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世界へ飛び出せ、若手騎手たちよ。

2013年も外国人ジョッキーが大いに活躍した年であった。桜花賞のデムーロ兄弟のワンツーに始まり、ミルコ・デムーロ騎手による皐月賞、ライアン・ムーア騎手によるジャパンカップと朝日杯フューチュリティS、クリストフ・ルメール騎手によるJCダートまで、多くのG1レースを海外から来たジョッキーが制したことになる。オリビエ・ペリエ騎手が本格的に来日し始めた2000年前後の衝撃から10年以上が経ち、外国人ジョッキーが中央競馬に騎乗し、勝利するのは日常の風景となった。

これだけ外国人ジョッキーの活躍が目立つと、それに対して異を唱える者も出てくる。このままでは未熟な若手騎手を中心に騎乗機会が奪われてしまうことで、日本人騎手が育たなくなってしまう、というのがおおよその論である。また、外国人ジョッキーばかりでは競馬ファンが離れてしまう、という見方もある。週刊「Gallop」の創刊20周年記念企画のひとつとして、吉田照哉氏(社台ファーム代表)と吉田勝己氏(ノーザンファーム代表)と前田幸治氏(ノースヒルズ代表)による超BIG対談が掲載され、その中で前田氏はこのように語っていた。

前田幸治氏(以下、敬称略)
「外国といえば、実は私、お2人にお願いがあるんです。少し外国人騎手を使うことを控えていただきたいのです。相撲界を見ていて、つくづく感じます。外国人力士が多くなりすぎて人気がなくなったように、外国人騎手ばかりが勝つと相撲と同じようになりかねません。それに、同じ勝負服ばかりというのもファンに飽きられます。…」

前田氏には個人的に最大限のリスペクトを持っているが、私はこの考えに関しては、諸手を挙げては賛成できない。競馬人気がなくなってきた理由が、なぜ外国人ジョッキーが多くなったことや同じ勝負服が増えたこととつながるのだろうか。1998年をピークとして中央競馬を始めとする競馬産業が縮小しつつあるのは、人口動態の変化や経済状況といった大きな流れの中で、あらゆる要因が複雑に重なり合って起こっている現在進行形の事象であって、外国人ジョッキーや勝負服の問題はそのひとつにすぎない。

馬と人のドラマがなくなったという面は確かにあるが、昔だって良い馬は一握りの一流騎手に乗り替わりになるのが必然であった。外国人だと思い入れができないというのは、最終的には個人の思想に帰結する問題である。勝負服に関していえば、もし気になるならば(必要ならば)、馬ごとに勝負服を変えてもよい制度にすればよいだろう。よく考えていくと、問題の本質はそこにはない。

前田氏の提案に対して、吉田勝己氏はこう答えている。

吉田勝己氏(以下、敬称略)
「ですが、日本のジョッキーにも、もっとうまくなってもらわないと…」
前田
「それはそうです。若手のなかには、芸能人と勘違いしている騎手もいます。それについては、本人たちが自覚を持って改めてほしいです。それに今の若い日本人騎手には、外国人騎手が持っているようなハングリー精神が足りないですね」
吉田勝己
「技術差もありますよ」
前田
「それもそうですが、勝てばいいと外国人騎手ばかり乗せるのも…。ファン離れの一因になっていると思います。お二人には、ぜひこの2点を理解していただきたいです。
吉田勝己
「馬を走らせなきゃ、私らはやっていけませんから。生産馬を売るためには、すべてにおいて最善を尽くさないといけません。技術に優れた外国人騎手が入ることで日本人騎手の腕も上がるはずです。それに、海外の一流騎手が来て、その技術が見られるのは日本の競馬ファンにとって幸せなことですよ」

ここまで言われてしまうと、反論の余地はない。前田氏と吉田勝己氏の対話から、彼らに見えているものの違いが浮かび上がってくる。吉田勝己氏には「技術」が見えているが、前田氏には見えていないのである。正直に言うと、それは私も含めた競馬ファンも同じで、日本人騎手と外国人ジョッキーの技術の違いが見えないのである。私たちは吉田氏ほど命がけで騎手の技術を見ていないし、海外のあらゆる競馬場であらゆるジョッキーたちの技術を目の当たりにしていない。分からなくて当然なのであるが、だからこそ外国人ジョッキーを巡る議論は平行線を辿って交わることはない。

吉田勝己
「日本の競馬がトップになるというのが一番なんです。トップになりますよ。なれると思います。トップにしないと、私らは生きていけないですよ」

日本の競馬が頂上を目指して、これからも生き残っていくのであれば、技術が高いところに騎乗の依頼が行く流れには抗いようがない。M・デムーロ騎手は今年、騎手免許の一次試験に落ちてしまったが、いずれは年間を通して騎乗する外国人ジョッキーが現れ始めるだろう。そうなったとき、日本人騎手はどうすればよいのだろうか。地方と中央競馬の垣根を取り払い、貪欲さがあればできる限り多くの騎乗機会を得られるシステムにするのは当然として、もっとも大切なことは、(できるならば)才能のある若手騎手たちが、海外の競馬で腕を磨くために長期間にわたって世界へ飛び出すことだ。磨かれれば輝くダイヤの原石は、実は日本人騎手の中にもたくさん眠っているはず。2013年、藤岡佑介騎手が1年近くフランスに遠征したことには大きな意味があるし、もっと欲を言えば、活躍するまで帰ってくるなという気持ちで私たちも送り出さなければならない。吉田勝己氏の言葉を借りれば、誰かがトップにならないと、日本の騎手たちは生きていけないのだ。

Photo by Koichi Miura







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