ無駄に積み重ねていく研究。競歩のプロに訊いたわけでもなく、しかし不思議と新記録が出るから、より面白くなってくる。多くの趣味に言える事かもなあ。
ただ、記録を取り出す、結果を気にしだすと力が入って良くない。どんどん新記録を出したい気持ちはわかる。初めは興味本位で繰り返していたとしても、「過去の努力を無駄なものにしたくない」とか考えちゃうのよね。
スプラトゥーンとかそうだわ。
熱にあてられない程度がいいですよね。こういう趣味は。
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【2-2】苺に毛穴 / 村沢
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この人は、私のこともぬいぐるみのように見ているのだろうか。
この言葉すごく好きなんですよね。
「リアルな動物」「イチゴの表面」…よく見ると気持ち悪い部分があるよね、という話。そういう事を気にしない彼氏、松本に憧れたけれど、デリカシーが無いだけと気が付き、なんだか上手く行ってない女性。
松本のデリカシーのなさは、この先もきっと変わらない。彼女がイラっとする数だけ、一つ一つ諦めの数が増えていったんだろうなあと思う。けれど、彼と3年も付き合っている。
「アレも嫌い」「コレも嫌い」と、色々な物をよく見てしまって、嫌いなものを増やしていってしまった彼女は、人生がどんどん狭くなっていく感覚があるのではないだろうか。
彼女の言い方(書き方?)では、松本は彼女の事をぬいぐるみのように「しか」未だに見えていないのか?と小馬鹿にしているようにも見える。きっと50%そうだろう。
だけれども、彼女はきっと自分の事もよく見過ぎてしまって、自分の事も嫌いなのだと思う。そして、他人からも、「長く付き合った人ほど、自分の醜い部分が見えてしまって、きっと嫌われて行くのだろうな」という絶望を先取りして味わっているのではないか。
そうあってほしくない。目の前の彼は、頼むから気が付かないでくれ…という、一つの願いの言葉にも聞こえたんですよね。
考え過ぎかしら?
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【2-3】露出狂 / 佐々木
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存在感が欲しくて行なった犯行。
承認欲求が間違った方向にいくとこうなるんだろう。この人自身が話の途中で、「記録よりも記憶に残りたい」スポーツ選手の話をしていたが、人の記憶に残るのって、自身にとって何かしらの『結果』や『記録』が残るからだと思っている。『面白い』『便利だ』『怖い』とか。
近くに居ても記憶に残らない人は、人を面白がらせることも、人を助けることも、人を傷つけることも。プラスマイナスゼロ。
だからこそ、確かにこの人は初めて、「記憶に残りそう」な行動を起こしたのだろうけれど、少女には自分の顔など覚えられていなかった。露出狂という行為自体はそもそも悪だけれども…どの道であれ、結構我儘な、贅沢な事だと思うけどなあ。何の道かも選ばず、目立ちたいって。
最後の文章は、彼が安堵と「悔しさ」を残していると語っている。きっと少女の記憶には「露出狂」という犯罪行為だけが頭に残っていたとしても、自分の顔は、自分という存在は結局、前と変わらず印象に残らないんだって、気が付いたんだろうなあ。
あ〜ぁ。
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【2-4】春 / 浅川
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世の中のメジャーなもの、『人気なもの』『正しいもの』『普通なもの』に対して斜に構えてしまう気持ち、よく分かる。
しかし、この子はそれに疑問を持つ。
「世の中が低俗に見える」というのも、私もそりゃあ経験した事はある。というか、『大人への諦め』とか、『メディアへの諦め』とか。それは厨二心に大きく響く新しいコンテンツであるし、成長や自立という単語に当てはめることが出来るのだろうけれど、美味しいものを「美味しい」と言えなくなっちゃうのよね。行き過ぎると。
そして、インスタントな否定は中途半端な結果しか得られないから、きっといつまで経っても満たされない。
●校則は守らないけれど、制服は着る。
…結局は他人と同じ服しか着ていない。
●青春映画は大人の後悔が作っているらしい。
…大人の後悔が作ってない作品とは?
