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ドヴォルザークの部屋

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交響曲第9番 ホ短調 作品95『新世界より』アントニン・ドヴォルザーク

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 交響曲第9番 ホ短調 作品95『新世界より』(英: From the New World、独: Aus der neuen Welt、チェコ語: Z nového světa)は、アントニン・ドヴォルザークが1893年に作曲した、4つの楽章からなる最後の交響曲である。古くは出版順により第5番と呼ばれていたが、その後作曲順に番号が整理され、現在では第9番で定着している。 概要 ドヴォルザークによる自筆スコアの表紙 ドヴォルザークは1892年、ニューヨークにあるナショナル・コンサーヴァトリー・オブ・ミュージック・オブ・アメリカ(ナショナル音楽院)の院長に招かれ、1895年4月までその職にあった。この3年間の在米中に、彼の後期の重要な作品が少なからず書かれている。作品95から106までがそれである。 この作品は弦楽四重奏曲第12番『アメリカ』、チェロ協奏曲と並んで、ドヴォルザークのアメリカ時代を代表する作品である。ドヴォルザークのほかの作品と比べても際立って親しみやすさにあふれるこの作品は、旋律が歌に編曲されたり、BGMとしてよく用いられたりと、クラシック音楽有数の人気曲となっている。オーケストラの演奏会で最も頻繁に演奏されるレパートリーの一つでもあり、日本においてはベートーヴェンの交響曲第5番『運命』、シューベルトの交響曲第7(8)番『未完成』と並んで「3大交響曲」と呼ばれることもある。 『新世界より』という副題は、新世界アメリカから故郷ボヘミアへ向けてのメッセージ、といった意味がある。全般的にはボヘミアの音楽の語法により、これをブラームスの作品の研究や第7・第8交響曲の作曲によって培われた西欧式の古典的交響曲のスタイルに昇華させている。 作曲の経緯と初演 上述のようにこの曲は、ドヴォルザークのアメリカ滞在中(1892年 - 1895年)に作曲された。アメリカの黒人の音楽が故郷ボヘミアの音楽に似ていることに刺激を受け、「新世界から」故郷ボヘミアへ向けて作られた作品だと言われている。 「アメリカの黒人やインディアンの民族音楽の旋律を多く主題に借りている」と誤解されることがあるが、ドヴォルザークが友人の指揮者オスカル・ネドバルへ送った手紙には、「私がインディアンやアメリカの主題を使ったというのはナンセンスです。嘘です。私はただ、これらの国民的なアメリカの旋律の精神をもって書こうとしたのです」と書かれている。 1893年12月15日に楽譜が出版された。初演は1893年12月16日、ニューヨークのカーネギー・ホールにて、アントン・ザイドル指揮、ニューヨーク・フィルハーモニック協会管弦楽団による。初演は大成功だったと伝えられている。 日本初演は1920年12月29日、東京の帝国劇場において、山田耕筰指揮、日本楽劇協会によって行われた。 演奏時間 第1楽章の繰り返し付きで約45分。ただし、第2楽章のテンポ設定によっては、繰り返しが付かない演奏でも45分を超えるものが存在する。 楽器編成 持ち替えは一部で存在するものの、全体としては伝統的な2管編成に近い。 この曲の中で、シンバルは全曲を通して第4楽章の一打ちだけであることがよく話題となるが、奏者についてはトライアングル(第3楽章のみ)の奏者が兼ねることが可能である。この一打ちが弱音であるためか、「寝過ごした」「楽器を落として舞台上を転がした」などのエピソードが存在する(倉本聰はかつてフランキー堺主演で、この一打を受け持つ奏者の心理を描いた短編TVドラマを書いている[2])。実際クラシック初心者にとってシンバルの音はなくても気付かない、あるいはどこでなったのかわからない等と言われることもある。 イングリッシュホルンについては上述の通り、ドヴォルザークは第2オーボエ奏者の持ち替えとして作曲していると判断できるが、最近では単独のパートとして扱われることが多い。