嗚呼懐かしのメロンパン

 テレビでパン特集をするたびに、思い出すものがある。ふわふわでサクサクしていて、ほんのり優しい甘さと、保温されていて緩やかに温かいメロンパンの存在を。

 あれはまだ僕が子供の頃──具体的には小学生から中学生くらい──近所のスーパーに、メロンパン専門の出店があった時のお話。当時の僕はそのメロンパン専門店のメロンパンに、すっかり夢中になっていた。
 ガラスケース越しに並べられているその子は、子供の僕にはちょっとどころではない贅沢品で。祖母がくれたお年玉を切り崩した百円玉を握りしめ、夕方に買いに行っていたのだったかな……。
 妹にもあげたくなかったから、店員さんから受け取ったら、その場でガツガツと食べてしまって。その出店がスーパーに来てくれていたのは秋から冬の間だったものだから、僕は指先や頬を寒さで赤くしながらも通うことをやめられなかった。

 そのメロンパンを、僕は今でも鮮明に思い出してしまう。子供の頃の出来事だもの、きっと思い出補正もあるのだろう。自分でも、そうは思うのだけれど。それでも、あの時食べたメロンパンの味が、温もりが忘れられなくて。僕はふと流れているパン特集番組を見た時や、パン屋さんに立ち寄った時なんかに思い出してしまうのです。
 あのメロンパン以外を食べても、なんだか心が満たされなくて。今どこでメロンパンを売り歩いているのか僕には分からないけれど、いつかまた何処かで再会出来たらなと思うのでした。

 表面はカリカリしていて、中はしっとり柔らかくって。ふんわりした生地が唇に触れるものだから、慌てて食べているはずなのになんだかほっとしてしまって。店員さんはとびきり優しくて、メロンパンを焼く時に出た余りなんかをただで手渡してくれたりもして。
 そんな思い出を、僕は今でも思い返してしまうのだ。

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