『否定する事』『嫌悪する事』を自分が自分で飲み込む事は、手っ取り早く自分を理解する事になるんだけれど、人を理解する・共感する事には繋がらない、というか足りない。
この子は思慮深い。わからない事を態々、軽い気持ちで否定しない。意味のない事はしない。だから友達の小説も受け入れる。まず触れてみる。淡々と心の強い子になっていくと思う。
否定に理由をつけて、言葉に変換できる時までは、子供のままでも、フワフワしていても、良いと思う。
美味しいものは美味しい、面白いものは面白い。
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【2-5】アンゴルモアの解答 / 高根
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質問箱で画面の向こうの人に嘘八百を語り、「納得させてやった」とほくそ笑む大学院生。傍から見れば「悪い趣味だな」とも思うし、一人の趣味を楽しんでいるようにも見える。
気になったのは、この人は最後まで我々に語り掛けている。この人は人の話を信じない人なのだろうが、画面の向こうにいる「誰か」の存在だけは信じている。彼の話を本気で聴いてくれていると信じている。
こうやって、「本当かどうかはどうでも良い、祭りを楽しむ」というのは、古くからインターネットでも行われてきた。
なんというか、これって「自然を信仰する宗教」と同じだと思うんですよね。嘘でいいんですよ。『誰か』が見てると仮定したから、祭りが生まれて、経済が回るというか。
誰かが信じるから、そのコンテンツは回る。誰かが信じていると信じるから、その人は今日もその宗教で礼拝を続ける。
…哲学?
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【2-6】休憩室 / 隅田
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人身事故なんてやっぱり、慣れないもんでしょうそれは。とは思う。
隅田は、城島の言葉に共感し、カレーを食べた。
城島は、義務として、居なくなった人間よりも、今存在している信頼のために動いている。時間は待ってくれないし、お客様から信頼されているし、やるしかない。と二十八年職を続けてきた。
仕事って、なんで『都合がいいから』『効率が良いから』『得だから』とかって言いにくいんでしょうね。実際目の前で『お客様のために』とか、『信頼のために』とか、綺麗ごとを言われてもモヤっとするじゃないですか。
でも、身体を動かさないといつまで経っても変わらないし、どうせいつかは動き出さないといけないし。そういう時の自分の再起動への言葉として、必要なんだよなあ。
んー。人間って真面目だなあ…。
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【2-7】八年目の異邦人 / トルドー
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「日本人」というイメージを挟んだ、二人のお話。
・よく見てる新人部下、下柳
・「日本人」に好まれる術を学んだトルドー
腕時計は見ていないが、予定していた時刻ぴったりだったに違いない
このラストの文章が非常に好きだ。
わざと否かはトルドー氏しか知らない所だが、「日本人とはそういうものだ」という意味だろうか? 「日本人とはそうあってほしい」だろうか? どちらにせよ皮肉だ。
人から言われないと気が付かないことってありますよね。いつの間にか馴染んでしまった、不幸への対抗策というか。
自分語りになってしまうが、私は「『仕方ない』が口癖だよね」とか、「ため息よくつくよね」と言われていたことがあった。正直そんな常日頃不幸を感じているつもりは一切なかったのだが、言われて気が付いたことがある(今は減ったらしい。Hoo! 脱リーマン最高)。
話を戻す。努力家トルドー氏がいつの間にか身につけた日本への適応能力に嫌悪を示しているのは、「日本人」になりたくはない、という気持ちから来ているのかな。自分の個性を営業に最大限活かす彼は、生粋の日本人の「生真面目さ」のイメージにピッタリだと思ってしまうんだけれどな。
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【2-8】 逡巡 / 堤
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御託はいい。冷やし中華が食べたい。