カーマス社の楽譜は、イングリッシュホルンを単独のパート譜として出版している。 チューバが使われているが、第2楽章のコラール部分のみ、合計10小節にも満たない。しかもバス・トロンボーン(第3トロンボーン)と全く同じ音(ユニゾン)である。これについては、初演時のオーケストラで第3トロンボーン奏者がバス・トロンボーンを用いていなかった(代わりにテナー・トロンボーンを用いた)ための代替措置に起因するという説がある。 第1楽章の再現部ではフルートの第2奏者によるソロが指定されている(理由は不明)。 フルート 2(ピッコロ持ち替え 1)、オーボエ2(イングリッシュホルン持ち替え 1)、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、トロンボーン3、チューバ1、ティンパニ、トライアングル、シンバル、弦五部(第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス) 曲の構成 アメリカの音楽の精神を取り入れながらも、構成はあくまでも古典的な交響曲の形式に則っている。 第1楽章で提示される第1主題が他の全楽章でも使用され、全体の統一を図っていることが特筆される。 第1楽章 Adagio - Allegro molto アダージョ―アレグロ・モルト。ホ短調、序奏付きソナタ形式(提示部の反復指定あり)。 序奏は弦の旋律によって始まる。クラリネットやホルンの信号的な動機に続き、木管楽器に冒頭の旋律が戻ってくると、突如として荒々しく低弦とティンパニ、クラリネットが咆哮する。盛り上がった後一旦静まり、アレグロ・モルトの主部に入る。第1主題は10度にわたるホ短調の分散和音を駆け上がる動機と、これに木管楽器が応える動機からなっている。第1主題前半の動機はその後の楽章にも度々現れ、全曲の統一感を出す役割を果たしている。弦が一気に盛り上げ、トランペットのファンファーレと共にこの主題が確保される。次いでフルートとオーボエによるト短調の第2主題が提示される[3]。これは半音の導音を伴わない全音での自然的短音階であり、黒人霊歌を思わせる旋律となっている。続いてフルートにト長調で歌謡的な小結尾主題[3]が出る(こちらを展開部や後の楽章での再現、調性等の観点から、第2主題と捉える解釈もある[3])。これは黒人霊歌『静かに揺れよ、幌馬車(Swing low Sweet Chariot)』に似ている、という指摘もあるが、これに対しては、アメリカ民謡借用説の例にひかれ、全体もそのように書かれているような印象が広まってしまったものであり、そのように解釈するのは不適切であるという見解もある。また、この主題は提示部と再現部で一か所だけ付点音符の有無によるリズムの違いがあり、指揮者の解釈によって処理が異なる場合がある。この主題が弦に受け継がれて高潮し、提示部が終わる。提示部は反復指定があるが、ドヴォルザークの他の交響曲同様、あまり繰り返されない。展開部では第1主題と小結尾主題の2つの主題が巧みに処理される。再現部では第1主題が途中で遮られ、その後の主題は半音上がった調で再現される。調の変化で主題をより劇的にする巧みな主題操作が見て取れる。小結尾の主題に第1主題が戦闘的に加わるとコーダに入る。幾分不協和なクライマックスを迎えた後、トランペットのファンファーレに続き、短調のまま強烈なトゥッティで楽章を閉じる。 演奏時間は10 - 13分程度、提示部の繰り返しを省くと8 - 10分程度。 第2楽章 Largo ラルゴ。変ニ長調、複合三部形式。 変ニ長調は作品全体の主調であるホ短調からは遠隔調に相当する。このため、この楽章は前後の楽章との対比から独特の浮遊感がある。イングリッシュホルンによる主部の主題は非常に有名であり、ドヴォルザークの死後にさまざまな歌詞をつけて『家路』『遠き山に日は落ちて』などの愛唱歌に編曲された。中間部は同主調(異名同音で)の嬰ハ短調に転じる。クライマックスでは第1楽章の第1主題の動機が加わる。冒頭の主題が再現された後、静かなコーダが続いて終わる。よくインディアン民謡からの借用と誤解されもしたが、これは紛れも無いドヴォルザークのオリジナルである。 演奏時間は10 - 13分程度であるが、レナード・バーンスタイン指揮イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団の演奏のように18分を超えるものもある。 