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これから現れるブロックチェーンゲームジャンルについて

まえがき

本記事は、幸いにも筆者がDJTにおいて、ゲームエコノミクス設計を司る立場(Chief Economist)として活動することで得られた様々な示唆や視点を基に執筆するものである。
DJTの中でも、特にDJT DAO(クローズドな個人的ニュースのシェアコミュニティ)には本当に多種多様の人々が在籍しており、日々刺激を頂いているため、DAOから生まれたDJTマガジンの第一弾として本記事を採用頂くことを大変光栄に感じている。

本記事は、日本のゲーム事業者に向けて、如何に「ソーシャルゲーム」というゲームジャンルがアジアを中心に広がったことが、これからブロックチェーンゲームに移行していく上で、実は恵まれたユーザー基盤となっているか、という視点を提供することを目的としている。

この記事が多くの国内ゲーム事業者の目に触れることで、後述にて予想するゲームジャンルが近い将来において一つでも多く国内から世界へと芽吹く姿を見られれば、筆者にとってそれに勝る喜びはないであろう。

①ゲーマーデモグラフィーデータ(2022):

世代定義について(2022時点):

本項では、抽象的な理解度を高めるため、USにて一般化された世代定義を使い、考察を進めたい。

世代定義:
ジェネレーションZ世代(GenZ):10~25歳
ミレニアル世代:26~41歳
ジェネレーションX世代(GenX):42歳~57歳
ソース元

その上で、USを中心とした世界のゲーマーデモグラフィックデータの中から、特筆すべきトレンドをご紹介したい。

  • 全世界には32億4千万人のゲーマーがいる。(!!!)

  • 平均的なゲーマーは35歳
    (ミレニアル世代がボリュームゾーン)

  • GenZ世代の77%がモバイルゲームをプレイしている。
    (ミレニアル世代:73%↓、GenX世代:54%↓↓)

  • GenZが最も新興エンタメ(ストリーミング、SNS、ゲーム)に可処分時間を割いている。

  • ゲーマーペルソナはミレニアル世代以降、一定の構成比で落ち着いた。

  • どの地域でもゲーマーの男女比は変わらなくなってきている。
    (女性比率: US46%、EU47%、等)

  • 女性ゲーマーのうち、週5日以上ゲームをプレイする人の割合は32%。男性よりも4%多い。 

  • また、女性ゲーマーでパズルが好きな人は33%だが、男性は20%にとどまる。

  • 一方、Esportsの観客の70%は男性である。

②ゲーマーデモグラフィー総論:

過去記事にて纏めたゲームジャンルの変遷や、上記ゲーマーデモグラフィックをかけ合わせると、モバイルゲームの地域認知の差について以下のような整理が明確となってくる。
(詳細は著者過去記事データサイトをご参照)

1. West(主にUSやEU)では、ソーシャルゲームユーザー層の形成が起きなかった。

モバイルゲームで人気のジャンルは、ハイパーカジュアルゲーム(パズルや農耕Sim系)が多い(≒女性やGenZ世代)
(誤解を恐れずに言えば)ソーシャルゲームは、彼らにとっては「回りくどいゲーム」であり、パチンコ需要は直接カジノゲームで満たしてしまうのである。

ソース元

筆者は、この各ゲーマー層(ハードコア層、ハイパーカジュアル層、パチンコ層)間における「交流の無さ」が、後述するWest市場におけるNFTやブロックチェーンゲームへの嫌悪感に繋がっているもの、と理解している。

2. East(主にアジア)では、ソーシャルゲームユーザー層が多い。

前記事でも触れたが、「パチンコ層」の取り込みに成功したことが、ソーシャルゲームの爆発的普及の源泉だと考える。
また、デモグラフィーに基づき仮説を深ぼると、可処分時間の多いGenZ世代や、これまでゲーマーではなかった女性層と、可処分時間は減ったが可処分所得が増加した元々ゲーマー出自のミレニアル世代の中央にソーシャルゲームが位置づくことで、双方の需要が満たされた(F2P vs. P2W)のではないか、と考えている。