改めて考えてみると、例えば冷やし中華一つだって、昔と今では野菜の育ちも、ハムになった豚の個体も、当たり前だけれど違う訳じゃないですか。
加えて、きっと今は昔より食べ物は綺麗で、だけれども、洗剤だ消毒液だは昔より溢れてて、車の排気ガスは増えてて、でも昔の人より運動量が減っている事は間違いない。そんな中で、「食事に気を使って健康で居ましょう」って。
今と昔で健康を厳密に比較する事って、不可能に近いんじゃないだろうか。
日本人の平均寿命が延びているらしいが、食生活の差で長生きできたのか、医学のせいなのか。たばこのせいなのか、排気ガスのせいなのか、はたまた自分の生涯の運動量の差か。『比較する』という対象として昔と今は違うものがあり過ぎる。分かりゃしない。そりゃあ、脂っこいものばっかり食べてれば身体に悪いだろうし、酒ばかり飲んでる人が高血圧になるのも何となくわかるけれども。
『食べたくないけれど、何か食べなきゃなあ』なんて、心に悪い。そういう時に『食べたいもの以外、食べたくない』という選択肢があるうちは、好きなものに行き当たるまで進みたい。どうせいつ死ぬか分からないんだし。大丈夫大丈夫。
曖昧に気にしつつ、その日の酸素に任せればいいと思うよ。
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【2-9】藪の中 弓削
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子供、歳下を、別の生き物のように見る人は多い…と私は思う。小さい頃から思っていた。「なんで?大人は子供が年取ったら行き付く先じゃん。同じ生き物じゃん。」とも。
「大人になったら子供の時の気持ちを忘れる」ってよく言うじゃない?言われてたのよ。そんな訳ねえだろ。現在私は29歳。そんなわけありませんでした。バーッチリ覚えてるよ子供の頃の楽しさ、不満、怨み。
自分語りはこのくらいにして。
先生から見た『優等生』諏訪君は、危険な悪戯の主犯でした。…一応、確定はしていないから「多分」だけれどね。不気味な主犯格の様に書かれているが、その実、周りの子供より少し頭が回るだけだと思う。
子供のころ、善悪の区別よりも、我慢よりも、『やってみたい』と思ったことって沢山あったと思う。典型的な悪ガキの大庭君は、『やってみたい』事を後先考えずそのままやってしまう子供だ。でもそれって、諏訪君も同じ、『やってみたい』事をやっただけじゃないか?
大庭君は、『騒ぐな』と言われたから騒がなかった。怒られるのは嫌だ。でも禁止されていない『椅子の上に靴を乗せる』をやりたくてやった。川本君が困っていたが、電車から降りられなくなるのが嫌だからそのまま降りた。
諏訪君は、『騒ぐな』と聞こえていたから騒いでいない。禁止されていない『椅子の裏に手を突っ込む』をやってみたかった。川本君にやらせてみたら、抜けなくなった。怒られるのは嫌だからそのまま降りた。
そんなに変わらないと思うのは私だけ?
子供の頃って、それぞれの親や先生が『何を禁止したか』が違うだけで、「やりたくてやった」とか「怖くてやらなかった」とか、理屈や倫理じゃなくて、『何となく』を選ぶことなかった?
悪ガキは確かに悪いけれども、優等生がダメなことを『何となく』することだって当然あると思うなあ。
…あ、そうだ。全然話変わるんですけれど、
著者品田遊先生は、作文の書き方をかつて教えていた。「読書感想文なんてでっち上げだ」「自分をアホだという事にしろ」などなど、作文が苦手な子供は是非一度観よう。あ、貼っておきますね。
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【2-10】夜の鳥類たち / 黒沼
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鳥に人を例えてるのは、そのまま素直な意味でピーチクパーチク小うるさい騒動だからだろうか。
人の不用意な言葉、とちり、アドリブが気になるらしいハシビロコウ。自然な一言、『抜本的』と『根本的』等、「演技ではない、ついうっかり出てしまった一言が気になる」という彼。
まあ、理屈というか、その雰囲気は分からんでもない。人の何気ない一言から、この瞬間を切り取るべく録音する。それこそカメラ趣味のようなものだと思う。盗撮というより、人間の音を自然の風景と見立てた情景写真だ。
しかしそれって、人を人として見ていない気もする。滝の音や動物の声を聴く、録音するようなものだ。鳥の声とか…ハ!!!だからこのタイトルなのか!?