第3楽章 Scherzo. Molto vivace ホ短調、スケルツォ、複合三部形式。ABACABA-Codaの形で2つのトリオを持つ。1つ目のトリオは同主調のホ長調で、民謡風のものである。2つ目のトリオに入る直前には、転調のために第1楽章第1主題の動機を利用した経過句がある。2つ目のトリオはハ長調で、西欧風の主題である。この楽章のみトライアングルが使用される。コーダにおいても第1楽章第1主題が3/4拍子に形を変えて現れる。コーダでは、第1楽章から2つの主題が回想される。 演奏時間は7 - 9分程度。 第4楽章 Allegro con fuoco アレグロ・コン・フオーコ。ホ短調、序奏付きソナタ形式。 大きく2つの主題を持つが、それまでの楽章で扱われてきた主題も姿を見せる、統括的なフィナーレ。緊迫した半音階の序奏が一気に盛り上がり、ホルンとトランペットによる第1主題を導く。第2主題が現れる前に激烈な経過部が有る。この経過部の後半(演奏開始から1分55秒後ほど)に、全曲を通じてただ1度だけのシンバルが打たれる(弱音なので目立たない)が、これについてはまだ謎が多い。第2主題は、クラリネット(A管)とフルート、およびチェロを主体にした柔和な旋律である。そして、ヴァイオリンなどが加わると盛り上がって小結尾になる。第1主題の動機も加えたあと静まり、展開部に入る。小結尾で現れたフルートのトリルが多い動機に続き、第1主題の断片と経過部主題が続く。第2楽章の主題が印象的に回想され、第1楽章第1主題の回想に続いて、この楽章の第1主題が激烈に再現する。静まった後第2主題が再現し、気分が落ち着いたものとなる。それまでの主題の回想はなおも続き、今度は第1楽章小結尾主題と第1主題が現れ、終結に向かってゆく。第1主題と経過部主題が同時に再現し、しばらく展開の後に第2楽章の序奏が壮大に回想され、静まった後第2楽章の主題と第3楽章の主題が同時に再現する。そしてコーダに入り、ホルンによる導入の後で弦と木管がが壮大に第1主題を奏でるとホ長調に転じ、金管楽器が第4楽章と第1楽章のそれぞれの第1主題を合体させ、テンポをアレグロ・コン・フオーコ戻して終結する。最後の和音はフェルマータで伸ばされつつディミヌエンドしながらpppで消え入る。指揮者ストコフスキーはこの部分を「新大陸に血のように赤い夕日が沈む」と評した。この言葉は彼がピアノを弾きながら曲のアナリーゼをするレコードに肉声が遺されている。 演奏時間は10 - 12分程度。 脚注 1^ オロモウツのモラヴィアフィルハーモニー - オロモウツ市公式観光サイト「tourism.olomouc.eu」より《モラヴィア・フィルに関する日本語紹介文が見える;→アーカイブ》 2^ “日曜劇場「あぁ!新世界」”. TBSチャンネル. 2021年2月22日閲覧。

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『交響曲第7番ニ短調 作品70、B 141 』 アントニン・ドヴォルザーク

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 交響曲第7番ニ短調(こうきょうきょくだい7ばん ニたんちょう)作品70、B.141は、ドヴォルザークの交響曲。1884年から1885年にかけて作曲された。それまで発表されてきた交響曲とはやや趣が異なり、スラブ的な雰囲気を残しつつも内省的で普遍的な音楽として仕立てることに成功しており、作曲者自身この曲を「本格的なもの」と呼んでいる。第9番「新世界より」ほどではないが、第8番と共にドヴォルザークの交響曲では良く取り上げられる楽曲である。主調が平行調である点や、第1楽章、第4楽章の拍子、第2楽章の楽器法などから、ブラームスの交響曲第3番からの影響を指摘する見解もある[1]。 作曲の経緯 1884年3月、ロンドン・フィルハーモニック協会の招きで、ドヴォルザークは初めてロンドンを訪れた。ロンドンではすでに交響曲第6番が好評を博しており、ドヴォルザークは熱狂的な大歓迎を受けた。帰国後ほどなくして、フィルハーモニック協会の名誉会員に選ばれたとの知らせと新作交響曲の依頼を受けた。