短編小説「人間関係ってめんどくさくね?」

俺は人間関係を作るのが苦手だ。何故かって?だってそうだろう?自分と違う性格、環境、人と関わるのがそもそも間違っているんだ。だから俺は明確な関係を作ることはしない。いつだって消すことが可能な関係を保っている。
その関係を保つことは意外と難しい。誰とも会話を一切せずに机に座ってるだけだと、いちばん関わりたくない不良たちが無理やり関係を作ってくからな……
申し訳ないが、そういう役は他の人がやってくれることを信じて、俺はクラスメイトへのあいさつをして、情報共有を徹底している。

「優希くん!おはよ~」
「うん。おはよう」
あいさつをされたら返す。これは基本だ。あいさつを返さないだけで印象は大きく下がる。下がってしまったものを取り戻すのはとても難しい。なんなら不可能に近い。ひとこと「おはよう」と言うだけでいいんだ。なんの問題もない。問題はここからだ。

「おう優希。お前今朝のニュース見たか?」
「あぁ、声優の結婚だっけ?お前が好きな声優だったよなたしか。」
「そうなんだよ~。俺ショックでさぁ。電車に乗ってから学校までの記憶ないぐらいなんだよ……」
「そっか……まぁ、別に声優を辞めるわけじゃないんだし、元気出せよ。」
「まぁそうだよな。ありがとう優希。話聞いてもらって少し気が紛れたわ。」
まぁ、こんなところである。普段から会話するやつだが、こいつが何が好きで、どんな性格かぐらいは把握してないとそもそも会話が成り立たない。他の奴との会話もだいたい
「優希。昨日配信された曲聞いたか」
とか
「なぁ、昨日のドラマ面白かったな」
とか、まぁ普通に学生してたらこんな話題ばっかりだ。
ここで、「知らない」の一言だけは言えない。会話が広がらないからな。追いかけられていない情報が飛んできたとしても、どうにかして相手から情報を聞き出す。それが基本だ。
ちなみに、俺から会話を始めることは基本ない。情報を集めているだけだからな。俺から話題が生まれることがない。……作りたいとも思ったことは無いが。
そんな感じで、相手に深入りしない、させない友人関係作りに毎日勤しんでいる。

そんな平凡な毎日を乱す奴が最近現れたんだ。
「ゆ~う~き~くん!おっはよ~」
「あぁ…おはよう……」
そう、こいつだ。名前は咲乃。誰にでも分け隔てなく話しかけてくるから、クラスで一番の人気者である。
「あれぇ?優希くん元気なくない?大丈夫?」
「俺はいつもこんな感じだけど?あと、あと少しで授業始まるから準備でもしたらどうかな」
「あ~、そうだね!ありがとっ優希くん!では、またあとで~」
そんな感じで、理由はわからないが休み時間になると毎回話しかけてくる。なんでだろうな。全く理由がわからない。
話しかけてきたやつの話を無視することは一番やってはいけない行為だから、毎回こいつの会話を聞いている。日課の情報収集も全く捗らない。

「授業終わりましたなぁ優希くん。さっきの授業はどうだった?」
「どうだったって、普通だったよ。小テストも前回の授業でアナウンスされてたしね」
「あれ?そうだったかなぁ。わたし小テストって聞いてびっくりしちゃったけどな~」
「……さいですか」
「あぁ~。その反応はいただけないなぁ」
知るか。本気で興味ないからな。なんで俺はこいつの小テストができなかった報告を聞かなくてはいけないのか。
「まぁ、小テストばっちり解けたんですけどね。わたし」
「……さっきまでの話いらなかったよね?」
「そんなことないよ!優希くん毎回そんな感じの反応だけど、そんなんじゃダメだよ?」
本気で興味がないからな。と言えればなんと楽なことか、絶対に言わないけれど。
「そういえば、優希くんは家では何やってるの?ゲームとか?」
「ん?」
「だから、家ではどんなことに時間使ってるの?」
「俺は……流行りのドラマを見たり、音楽を聴いてるかな」
実際間違いじゃないしな、楽しんでいるかは別として。
「へぇ~そうなんだね。意外かも」
「意外って、あんたの中で俺の印象はどうなんだよ…」
「咲乃」
「ん?名前は知っているけど?」
「いや、もう何回も言ってるけど名前で呼んでよ!咲乃って」
「あぁ、……咲乃さん」
「はい!完璧!で、さっきの質問だけど~……」
名前で呼ばないと会話を止めて名前呼びを強要してくる。普段から名前を呼ばないから、めんどくさい。
名前呼びは、俺の中では人間関係を強固にしてしまうと思っているから、呼ばないようにしているんだが、会話を止めないために仕方なく名前を呼ぶ。……毎回忘れるが。

