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企業理念2.0 実践編② 企業理念2.0メーカーをつくってみた

2012年11月18日発行 ロウドウジンVol.5 所収

 企業理念を象徴界から解き放つ──その方法はひとつだけではない。もうひとつの可能性として、「再帰性」と「インタラクティブ性」を取り入れた企業理念を提唱したい。

 企業理念は本質的には言語で表せない。しかしわれわれが人間である以上、言語を媒介するしかないのも真実だ。再帰性とは、自身がそれ自身を参照することである。再帰性により無限の入れ子構造がつくられ、レーザーのようにエネルギーが高密度に圧縮されていく。企業理念が再帰性を獲得するとき、企業理念は本当の企業理念に無限に漸近する。求められる本当の企業理念そのものではないが、それに匹敵する何かが生まれる。

 さらにインタラクティブ性を導入する。インタラクティブな企業理念とは、「あなた」との相互作用により変化していく、無意識/有意識の参加型企業理念だ。時代の変化に応じて企業理念を更新していくように、同一性さえ保っていれば企業理念はその瞬間瞬間にだけ存在すれば良い。歴史が過去の積み重ねであるように、瞬間瞬間で変化していく企業理念が多層的に重なり合って、ひとつの企業理念が「あなた」の脳内に結像する。いわば常に更新され続ける企業理念だ。

 再帰性とインタラクティブ性を兼ね備えた企業理念は、どのように実装されるのか? ここでウェブサービス「診断メーカー」を活用したい。診断メーカーとは「名前を入れたら結果が出るというおもしろ診断を誰でも簡単に作れるサイト」である。診断の作成者は「○○さんはAでBする」といった虫食い文章と、虫食い箇所に入る単語のリストを用意する。診断したいひとが名前を入力すると、診断メーカーのアルゴリズムに従って単語が選択され、結果が表示される。ここでベースにする文章は、企業理念に関する再帰的なものになっている。「あなた」の名前によって確率空間から拾い上げられる唯一解は、選択のアルゴリズムが日々変化していくことで、多層性が付与される。

 これまでの企業理念は支配階級による特権的なものだった。そこに診断メーカーが登場することで、誰もが簡単に企業理念2.0を生み出すことができる世界が到来したのだ。

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企業理念2.0メーカー presented by 反社会人サークル
http://shindanmaker.com/290982
◇診断結果テンプレート
 株式会社○の企業理念は『△ために☆企業理念を□×』です。
◇実際の診断結果例 ※診断結果はすべてジョークです。
・株式会社反社会人サークルの企業理念は『あなたの幸せを守るためにあの企業理念を名刺の隅っこに書き記す秘密結社』です。
・株式会社ソニーの企業理念は『反社会人サークルのために社会人としてあるまじき企業理念を宇宙人に伝える研究団体』です。
・株式会社日本の企業理念は『超人にシフトするために中学生レベルの企業理念を朝令暮改する企業』です。
・株式会社関東軍の企業理念は『毎日の快便のためにあの企業理念を耳元でそっとささやく会社』です。

おわりに

「理念が重要だ」「理念を示せ」……そんな言葉がよく聞かれる。しかし、どのような理念を考えればいいのか、ほとんど提示されてこなかったのではないだろうか。その理由はいくつかある。一つは、それが理念についての理念の議論となり、再帰教育を十分に受けていない民衆には理解できないものだったから、あまり語られなかったのではないだろうか。

 しかし、われわれはパーソナルコンピュータという新たな武器を得た。これにより、再帰が民衆にも理解されやすいものとなり、再帰性やインタラクティブ性を駆使した企業理念を生み出すことが可能になったのである。猿が火を手に入れたように、現代人は企業理念2.0メーカーを手に入れた(診断メーカーさん、ありがとうございます)。

 更に、会社法も変わった。資本金1円からの株式会社の設立が可能になり、これまで体制側だけに許されていた企業理念の作成が、誰にでもできるようになったのである。

 こうした理念の民主化の実現によって、われわれは旧来の企業理念の代替案を提出することができた。未来は闇に包まれている。そこに明かりを照らすものこそが、企業理念2.0である。船出の準備は整った。あとは時が満ちるのを待つだけだ。あの山の向こうから後期高齢父さんのシルエットが現れたとき、われわれ反社会人サークルはデスクワークで疲弊した重い腰をあげる。革命のときは近い……。みているかい? マルクスの亡霊たちよ。新たな世界の誕生である。

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