前年の1883年にブラームスの交響曲第3番の初演を聴いて新たな交響曲の作曲に意欲を抱いていたドヴォルザークは、ロンドンからの申し出をただちに承諾した。9月に再度渡英し、帰国後の12月13日から交響曲に着手し、1885年3月17日に完成した。同年4月に三たび渡英し、4月22日にセント・ジェームズ・ホールで初演の指揮を執っている。この演奏会は大成功で、ウィーンでハンス・リヒターが、ドイツではハンス・フォン・ビューローが相次いでこの曲を採り上げた。 楽器編成 木管楽器 フルート 2(第3楽章でピッコロ持ち替え[2]) オーボエ 2 クラリネット 2 ファゴット 2 金管楽器 ホルン 4 トランペット 2 トロンボーン 3 打楽器 ティンパニ 弦五部 第1ヴァイオリン 第2ヴァイオリン ヴィオラ チェロ コントラバス 演奏時間 全曲で約37分 曲の構成 第1楽章 アレグロ・マエストーソ(Allegro maestoso)、ニ短調、6/8拍子、ソナタ形式。 D音の持続音と遠雷を思わせるティンパニの響きに乗り、ヴィオラとチェロによって暗い第1主題が提示される。これは反ハプスブルクの祭典に参加するためにハンガリー[3]からの愛国者達が乗った列車がプラハ駅に到着する情景からイメージを得たと言われている。この後に序曲「フス教徒」の主題に由来する動機が表れる。第2主題は変ロ長調、フルートとクラリネットが提示する穏やかなもので、弦の小結尾主題が続く。これまでに見られた提示部の反復指定はなく、木管が第1主題を次々に奏して展開部が開始する。次に力強く第2主題が登場し、一旦静まり第1ヴァイオリンが第2主題をさびしげに奏してゆく。木管に第1主題が戻ると、徐々に熱を帯びながらクライマックスを形成し、その頂点で第1主題が再現される。第2主題は繰り返されずに小結尾となる。再現部は全体的に圧縮されている。長いコーダでは第1主題が激しく回想され、この楽章の頂点ともいうべき劇的なクライマックスを築いてゆく。気分が静まり、最後はホルンが第1主題を静かに奏でて終わる。 第2楽章 ポコ・アダージョ(Poco adagio)、ヘ長調、4/4拍子、自由な三部形式の緩徐楽章。 クラリネット、オーボエ、ファゴットが対位法的に絡み内省的で穏やかなコラール風の導入句を奏でた後、フルートとオーボエによる主要主題が始まる。続いてヴァイオリンとチェロによる副次的な旋律が表情豊かに続いてゆく。これが発展して主部が終わる。中間部はホルンの奏でる愛らしい牧歌的な主題が出て、クライマックスが築かれる。クラリネットとホルンの応答の後、フルートとファゴットが残り、チェロが主要主題を奏して主部が回帰する。第1ヴァイオリンで副次旋律も続くが、さらに対位法的に複雑に処理されてゆく。これがひとしきりクライマックスを築いてから静まると、オーボエが導入句を再現し、木管が応答しながら消え入るように終わる。 第3楽章 スケルツォ:ヴィヴァーチェ ― ポコ・メノ・モッソ(Scherzo: Vivace - Poco meno mosso)、ニ短調、6/4拍子、三部形式、スケルツォ。 弦楽器が特徴的なチェコの民族舞曲フリアントのリズムを刻む中、ファゴットとチェロが主題を提示する。中間部はト長調に転じて速度を落とし、明るいカノンを思わせる音楽。更に対位法的処理と展開的様相を見せる。第3部ではやや簡略化される代わりに長いコーダが付けられている。 第4楽章 フィナーレ:アレグロ(Finale: Allegro)、ニ短調、2/2拍子、ソナタ形式。 第1主題はクラリネットとホルンによるうごめくような主題、第2主題はイ長調、チェロによって演奏される民謡風のもので、好対照をなしている。展開部ではこれらの主題に提示部の最後でヴァイオリンが演奏する小結尾主題とが対位法的に処理される。やや変形された再現部の後コーダとなるが、ここでは小結尾主題を扱って盛り上げたところで第1主題の冒頭部分を力強く奏でて速度を上げると、ニ長調・Molto maestoso(非常に荘厳に)に転じて速度を緩め、変形された第1主題を壮大に演奏して、ニ長調で全曲を閉じる。 脚注 注釈・出典 1^ ヴァーツラフ・ノイマン指揮1981年盤〈OF-7036-5〉藤田由之の解説参照。 2^ ピッコロ持ち替えは第3楽章の74~76小節だけである。全音楽譜出版社のスコアのように、ピッコロ持ち替えに気づきにくい出版譜もある。 3^ 当時は現在の領域とは異なり、スロバキアなども含む。ハンガリー王国の歴史的地域を参照。