「優希くん?……優希く~ん?」
「聞こえてるから、何回も呼ばないでほしい……」
「返事をしない優希くんがいけないんだよ」
「本を読んでいる人に話しかける方が失礼だと思うんだけど…」
本読んでますアピールは失敗か……他の奴ならいけるんだがな。
「さて、話は変わりますが、優希くんは休日は何をして過ごすの?」
「俺は家にずっといるかな」
「友達と遊びに行くとかは?」
「しないけど…」
まず、友達という関係を俺は作っていない。相手がどう思ってるかは別として。
「……もしかして、友達いないの?」
「いや、学校で話す奴はいるけど、遊びに行くまではないかな」
「え~、それって友達なの?」
友達だとは思ってないから、俺にもわからん。
「ん~、じゃあわたしと遊びに行く?」
「いかないけど……」
「なんでよ~。毎日こんなに話してるのに、わたしとの会話楽しくないとか?」
楽しくはないぞ。
「休みの日はゆっくりしたいから」
「そっか…強制はできないしね。遊びたくなったらいつでもいってね!わたしは大歓迎だよ!」
「まぁ、考えておくよ」
絶対にそんなイベントは発生しないと思う。

咲乃さんとの関係が深まり過ぎないようにこちらが行動しても、あちらが距離を詰めてくる。いったいどうすればいいんだ。正直に言うか?つっぱねるか?……どちらも悪手な気がする。普段話しかけてくるやつらも、最近は話しかけてこない。やっぱり、咲乃さんとの件をどうにかしないと。
「優希くん。難しい顔してるけど、悩み事~?」
「……まぁ、そんなところ」
あなたが原因ですけれども、
「わたしにできることがあれば相談に乗りますよ。どんとこいです!」
「……」
できたら苦労しないんだよなぁ…
「……もしかして、わたしのことかな?」
「えっ……」
「……あたりっぽいね。そうなら、なおさら相談してほしいな。」
「いや、でも……」
なんて言えばいいんだ。『おまえとの人間関係に悩んでる』とか言えないよな。
「ねぇ、正直に言ってよ。怒ったりしないからさ」
「……わかった。正直に話すから、まず俺の話を聞いてほしい」
「わかったよ。黙って聞いてるね?」
「……俺は人間関係を作る必要がないと思ってるんだ。けど、全く誰とも関りを持たないわけにもいかないから、いつ消えてもいい関係を作ってたんだ。けど、咲乃さんと話すようになってから、咲乃さんとの関係が強くなりすぎてるんじゃないかって。だから、どうしたら、理想の関係になれるのかと思って……」
「……そっかぁ。なるほどねぇ。ちなみにそれって、優希くんの中で本気で解決したいことなんだよね?」
「そうだな。俺は解決したいと思ってる」
「わたしの意見も聞いてもらいたいんだけど、ダメかな?」
「……聞くだけならまぁ」
「ありがと。……わたしはね?この関係は無くしたくないと思ってるし、なんなら心地いいとも思ってるよ」
「あぁ…」
「でも、優希くんがどうしてもいやなら、わたしは……」
「……」
その一言を聞いてしまったら、取り返しがつかないと思った。さっきまでこの関係のことを解決したいと思っていたのに、
「・・・優希くん?」
・・・あぁ、俺は咲乃さんにはかなわないや。
「ごめん、咲乃さん。」
「ん・・・優希くん・・・」
「俺、君とのこの関係、居心地がいいみたいだ」
「え・・・それって」
「だから、その、咲乃さんさえよければその・・・」
「うん」
「・・・これからも、よ、よろしく」
「もちろんだよ・・・こちらこそよろしくね、優希くん!」

あの日から、咲乃さんと友達になることができた。今までと特に変わったことはないけれど、毎日が変わって見える。
・・・俺は今でも考える。あの日の選択について・・・本当にあれでよかったのだろうかと・・・でも、後悔はしないだろう。だって、
「優希くん!おはよう」
「あぁ、おはよう」
咲乃さんとあいさつを交わすだけでも、よかったと思えるようになったから。俺は思った以上に咲乃さんにはかなわないみたいだ。
「そういえば、優希くん」
「ん?」
「わたし以外の人と友達にはならないの?」
「うん?なんで?」
「いや、考えが変わったからわたしと友達なんだよね?なら、ほかにも友達を・・・」
「・・・咲乃さんだからなんだけどな」
「ん~?何か言った?」
「なんでもないよ」
残念ながら、まだ咲乃さん以外には心を閉ざしたままだ。そう簡単に人は変われないということだろう。でも、きっと変われるはずだ。きっかけは咲乃さんだったけれど、咲乃さんのおかげで自分は変わることができたんだ。
「優希く~ん!おいてっちゃうよ~」
「あぁ、すぐ行くよ。咲乃さん」

・・・変われるといいな。彼女と一緒に。

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