ま、まあ何にせよ、それを職にすることで騒動を収める武器にもなるし、悪用する事で不快をばら撒く凶器にもなる。言葉は刃物って事ですね…
(上手いこと言った)
...
(いや、全然上手くねえわ...)
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【2-11】採点 山崎
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人との会話の反省会を脳内で開く。
これは結構、「あるある」と思う人多いのでは?
自分に自信がない事では、無意識に減点方式に事を進めようとする…気がする。私もまあ、なくはない。人との会話で。
実際これ、「あるある」というより、誰しもが考えている事だと思う。「あ、無礼だったな」「自己中過ぎたな」とか、さりげなく振り返ることあるし。
んで、ストレートにナイフを刺すとすると、「採点なんてしてしまうのは僕だけだ」と思っているそれはズレていて、多分正解は、「お前はメンタルが弱い」なのだと思う。
採点自体は誰しもに起きる。それを気にする、心に響かせる時間がある。でもでもその割に、それを気にする、理由をつけて謝らない弱さがある。そこには結局見ない様にしている、「謝る勇気」と、「否定から入る弱い心」への改善が無い。
事が起きてしまってからの後悔をいつまでもいつまでも繰り返す。そこから『抜本的な』(前章と繋がった!)改善を、「いい加減に、これ治そう!」とする勇気を持たない限り、ずっとこうなんだろうなあ。
https://omocoro.jp/kiji/274150/
この記事で恐山さんが言っていた、『損をし続ける人間なのだから、得をしようとするのがダメ』という言葉が、私が思っている事に近いなあ。
『積極的に治していこう!好きになってもらおう!』が無理だと諦めるなら、その採点をいつまでもいつまでも繰り返すしか無い。けれど、それならいつまでも選んでいるのは自分なのだから、悲しむより受け入れるしか無いのでは?という感じ…
まあそんなこと言いつつ、そんな割り切って行動できる人はそう居ないとも思う。人間って曖昧だー。
毎月360円のよく分からないサブスクを払い続けているのは、たった一回の「探して解約」をしていないのは、自分が選んでいる道なんだよなーって。
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【2-12】往復路 成田
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この話かなり好きなんですよね。
何にでもすぐ飽きてしまう首藤に『好きな事を楽しんでほしい』という小さい祈りを捧げつつ、自分は変わらない成田。
信憑性は知らないが、インターネットなんかでもたまに見る。死ぬ時って後悔するらしい。「もっと遊べばよかった」「若いうちにもっと楽しめば良かった」とか。そりゃあそうだと思う。私はなるべく後悔しないように生きたいなあ。残った貯金の額はもう見えない。天国はあるだろうけれど、やり残したゲームはもう出来ないだろう。
例えば事故なんかに遭ったとして。治療費が掛かった際に、「貯金をしておいて良かった」とか、「保険に入っておいて良かった」とかは思うかもしれないけど、「あの時、部長の小言を聞いていて良かった」とか、「満員電車を我慢し続けていて良かった」には繋がらないじゃないですか。
首藤のように、「飽きたから辞める」は流石に豪快過ぎる気もするけれど、人間、自分が思うよりもう少し、我慢の尺度みたいなものが細かくてもいいと思うんですよね。
そりゃあ、働かなきゃいけない。けれども、部長の小言に文句を言ってもいい。満員電車に乗るのが嫌になったら、近い職場で働いてもいい。
そういう、「●●しても良い」が心にあるだけで、変わらない日々も少し気持ちが楽になる、みたいな。メメントモリを50倍薄くした感じ。
細かい事に飽きたら、嫌になったら、サッサと切り離せるようになりたいなー。私も首藤さんには憧れる。
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【3】感想 目的地へ / 都築・新渡戸
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では最後に、都築・新渡戸ペアのお話。
新戸部先ぱぁあああああああああい!!!
お、オソ、
恐ざ、
恐山!!
あ、いや、品田遊先生ーーー!!!