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『交響曲 第8番 ト長調 作品88, B. 163』 アントニン・ドヴォルザーク

ジョージ・セル指揮 クリーブランド管弦楽団 1958年10月24日〜11月1日録音 交響曲第8番ト長調作品88は、チェコの作曲家、アントニン・ドヴォルザークが作曲した交響曲。古くは出版順により第4番とよばれていた。 概要 第7番以前の交響曲にはブラームスの影響が強く見られ、また第9番『新世界より』ではアメリカ滞在のあいだに聞いた音楽から大きく影響を受けているため、この交響曲第8番は「チェコの作曲家」ドヴォルザークの最も重要な作品として位置づけることができる。ボヘミア的なのどかで明るい田園的な印象が特徴的で、知名度の点では第9番には及ばないものの、第7番などと同様に人気のある交響曲である。 なお、第1楽章の展開部の入り(提示部が繰り返されるかのように始まりながら、展開されていく)、再現部の入り(提示部とは明らかに違った形で始まる)の処理、第4楽章が変奏曲であること、主調が平行調の関係にあることなど、形式面で、ブラームスの交響曲第4番との共通性が見られるのは興味深い。 1889年の8月から11月にかけて、ボヘミアのヴィソカ(チェコ語版)にて作曲され、1890年、プラハにて作曲者の指揮で初演された[1]。 出版の経緯と副題 ドヴォルザークは、すべての作品をジムロック社から出版する契約を結んでいたが、ジムロック社は低い作曲料を上げようとせず、また小品ばかり要求し(この交響曲第8番の作曲の際も1000マルクしか支払おうとしなかった)、交響的変奏曲や弦楽五重奏曲第2番、交響曲第5番などでは彼の意向を無視した作品番号を勝手に付与していたため、ドヴォルザークは契約を一方的に破棄してイギリス、ロンドンのノヴェロ社からこの作品を出版した。そのため、かつては『イギリス』という愛称で呼ばれることもあったが、音楽の内容はイギリスというよりもむしろチェコであり、最近では『イギリス』と呼ばれることはほとんど無くなった。 楽器編成 フルート2(第1楽章の冒頭、11小節と1拍分のみピッコロ持ち替え) オーボエ2(第1楽章の再現部、2小節半のみコーラングレ持ち替え) クラリネット2 ファゴット2 ホルン4 トランペット2 トロンボーン3 チューバ ティンパニ 弦五部 構成 第1楽章 Allegro con brio ト長調、自由なソナタ形式。ト短調による序奏で開始される。このト短調の序奏はこの後も二度にわたって再現されるため、第1主題の一部という解釈も存在するが、楽想が完全に独立していることと調性が違うことから序奏とみるのが一般的である。ティンパニの連打が盛り上がり、フルートに導かれて明るい第1主題がト長調で現れる。第2主題はロ短調で木管に現れる。小結尾主題も力強く明るい。第7交響曲同様、この提示部にも反復の指定はない。再びト短調の序奏が現れ、展開部に入る。第1主題を中心に劇的に展開され、クライマックスを形成していく。その頂点で序奏が回帰し再現部へ入る。第1主題は提示部と同じように木管に現れるがほとんど発展せずに第2主題部へ移行し、小結尾も型どおりに再現される。そのまま劇的なコーダへなだれ込み、テンションを維持したまま曲を閉じる。 第2楽章 Adagio ハ短調、自由な三部形式。中間部は長調に転じ、フルートとオーボエのソロの後にヴァイオリンのソロが現れる。コーダで中間部が回想される。ところどころ激しく感情的な部分があるが、最後はハ長調で静かにおわる。ドヴォルザークらしい独創性に富んだ楽章。 第3楽章 Allegretto grazioso - Molto vivace ト短調、三部形式。全曲中最も有名。3拍子の舞曲で、スケルツォではなくワルツ風である。中間部の旋律は、歌劇『がんこな連中』からとられたものであり、ト長調4拍子となる力強いコーダもまた同じ素材を元にしている。 第4楽章 Allegro ma non troppo ト長調、自由な変奏曲。全体は主題と18の変奏からなるが、ブラームスの交響曲第4番の終楽章を参考にしたらしく、全体はソナタ形式風のものにまとめられている。