患者さんを捉える ー股関節術後の歩き始めの膝折れと歩幅の減少ー
以下に記す症例について、見方、知識の使い方、考え方の流れが参考になれば幸いです。
情報)
高齢の方である。
左大腿骨頚部骨折術後理学療法施行、2か月後、転入所する。
元々、入所の方であり、受傷前は独歩であった。
現在は手引き歩行のレベルである。
車いすから立ち上がり後、歩き始めの一歩目と二歩目に左の膝折れが起こる。
特に、歩き始めの一歩目の膝折れが二歩目より大きい。
歩行の状態は、左下肢への荷重が不十分である。
但し、トレンデレンブルグやドュシャンヌ様の跛行はない。
また、小刻み歩行で、左TStで左骨盤の後方回旋が大きく出現した。
Q) まず、リスクが高い、左膝折れから考えて行きたい。
何が原因か?
A) 膝折れが起こることから、大腿四頭筋と関係がある。
Q) どのような関係か?
A) 膝折れは歩き始めの2回だけである。
また、左大腿四頭筋は右に比べて萎縮(大腿周経の減少)はあったが、MMT4/5で膝折れを起こすレベルではなかった。
Q) では、何か?
A) この時、大腿四頭筋の力が抜けた。
Q) なぜ?
A) 症例は、歩き始めの前に車椅子から立ち上がっている。
立ち上がりは、位置エネルギーが必要であり、それに対応するのは大腿四頭筋である。
Q) 股関節や足関節は?
A) 立ち上がりでは、それほど位置エネルギーに対応しない。
Q) それと膝折れの関係は?
A) 立ち上がりは、前述したように位置エネルギーを必要とするため、大きな力が必要になる。
そこで、大腿四頭筋中で、パワーがある二関節筋の大腿直筋が主に使用された。
これは評価で、筋力はあるが萎縮(大腿周経の減少)があった大腿四頭筋の状態からも予想される。
Q) 大腿直筋の作用と膝折れの関係は?
A) 大腿直筋は下前腸骨棘から脛骨粗面まで付着している。
起始が下前腸骨棘なので、大腿骨を前方に引く力が生まれてしまう。
これにより、骨頭が前方偏位する。
その状態から、歩き始めの左荷重で、膝関節を支えるために大腿直筋を優位に使用してしまい、骨頭の前方偏位が助長されて、鼠径部でのインピンジメント
あるいは、骨と臼蓋でのインピンジメントによる痛みが出現した。
そこで、痛みから反射的に大腿直筋の力が抜けて、膝折れを起こした。
実際、この時に症例は痛そうな顔つきだった。
Q) 症例は、何と?
A) 認知症のため、訴えを聞くのが難しい。
Q) なぜ、歩き始めの1、2歩なのか?
A) 立ち上がりで使用した大腿直筋の緊張が残っていて、大腿直筋が使いやすかった。
2歩目では、大腿直筋の緊張が下がり、一歩目ほどの使用がなかったので偏位は少なく、膝折れも減少した。
Q) 次の問題である歩幅の狭さは?
A) 上記の膝折れの原因を踏まえて考えると
立脚後期の股関節伸展は、関節内運動として骨頭の後方への転がりと前方へのすべりである。
この前方すべりでインピンジメントを助長してしまう。
また、股関節伸展で、大腿直筋のテンションを上げてしまう。
その股関節伸展を回避しながら、歩幅を稼ぐためにTStで大きな骨盤の後方回旋が起きた。
Q) 左荷重が不十分なのは?
A) 荷重により大腿直筋の使用を増やす、前方偏位を増す、骨頭と臼蓋での圧迫を増やす、のいずれかの影響を抑えるためと考える。
Q) アプローチは?
A) 問題は大腿直筋の優位性であり、評価からもそれがわかるので、広筋群の強化を行なう。
Q) 方法は?
A) 椅子座位で背もたれに寄りかかってもらい、膝関節伸展位から股関節内転・外転運動で広筋群の収縮を促す。
Q) なぜ、背もたれに寄りかかるのか?
A) 高齢者は、ハムストリングスの短縮を起こしている場合が多い。
症例も短縮が起きていた。
端座位で膝関節を伸展さると、骨盤後傾と体幹の後傾が生じる。
その状態で姿勢を保持しようと腹直筋を使う。
腹直筋は大腿直筋と筋連結があるので、大腿直筋が働きやすくなる。
端座位の場合では、浅く腰かけてもらい、膝関節伸展位で踵が床から少し浮く程度にする。
Q) 結果は?
A) 2回/週、10分/回、3ヶ月実施後、症状は改善した。
最後までお読み頂きましてありがとうございます。
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