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漫画「残酷な神が支配する」

こんにちは。
萩尾望都さんの「残酷な神が支配する」の話をします。ネタバレします。

初めて読んだのは大学生の時、当時はマーガレットとかクッキーとかの幸せな少女漫画ばかり読んでいたので、かなりの衝撃を受けました…
確か3巻くらいで辛すぎて耐えられなくなって読むのをやめてしまい、完読したのは社会人になってからです。

先日、これを旦那が読んでくれまして、嬉しいので、話題にしようかなと思います。

といっても、この漫画について感想と言える代物は私の中には無いのですが。内容を理解出来ているか自信がないからです。
心から好きな漫画であることは間違いないですが、理解できていない以上は語りがたいのです。

ですが、取り敢えず文字を並べてみます。
この度、旦那に読んでもらうついでに久しぶりに自分もパラパラと読み返して、以前から随分と読み心地が変わったなと感じました。
初めて読んでギブアップした10代、何とか読破した20代、そして現在、30代の私が読んだ感触は全く違うものだったわけです。
このままいけば40代になる私が読み返した時にも、また違う心地を味わうだろうので、今の思うところを少し書き残してみようという試みです。自分の変化を味わいたいのです。

以上、長くなりましたが前置きです。

まず、どちらかと言えば序盤が好きでした。
この漫画の紹介文で「破滅と再生の物語」というコピーをどこかで目にしましたが、それでいうと「破滅」にあたる、ジェルミの精神が破壊されていく件りが好きだなと思いました。
10代に読んだ時にはあんなに辛くて苦しくて到底読み進められなかったのに、これを面白がれるようになるなんて、随分冷めたものです。

ジェルミの孤独と絶望が、殺意と憎悪が、本当にうまく描かれていて、読んでいるとこちらの心まで壊されていきます。なんというか、きちんとジェルミの主観を描き切っているのが良いです。情緒がブレていく感じが本当にリアルで、これが不思議に気持ちよく思えたのは何故でしょうか。

1番好きなシーンは、3巻で、バラバラになりそうなジェルミの心が、バレンタインに手を触れられたことで持ち直すところです。スクエアに散っていく身体がストライプに戻っていく。
とにかく、この漫画は、心が砕かれたり壊されたりする描写(感情表現)が凄まじく上手くて、もはや美しいです。

あと、イアンがジェルミの告白を受け入れて自分の無知を知り、深い悲しみに襲われて、夜の森を徘徊するシーンも好きです。
イアンの悲しみは優しいですよね。身内の何をも理解できていない自分に絶望して涙を流す…辛いのは間違いないですが。

あまり知ったようなことを言いたくはないですが、どんなに辛い出来事であっても、経験している間に、自分自身が生きている限りは、そこから何かを得てしまうということでしょうか。
認めたくなくても、その痛みそのものが自分のものになってしまうというか。アイデンティティのようなものに。グレッグではなく、このような自分自身こそが「残酷な神」なのではないかとおもいます。
「残酷な神」を身に宿していく(ジェルミが傷ついていく)過程が、なんかよく分からんが、美しいなぁと思ったのでした。

物語の後半は、居なくなった筈のグレッグがジェルミの中に生き続けていることへの苦悩、実母であるサンドラが事態を把握していながら助けてくれなかったことへの混乱などなどが描かれます。
元は、「破滅と再生の物語」って、すごく的を得たコピーだなと思って記憶していたのですが、読み返してみると、いやこれは果たして「再生」しているだろうか、と疑問に思いました。
どちらかと言うと、壊れ続けているような。かさぶたを剥がして、もう元に戻りようもなく膿んでしまって、違う形状へ変わってしまっているというか。
私は「自然」を信じすぎているのかもしれません。

前々から思っていたことですが、私は他者に対して「憎しみ」を抱いたことがないと思います。
嫉妬なら分かりますが、愛憎、憎しみ、と言われると…
理解できれば、この漫画をもっと堪能できるかもしれないです。そんな気がします。


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