トランペットによるファンファーレの導入のあと、ティンパニのソロがあり、チェロによって主題が静かにゆっくりと提示される。ゆっくりのままで何度か変奏されたのち、次は力強く速く変奏される。ここではホルンのトリルが特徴的である。第4変奏が終わり、短い経過句の後、第2主題に相当するハ短調の第5変奏が始まる。しばらくはこの主題を元に激しく展開し、短い展開部を経て、導入のファンファーレが戻ると再現部に相当する部分に入る。提示部の主題と同じく穏やかな気分で変奏が行われ、しばらくして休符があると、輝かしいコーダに入る。 演奏時間 約35-40分。ドヴォルザークの交響曲ではやや短めである。 第1楽章:9.5 - 11.5分 第2楽章:10 - 12.5分 第3楽章:5.5 - 7分 第4楽章:8.5 - 11分 備考 新潟大学准教授の宇野哲之は、第4楽章はボヘミア独立の英雄を描いており、チェロで奏される第1主題が英雄の勇気と慈悲を表すテーマ、第2主題はメフテルの形式からなっており、これは当時「トルコ軍楽隊」と呼ばれていたオーストリア軍楽隊、すなわちボヘミアを支配していたハプスブルク帝国を表しているという説を発表している[2]。 脚注 出典 1^ a b 属啓成『名曲事典』音楽之友社、1981年、347頁。 2^ 『ドヴォルジャーク《交響曲第8番作品88》第4楽章に関する研究』単著、上越教育大学研究紀要第20巻第2号、2001年、277 - 290頁NAID 110000530692

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『交響曲第7番ニ短調 作品70、B.141』アントニン・ドヴォルザーク

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 この記事の項目名には以下のような表記揺れがあります。 アントニン・ドヴォルザーク アントニン・ドヴォルジャーク アントニン・ドヴォルジャック アントニン・ドヴォジャーク アントニン・ドボルザーク アントニーン・ドヴォルザーク Antonín Dvořák Dvorak.jpg 基本情報 出生名 アントニーン・レオポルト・ドヴォルザーク Antonín Leopold Dvořák 生誕 1841年9月8日 オーストリア帝国の旗 オーストリア帝国 ネラホゼヴェス 死没 1904年5月1日(62歳没) Flag of Austria-Hungary (1869-1918).svg オーストリア=ハンガリー帝国 プラハ ジャンル ロマン派、国民楽派(ボヘミア楽派) 職業 作曲家 アントニーン・レオポルト・ドヴォルザーク(チェコ語:Antonín Leopold Dvořák [ˈantɔɲiːn ˈlɛɔpɔlt ˈdvɔr̝aːk] Cs-Antonin Dvorak.ogg 発音[ヘルプ/ファイル]、1841年9月8日 - 1904年5月1日)は後期ロマン派におけるチェコの作曲家。チェコ国民楽派を代表する作曲家である。チェコ語の発音により近い「ドヴォルジャーク」[1]「ドヴォジャーク」[2]という表記も用いられている(表記についてはドヴォジャークを参照)。 ブラームスに才能を見いだされ、『スラヴ舞曲集』で一躍人気作曲家となった。スメタナとともにボヘミア楽派と呼ばれる。その後、アメリカに渡り、音楽院院長として音楽教育に貢献する傍ら、ネイティブ・アメリカンの音楽や黒人霊歌を吸収し、自身の作品に反映させている。代表作に、弦楽セレナード、管楽セレナード、ピアノ五重奏曲第2番、交響曲第7番、交響曲第8番、交響曲第9番『新世界より』、スラヴ舞曲集、この分野の代表作でもあるチェロ協奏曲、『アメリカ』の愛称で知られる弦楽四重奏曲第12番などがある。 出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 交響曲第7番ニ短調(こうきょうきょくだい7ばん ニたんちょう)作品70、B.141は、ドヴォルザークの交響曲。1884年から1885年にかけて作曲された。それまで発表されてきた交響曲とはやや趣が異なり、スラブ的な雰囲気を残しつつも内省的で普遍的な音楽として仕立てることに成功しており、作曲者自身この曲を「本格的なもの」と呼んでいる。第9番「新世界より」ほどではないが、第8番と共にドヴォルザークの交響曲では良く取り上げられる楽曲である。