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良質な学びが得られる経済小説は黒木亮の作品。戦略コンサルタントが選ぶトップ5をランキング形式で紹介

私は休暇中に経済小説を読むことが趣味の一つなのですが、経済小説家の中でも特に好きな作家が黒木亮です。彼の作品は、外資系投資銀行に勤める友人から紹介され、学生時代から読み始めたのですが、それ以降ドはまりしてしまい、8割方の作品を読了しています。彼の作品の魅力はなんといっても、作品を読むことでその分野におけるリテラシーが高まることです。彼自身が元バンカーで金融分野に関してディテールまで内容を理解していること、また圧倒的なリサーチ力に裏付き、細部まで拘り抜かれた文章であることで、フィクションでありながらもノンフィクションであるかのようなリアリティ感が演出されています。その他にも作品内で描写される世界各国の風景や食についてのシーンが個人的には大きな魅力だと思っています。

そんな黒木亮の作品の中で、私が選ぶトップ5を紹介したいと思います。


5. トップ・レフト ウォール街の鷹を撃て:投資銀行、国際金融の業務に興味ある人が入口として読むのにおススメ

邦銀に勤める主人公(今西)が日本の自動車メーカーのイラン工場建設のための巨大融資プロジェクトを進めていく過程を、米系投資銀行に勤める元同僚(龍花)との攻防を交えながら描いた作品です。著者の言葉を引用すれば、「僕自身の激しいところと、穏やかなところを2人の人物に分けたんです。龍花の方は極端にデフォルメしたところはありますが、僕にもマーケットで負けたくないという強い思いがありました。国際金融市場をゼロから開拓するのは、激しいものがないと無理ですよね。同時に、社会のために役立っていると思わないと、あれほど激しい仕事はやっていけません。夜中の12時に会社に行って仕事をして、そのまま朝7時の飛行機に乗って出張に行ったりしていましたから。良心の部分を今西という人物像に託しました。」

題名となっている「トップ・レフト」とは、主に金融業界において、融資や証券引受における主幹事または主幹事の中でも最も出資額や引受額が多い金融機関を意味する業界用語で、出した額の多い金融機関の名前が目論見書などの書類において一番上の左に書かれることが多いため、このように呼ばれるようになったことに由来します。ディールを行う上で、「トップ・レフト」を勝ち取ることは名誉あることとされており、それが本作品でも題名となっています。

筆者が注目を集めるきっかけとなったデビュー作で、他の作品と比べても前提となる金融の専門知識がほとんど必要なく、シンジケートローンについても大枠がイメージできるようになるのではと思います。またストーリー自体が王道漫画に近く、仕事のやる気を出したい時にもおすすめできる一冊となっています。

4. 国家とハイエナ:ヘッジファンド業務、国家デフォルトの過程に興味がある人におススメ

「本書に書いてあることはすべて現実に起きたことである。国、企業、団体、政治家、著名アーティストなど、実名になっている箇所や社会的出来事の記述は事実に沿っている」と著者が言っている通り、基本的に事実に基づき、巨大ヘッジファンドがアルゼンチン、コンゴ、ペルーを中心に債務を返済できない国家の債券を市場で安く買い叩き、訴訟を起こして強引に資金を回収する話を描写した作品です。

特にアルゼンチンのデフォルトに関するシーンは一気に読み進めてしまうほどの臨場感を伴った内容で、個人的にも最もおススメの場面となります。「物言う株主」としてソフトバンクグループの株式を取得するなど大きく報道されることの増えた米大手ヘッジファンドのエリオット・マネジメントがアルゼンチン政府と15年の年月をかけて法廷闘争を繰り広げ、最終的にアルゼンチン政府が譲歩する形で2016年に交渉が決着します。エリオット傘下のNMLが保有しているアルゼンチン債券の元本6億1,700万ドル(約700億円)に対して、アルゼンチン政府は22億8,000万ドル(約2,500億円)を支払い、争いが収束します。NMLは元本の額面の3割程度で債券を取得していると推定され、投資額の12倍強のリターンを得ることになり、米国の訴訟型ヘッジファンドの餌食となるまでの過程が如実に描かれます。

