均衡待遇_手当が不合理か否か

均衡待遇「不合理と認められるものであってはならない」の意味

正社員と有期雇用労働者(いわゆる契約社員)やパートタイム労働者(いわゆるパートやアルバイト)との間の賃金等労働条件にかかる待遇差については、労働契約期間の有無や、所定労働時間が短いということを理由として、不合理と認められるものであってはならない。これは、契約社員については現行労働契約法第20条で、パートについては現行パートタイム労働法第8条で規定されている。

先般の働き方改革関連法の成立により、労働契約法第20条は2021年3月末に条文が削除され、法律の通称名がパートタイム労働法からパートタイム・有期雇用労働法に改められたその第8条に纏められる。

労働契約法は純粋に民法の特別法で私法であり、労使間の契約上のトラブルを解決するときの規範となるものであるが、行政は民事不介入であるから、現行、契約社員に関する賃金等待遇にかかる契約期間があることを理由とする不合理な待遇差について、労働局が事業場を、不合理かどうかを調べたり、不合理な待遇差があった場合に指導をしたりといったことは、ない。

パートタイム労働者に関しては、パートタイム労働法は雇用均等三法のうちの一つであり、行政法だから、労働局が事業場を調査して、パートタイム労働者の賃金等の待遇について正社員と不合理な差がないかどうかを確認し、不合理な待遇差が認められる場合には、行政指導によりこの改善を図ることができる。

労働契約法第20条が削除され、パートタイム・有期雇用労働法第8条にまとめられるということは、契約社員の正社員との不合理な待遇差についても、行政指導の対象となることを意味する。

事業主にとっては、繁閑の差に応じて柔軟に労働力調整ができるパートや契約社員であるが、順法の精神に則るなら、正社員と契約社員やパートの賃金等の待遇について、均衡待遇であるから、①職務の内容、②職務の内容の変更の程度や配置の変更の程度、③その他の事情、以上の3つの要素に照らして、不合理と認められるような差を設けないよう配慮しなければならない。

待遇とは賃金にとどまらず、事業主が労働者との労働契約で労働者の権利として認めている福利厚生のすべてを指すものである。とは言うものの、正社員と契約社員やパートとの待遇差として顕著に表れるものはやはり賃金であろう。

もちろん均衡待遇であるから、先に挙げた3つの要素に照らして、不合理と認められるものでなければ、正社員と契約社員やパートとの賃金に差があったとしても法に違反することにはならない。

例えば、正社員と契約社員のそれぞれについて職務評価を行った結果、正社員の職務の内容を100とした場合に契約社員のそれが80だったとすると、正社員の賃金月額が20万円であれば、契約社員には20万円の80%の賃金月額16万円を支払っていれば、不合理と認められる待遇差は生じていないということになる。

では、上の例の場合に、契約社員に対して賃金月額15万円を支払っていた場合はどうだろうか。正社員と契約社員の職務の内容差が100:80であるにもかかわらず正社員の賃金月額20万円で契約社員の賃金月額15万とするのだから賃金差は正社員100に対して契約社員75という割合になる。ここだけを見ると、不合理と認められる待遇差があることになり、法律上不合理と認められる待遇差の部分については無効となる。

ところが、私は、場合によっては、正社員と契約社員の職務の内容差の割合が100:80のときに、賃金差の割合を100:75としたときであっても、不合理と認められる待遇差とはならない場合があるのではないかと考えている。

そのヒントは最高裁判例にある。

平成30年6月1日の、労働契約法第20条に関する労使トラブルについて、同法の解釈を示した最高裁判例である。いわゆる「ハマキョウレックス事件」と「長澤運輸事件」である。両者とも最高裁第二小法廷で判決されたものだが、「ハマキョウレックス事件」は同日午前中に、「長澤運輸事件」は同日午後に判決された。長澤運輸の判決では、ハマキョウレックスの判例が引用されていた。

まず、ハマキョウレックス事件の判決文の中で、「不合理と認められるもの」とは合理的ではないものと同義に解すべき、という主張に対して、「労働条件の相違が不合理と評価されるか否かを問題と」しているとして、「不合理と認められるもの」イコール「合理的ではないもの」ではないとしている。そして、「労働条件が均衡のとれたものであるか否かの判断に当たっては、労使間の交渉や使用者の経営判断を尊重すべき面があることも否定し難い」としている。また長澤運輸事件では「使用者は、雇用及び人事に関する経営判断の観点から、労働者の職務内容及び変更の範囲にとどまらない様々な事情を考慮して、労働者の賃金に関する労働条件を検討するもの」「労働者の賃金に関する労働条件の在り方については、基本的には、団体交渉等による労使自治に委ねられるべき部分が大きい」といえると判示している。

そうすると、一見、正社員と契約社員の職務の内容差の割合が、100:80のときに賃金差の割合が100:75で合理的ではない待遇差だったとしても、経営上の事情がある場合(例えば経営状態が芳しくないとか)に労使間で十分協議して(この場合の協議には、労働者には正社員だけではなく契約社員をも含めて協議をすべきである)至った合意もしくは労働協約の内容が、職務の内容差の割合が100:80に対する賃金差の割合が100:75であったとしても、その差は均衡待遇を判断する場合に、不合理と認められるものではないと言えるのではないか。

正社員と契約社員やパートとの間の不合理性の判断は規範的な評価であり、事実をどのように評価するかの問題である。事実から直ちに結論が導かれるものではない。





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