主調が平行調である点や、第1楽章、第4楽章の拍子、第2楽章の楽器法などから、ブラームスの交響曲第3番からの影響を指摘する見解もある 作曲の経緯 1884年3月、ロンドン・フィルハーモニック協会の招きで、ドヴォルザークは初めてロンドンを訪れた。ロンドンではすでに交響曲第6番が好評を博しており、ドヴォルザークは熱狂的な大歓迎を受けた。帰国後ほどなくして、フィルハーモニック協会の名誉会員に選ばれたとの知らせと新作交響曲の依頼を受けた。前年の1883年にブラームスの交響曲第3番の初演を聴いて新たな交響曲の作曲に意欲を抱いていたドヴォルザークは、ロンドンからの申し出をただちに承諾した。9月に再度渡英し、帰国後の12月13日から交響曲に着手し、1885年3月17日に完成した。同年4月に三たび渡英し、4月22日にセント・ジェームズ・ホールで初演の指揮を執っている。この演奏会は大成功で、ウィーンでハンス・リヒターが、ドイツではハンス・フォン・ビューローが相次いでこの曲を採り上げた。 演奏時間 全曲で約37分 曲の構成 第1楽章 アレグロ・マエストーソ(Allegro maestoso)、ニ短調、6/8拍子、ソナタ形式。 D音の持続音と遠雷を思わせるティンパニの響きに乗り、ヴィオラとチェロによって暗い第1主題が提示される。これは反ハプスブルクの祭典に参加するためにハンガリー[3]からの愛国者達が乗った列車がプラハ駅に到着する情景からイメージを得たと言われている。この後に序曲「フス教徒」の主題に由来する動機が表れる。第2主題は変ロ長調、フルートとクラリネットが提示する穏やかなもので、弦の小結尾主題が続く。これまでに見られた提示部の反復指定はなく、木管が第1主題を次々に奏して展開部が開始する。次に力強く第2主題が登場し、一旦静まり第1ヴァイオリンが第2主題をさびしげに奏してゆく。木管に第1主題が戻ると、徐々に熱を帯びながらクライマックスを形成し、その頂点で第1主題が再現される。第2主題は繰り返されずに小結尾となる。再現部は全体的に圧縮されている。長いコーダでは第1主題が激しく回想され、この楽章の頂点ともいうべき劇的なクライマックスを築いてゆく。気分が静まり、最後はホルンが第1主題を静かに奏でて終わる。 第2楽章 ポコ・アダージョ(Poco adagio)、ヘ長調、4/4拍子、自由な三部形式の緩徐楽章。 クラリネット、オーボエ、ファゴットが対位法的に絡み内省的で穏やかなコラール風の導入句を奏でた後、フルートとオーボエによる主要主題が始まる。続いてヴァイオリンとチェロによる副次的な旋律が表情豊かに続いてゆく。これが発展して主部が終わる。中間部はホルンの奏でる愛らしい牧歌的な主題が出て、クライマックスが築かれる。クラリネットとホルンの応答の後、フルートとファゴットが残り、チェロが主要主題を奏して主部が回帰する。第1ヴァイオリンで副次旋律も続くが、さらに対位法的に複雑に処理されてゆく。これがひとしきりクライマックスを築いてから静まると、オーボエが導入句を再現し、木管が応答しながら消え入るように終わる。 第3楽章 スケルツォ:ヴィヴァーチェ ― ポコ・メノ・モッソ(Scherzo: Vivace - Poco meno mosso)、ニ短調、6/4拍子、三部形式、スケルツォ。 弦楽器が特徴的なチェコの民族舞曲フリアントのリズムを刻む中、ファゴットとチェロが主題を提示する。中間部はト長調に転じて速度を落とし、明るいカノンを思わせる音楽。更に対位法的処理と展開的様相を見せる。第3部ではやや簡略化される代わりに長いコーダが付けられている。 第4楽章 フィナーレ:アレグロ(Finale: Allegro)、ニ短調、2/2拍子、ソナタ形式。 第1主題はクラリネットとホルンによるうごめくような主題、第2主題はイ長調、チェロによって演奏される民謡風のもので、好対照をなしている。展開部ではこれらの主題に提示部の最後でヴァイオリンが演奏する小結尾主題とが対位法的に処理される。やや変形された再現部の後コーダとなるが、ここでは小結尾主題を扱って盛り上げたところで第1主題の冒頭部分を力強く奏でて速度を上げると、ニ長調・Molto maestoso(非常に荘厳に)に転じて速度を緩め、変形された第1主題を壮大に演奏して、ニ長調で全曲を閉じる。