著者のリサーチ力には毎回脱帽しているのですが、その中でも本作品は彼の強い想いがこもっているように感じられます。ヘッジファンド業務、国家のデフォルト後の過程に興味ある人に特に読んでほしい一冊となります。

3. トリプルA 小説 格付会社:投資(株、債券、EFT等)、リーマンショックの概要に興味ある人におススメ

サブプライムローン問題に端を発し、最終的にはリーマンショックへと波及していった金融危機の戦犯とされる格付け会社の市場におけるプレゼンスの変化を、1984年からリーマンショックまで、本作中ではムーディーズ、S&P(異なる表現で描かれている)、日本の格付会社で働くアナリストを中心にして描かれた作品です。

私自身株式をメインにETF、REITなどの金融商品への投資を行っており、投資を行う際に参考程度と思いながらも格付けを確認していますが、格付け評価がどのように決まっているかは本作品を読むまで理解していませんでした。格付けの仕組みと格付け会社と発行体の関係性、格付け会社の内実など本作品を読むことで理解でき、厳格に運用されているように見える格付けがいかに脆く信ぴょう性に欠けるものになり得るのかが、こと詳細に記載されています。株や債券等に投資を行っている人で格付けの内実を把握したい人には非常におススメの一冊となります。

2. 青い蜃気楼 小説エンロン:ファイナンス・会計、エンロン破綻の概要に興味ある人におススメ

2000年度の年間売上高が約1,100億ドル(約12兆円)で全米7位の超大企業であったエンロンが粉飾決算によって破綻するまでの過程を記述した作品です。イメージしやすくすると、現在のAmazonやAT&Tといった規模の企業(2019年度FORTUNEランキングを参照) が破綻したということで米国のみならず、世界中に大きな影響を与えた事件となりました。主力事業はエネルギーとITで、特に自由化された電力やガスの取引で巨額の資金を動かし、利益の大半をデリバティブ取引で得ているように見せかけていましたが、実際には取引に失敗しては連結対象外で事業実体のない特定目的事業体(SPC)と呼ばれる子会社に損失を付け替え、投資家の目を欺いていました。馴染みのある人も多いアクセンチュアの前身であるアーサーアンダーセンは会計事務所としてエンロンを担当しており、粉飾決算に手を貸していたことから公務執行妨害として有罪判決を受け、これによって市場からの信頼は失墜し顧客を失い、解散に追い込まれています
日本国内に目を向ければでも2015年に大きなニュースとなった東芝の粉飾決算にも通じる内容で、会計士を目指す人はもちろん、簿記等の勉強している社会人も会計の重要性を再認識できる至極の一冊だと思います。

1. 獅子のごとく 小説投資銀行日本人パートナー:投資銀行業務、GS日本法人社長の半生に興味ある人におススメ

ゴールドマンサックスの日本支社社長である持田昌典を題材として、主人公の逢坂丹がいかに米国の巨大投資銀行で、アジア人で唯一本社経営委員会に名を連ねるようになったか、をダイナミックに描いた作品です。私がこの本が大好きな理由は、各登場人物の心境を読者にイメージさせながら、ほとんど事実に近い形で日本の金融市場で起こっていたことをわかりやすく描いていることです。堀江貴文のライブドア、村上ファンドとして騒がれた村上世彰、名前は仮名となっています西武グループなどが登場し、あたかも自分がその時代にタイムスリップしたかのような感覚を味わわせてくれる作品だと思います。主人公の逢坂丹の異常なまでにM&Aディールにおける勝利に執着する姿にはある意味清々しさを感じることが出来るほどで、投資銀行を志望している学生・社会人に必ず読んでおいてほしい1冊となります。

以上、私がおススメする黒木亮作品、トップ5いかがだったでしょうか。友人・学生からも「金融関係でおススメの本ない?」と質問される際には必ずと言っていいほど、上記のどれかを伝えるようにしています。そもそも黒木亮を知らなかったという人も、知っていたという人も国際金融の現場に基づいた至極の経済小説を楽しんでいただければと思います。黒木亮作品好きの方とつながりたく「スキ」や「コメント」をして頂ければ幸いです!



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