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Noname『Sundial』とアフロフューチャリズム

2023年8月11日に、Noname(ノーネーム)ことファティマ・ワーナー(Fatimah Warner)がアルバム『Sundial』をリリースした。本作は映画『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』にインスパイアされたという。

この映画は、大雑把にいうと、「中国系アメリカ人エヴリンが、並行世界(マルチバース;マーベルで散々聞かされただろう)に存在する数多のエヴリンの力を借りて、悪と対峙していく」アクション・エンターテインメントである。それになぞらえて、Nonameは「もし、異なる次元の私が『Telefone』を作ったらどうなるか」という考えのもと、製作に取り掛かった。毎回アルバムごと、または曲ごとに違うテイストを盛り込んでいくのはアーティストにとっては、当たり前のことだと思うが、Nonameの場合、思想が宇宙にまで飛躍しているのは見逃せない。

日本語版ポスター
Noname『Telefone』

ここで、取り上げたいのは「アフロフューチャリズム」というイズムだ。これは、アフリカ系アメリカ人/黒人文化を、主にテクノロジー、未来、宇宙といったSFなどと絡めた美学を中心に展開する哲学である。筆者がこの言葉を意識したのは、『アフロフューチャリズム ブラック・カルチャーと未来の想像力』(2022、フィルムアート社)という本を拝読したのが始まりだった。

著者のイターシャ・L・ウォマックは映画・音楽・小説・美術・コミックスなどの実例と、当事者たちへのインタビューから、アフロフューチャリズムは「想像力、テクノロジー、未来、解放の交差点」であり、「SF、歴史小説、思弁小説〈スペキュレイティブ・フィクション〉、ファンタジー、アフリカ中心主義〈アフロセントリシティ〉、マジックリアリズムといった要素を非西洋的な思想と結びつける」思想だと定義づけます。

フィルムアート社HP

一部表層だけをなぞってみるだけでも、いかにアフロフューチャリズムにのっとって製作されたかが分かる。まず、アルバムタイトルの“sundial”は「日時計」を意味する。Complex誌とのインタビューではこう話している。「影と光を使うことで、自分たちがどこにいるのかがわかるようになる。今が何時で、どこにいるのか、クールだと思ったし、このアルバムはまさにそれを表現していると思う。私はいつも、光と闇という二面性で勝負しているの。もちろん、このアルバムを聴いても、『“Telefone”が違う次元で作られたら、こんな音になったんだろうな』なんてことは分からないだろうけど、ジャケット・アートもそれを少し表現しようとしてる。」

1曲目の「black mirror」から、Netflixドラマ『ブラック・ミラー』を結びつけるのは容易だ。これは、「人間の醜さと最新のテクノロジーなどをテーマに、ひねりを効かせた予想外のストーリーを描き出す、現実の枠をこえたオムニバスシリーズ」である。しかし、リリックに目を向けると、光と闇というモチーフを中心に、自分の立場を明確にしている。

3曲目の「balloons」は何かと物議を醸したが、ここでは非難の原因は割愛させていただく。この曲のリリックでも、宇宙が舞台になっている。

“I’m on the moon, I cry balloons(わたしは月の上で涙を流す風船)

〜省略〜

We on a spaceship

We waitin' under the dark moon

Where you at and where you go?

Supernova stars gon' take us home

Baby, hit me back, where you at?

We are on a spaceship”

9曲目の曲名は「afro futurism」だ。ゾンビであったり、軌道(“orbit 'round me”)、彗星(“you are a comet”)、太陽(“A ferret on solid ground remembers a hound dog don't bark at the sun”、“let my sun shine for you”)そのものといった普遍的な物体についての言及している。

このように、『Sundial』には、アフロフューチャリズムを意識したであろう痕跡が散りばめられている。音楽面だけでも、先人にはサン・ラーなどがいたり、その系譜にこのアルバムがあると思うと感慨深くなる。

『Sundial』について詳細を知りたい方は、塚田桂子さんがTURN誌で書かれた記事があるので、そちらをご覧ください。

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ROY
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