【誰得解説】「保育所の屋外園庭」の制度の根拠

大津の痛ましい事件に胸を痛めつけられます。

まずは被害児童の方のご冥福を心からお祈り申し上げます。


さて,こういった事件があると,SNS上やワイドショーでは,たまに謎着眼点の批評が出てきます。今回も例外ではなく,その一つに,「保育所の屋内の園庭で保育をしていれば事故はなかった」論があったようです。

(さすがに的外れすぎてすぐ消えたような気はしますが)


ところで,保育所の園庭って,必ずしも作らなくてもいいのでしょうか。

ふと思い立ち,これを機に(という言い方が適当ではないかもしれませんが…),制度の定め方を整理してみたいと思いました。


保育所というのは,児童福祉法上の児童福祉施設の一種です(児福法7条1項)。そして,児童福祉施設の設備又は運営については,都道府県が条例で定めることとなっていますが(同45条1項),施設・設備に関しては,厚生労働省令に定める基準に従う必要があります(同45条2項2号)。

そこで,該当する厚生労働省令「児童福祉施設の設備及び運営に関する基準」の該当箇所を確認してみます。

第32条 五 満二歳以上の幼児を入所させる保育所には、保育室又は遊戯室、屋外遊戯場(保育所の付近にある屋外遊戯場に代わるべき場所を含む。次号において同じ。)、調理室及び便所を設けること。

ということで,「園庭」と呼ばれているものは,正式には「屋外遊戯場」という名前であり,「保育所の付近に屋外遊戯場に代わるべき場所」で代替できることがわかります。なお,第6号で,屋外遊戯場の面積は,幼児一人につき3.3平方メートル確保することとされています。


では,この屋外遊戯場は,面積基準さえ満たせばどういう場所にあってもいいのでしょうか?相当場所が離れていても良いのでしょうか?安全面などはどう定められているのでしょうか?

この点,児童福祉施設としての保育所を設置するためには,都道府県知事の認可を得る必要があります(児童福祉法35条4項)。(つまり認可外は「保育所」ではありません。認可外保育「施設」と表記されているのはこのためです。)

で,各都道府県は,この認可にあたっての審査基準を定めています。例えば,ネット上でみつけた神奈川県の審査基準によると,

(3) 第5号に規定する「屋外遊戯場に代わるべき場所」とは、公園、広場、寺社境内等とし、次の要件に該当するものであること。
ア 屋外遊戯場の面積基準を満たしていること。
イ 屋外活動に当たって安全が確保され、かつ、保育所からの距離が乳幼児同伴で徒歩 10 分程度であって移動に当たって安全が確保されていること。
ウ 当該公園、広場、寺社境内等の所有権等を有する者が、地方公共団体又は公共的団体その他地域の実情に応じて信用力の高い主体等、保育所による安定的かつ継続的な使用が確保されると認められる者であること。
(4) 屋外遊戯場は、保育所の建物が耐火建築物の場合であって、用地が不足し、地上に利用可能な場所がないときに限り、当該保育所の建物の屋上を利用した屋外遊戯場とすることができることとし、その設備は、条例第44 条第6号に定める基準のほか、次の要件を満たすこと。
ア 屋上施設として、便所、水飲場等を設けること。
イ 職員、消防機関等による救出に際して支障のない程度の階数の屋上であること。
ウ 屋上から地上又は避難階に直通する避難用階段が設けられていること。
エ 屋上への出入口の扉は、特定防火設備に該当する防火戸であること。
オ 屋上の周囲に、上部を内側にわん曲させた金網その他乳幼児の転落防止に適した構造の柵を設けること。
カ 条例第 44 条第8号キに規定する非常警報器具又は非常警報設備は屋上にも通ずるものとすること。

といった点が認可時に審査されていることがわかります。単に面積基準を満たしたスペースがあれば何でもいいわけではないのです。

なお,屋外遊戯場の活用については,2001年に厚労省が待機児童解消のための規制緩和を推し進めたことが背景にあるようです(平成13年3月30日 雇児保発第11号厚生労働省雇用均等・児童家庭局保育課長「待機児童解消に向けた児童福祉施設最低基準に係る留意事項等について」)。

(2)屋外遊戯場について
児童福祉施設最低基準においては、満2歳以上の幼児を入所させる保育所は屋外遊戯場を設けることとされているが、併せて、屋外遊戯場に代わるべき公園、広場、寺社境内等が保育所の付近にあるのであれば、これを屋外遊戯場に代えて差し支えない旨も規定されているところである。土地の確保が困経で保育所と同一敷地内に屋外遊戯場を設けることが困難な都市部等において、屋外遊戯場に代わるべき場所に求められる条件は、次のとおりであり、合理的な理由なくこれら以外の条件を課すことによって保育所の整備が滞らないよう配慮されたい。
① 当該公園、広場、寺社境内等については、必要な面積があり、屋外活動に当たって安全が確保され、かつ、保育所からの距離が日常的に幼児が使用できる程度で、移動に当たって安全が確保されていれば、必ずしも保育所
と隣接する必要はないこと。
② 当該公園、広場、寺社境内等については、保育所関係者が所有権、地上権、賃借権等の権限を有するまでの必要はなく、所有権等を有する者が地方公共団体又は公共的団体の他、地域の実情に応じて信用力の高い主体等
保育所による安定的かつ継続的な使用が確保されると認められる主体であれば足りること。

このように見てくると,「保育園の園庭」といっても,一つ一つ見ていくとルールや経緯が複雑であることがわかりますね。

(何事も正確な議論には,前提のリサーチが大切だということが感じられます…)

なお,今回まとめたのはあくまで「保育所」のルールです。家庭的保育事業とか,こども園,幼稚園はまた別の事業ですから,それぞれ違った定め方になっていますので,ご留意ください。


(調べ出すと思ったより時間がかかってしまいました…)







お読みいただきありがとうございます。サポートはとても励みになります。これからもよろしくお願いいたします。