お、お、、、、、
乙女山じゃん!!!!!!
よくまあ、あの、こう、あんな人からこんな綺麗な文が書けるんだ!!!
ビビったわ!!!
いやぁそりゃね、物語のどんでん返しや、叙述トリックの中では「たまによくある」部類かもしれない。それでもそこにも驚いたけれども!!!
でもそこに、唯一「共感」が出来なかった不可解な新戸部先輩を、本当によく最後の最後まで綺麗に通したというか!!!
…ハイ。ちょっと落ち着きます。
この本では、『他人分かり合うのは本当に難しい』という事を裏のテーマとしている気がする。
自分と他人の脳みそは違う。それが素敵な事だと新戸部先輩は気がついた。だけれども、それは『人と完全に思考が一緒になる事なんて無い』と言う事で。自分の考えは自分の中にしか絶対に無くて、自分が欲しいものは自分が手を伸ばすしか無いという、もう圧倒的な孤独への気づきでもある。自分の思う「相手の考えていること」は外れている。すれ違い続ける、という諦めを丁寧に書いているなぁと思いました。
それでも日々、
「すれ違うことで、より幸福になっていくかもしれないよ」
「人の考えていることはこれからもずっと分からないし、きっと共感できないけれど、だからこそ人に興味が持てるよね。」
という、生きてる上で仕方なく必要な『他人と関わる事』への希望が、想いが載っている気がする。
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なにを考えているかわからない人って、偶によく居る。(?)
でもそれはその人が少し『目立つ』だけで、よくよく考えてみると、誰も他人が何考えているかわからないんですよね。このことを思い出すと、これは誰もが必ず行き当たる問題だと気が付きます。
そこに対する苦悩があるならどうすれば良いか、この本は新渡戸先輩を通して教えてくれているんではなかろうか。
新戸部先輩の本心は、最後にようやく我々に語られた。都築君と付き合いたい大作戦。
この小説の半分以上の『不可解な行動』の意味が、この瞬間、過去に遡って全て分かるようにならなかった?
アイドルの写真を見て、好きなタイプが気になったんですよね。『付き合う』と言う事を考えさせたいし。
ミンティアは沢山あげようとしたんですよね、都築君のお腹が空いているみたいだし。
わざと電車に乗り遅れたんですよね、一緒に買い物したいから。
「ゴリラの血液型は」なんて遠回しな言葉になっちゃうんですよね。『君の血液型は何』なんて率直な訊き方は恥ずかしいから。
そりゃあ100%は無理だけれども、少なくとも意図は伝わりました。
本当に単純な事で。『他人のことはわからない』けれど、『表に出せば、自分の事はきっと伝わる』世界であって欲しいって事だと思うんですよね。
それがどうしても出来なかった新戸部先輩は、結果どうなったかは分からないけれど。最後に手を引かれて、何でもいい、今が嬉しいってなった瞬間、最後の最後に本音を言えたじゃないですか。
都築君は、表面を見ると、何となく生きて、何となく周りに流されつつ、生物部に形として入る、よくいる人間なのだと思う。特別でも何でも無い。
だけれども、常に先に行ってしまった部員の事を考えつつ、目の前の新戸部先輩の話にも、よく分からないながらもキチンと応える。気配りが出来る人間なのだろう。
フリスクを律儀に食べたり、オレンジジュースを素直に受け取ったり、小難しい質問になるべく応えたり。「相手が自分に対して求めている事」への受け入れ→正直な返答が自然にできる人なんじゃ無いかなあ。
こう書くと普通の事に見えるけれど、そういう点から、「この人は、伝えてくれるから考えている事がわかる!」と思ったからこそ。新戸部先輩は、何となく、普通の事を出来る、都築君が気になったのではなかろうか。
そうだよね????恐山?????
だよね????????
…うん。この人何考えているか全くわからんわ。
長くなり過ぎたし、この辺にしときます。
それじゃ、次は『名称未設定ファイル』を読んだ時にお会いしましょう。
以上!クロシオでした!!!
回ればいいのよ元々空気