これらの結果として、執筆時(2022年9月11日)現在も米国やドイツでは、セルランTopにソーシャルゲーム型のゲームは出てこないが、日中韓では上位のほとんどがソーシャルゲームである。

※カジノゲームはセールスランキングに反映されていない可能性が大きい
ソース元

3. Web3にて顕在化した「P2E」や「M2E」ジャンルへの反応

West市場:

Westでは、ソーシャルゲームの普及があまり進まなかった背景から、外部の経済要素をゲーム内のパワーバランスなどに紐づける仕組みに対して、依然として反発がつよい。

ケースとしては、UbisoftのNFTアイテム発表に対するユーザーの反応が代表的だが、Westゲーム業界では、NFTの実装に踏み切ったほぼすべての企業が、ファンからの大きな反発を経験している。
(例:Dead by DaylightのBehaviour Interactive、Stalker2のGSC Game World、WormsのTeam 17など)

※これは、Westのゲームに対する価値観(ゲーム≒競技)が、Eastのそれ(ゲーム≒エンタメ)とは大きく異なっていることも一因では?とも考えているが、本記事の趣旨とズレてしまうため、別の機会に触れたい。

筆者がWest系ゲームスタジオと議論する中でも、ユーザーに訴求する上で、「ブロックチェーン」が大きな障壁が存在することは顕著であり、彼らの多くは、商機を感じつつも、NFTやトークンエコノミーのゲームへの実装に、二の足を踏んでいるのが現状だ。

East市場:

一方のEastでは、ソーシャルゲームにより育(はぐく)まれたユーザー層は、新たに生まれたマネタイズモデルであるP2EやM2Eなどにも、いち早く適応し、結果として爆発的なヒットジャンルとして定着させた。
また、Eastにおいても多くの大手ゲームスタジオが、既にNFTの利用やブロックチェーンを活用したゲームの開発を発表しているが、Westのユーザーほどの明確且つ熾烈な批判的反応にさらされた、という話はほとんど耳に入ってこない。

筆者に言わせれば、これは決して偶然ではなく、デモグラフィックや文化的背景など、Eastの市場環境とWeb3ゲームの親和性が非常に高かった結果である、と考えている。

③「これから現れるゲームジャンル」とは?

非常に長い前置きをおいてしまったが、本項の本題に入りたいと思う。
筆者はこれまでに出てきた外部環境要因や、一ゲーム事業者としての業界内での様々なコミュニケーションを踏まえ、2023年早々にも各事業者による新たなゲームジャンル確立へのチャレンジが、各方向で同時多発的に発生すると考えている。

その中でも、筆者が注目する開発トレンドをいくつかご紹介したい。

1. Esportsエコシステムの拡張

仮説:

UGC大会スキームの標準化、ペイパービューや、スポーツベッティングなど、AAAスタジオの手掛けるゲームタイトルにおけるEsports周辺領域が拡張し、興行の主要プレイヤー(開発スタジオやトッププレーヤーなど)には、様々なマネタイズ機会が提供されるだろう

また、ブロックチェーン技術により、公正かつ永続的な環境に一歩近づくことにより、Esportsは従来のスポーツビジネスと同様かそれ以上のエコシステムを構築できるかもしれない。
※「スポーツビジネス」とは、NAICS(北米産業分類システム)やWikiによる記載に基づくと、以下の4カテゴリにて構成される産業である。

①スポーツ興行:
・プロフェッショナルおよびアマチュアスポーツチームの運営
・スポーツイベント、スポーツツーリズム関連事業 
②スポーツ製品:
・スポーツ用品の企画・製造・販売
・レクリエーションスポーツサービスの提供 
③スポーツプロモーション:
・スポーツメディア
・スポーツ振興のツールとしてのマーケティングサービスを提供 
④スポーツベッティング:
・コンテストの結果、またはコンテスト内のいくつかの側面に基づいて賭けを行う賭場

Esports産業では、①興行②製品④ベッティング周りのビジネス化がいまだ乏しく、それらがブロックチェーンの活用により解決され、AAAゲームタイトルがスポーツジャンルとして定着する未来を想像している。

2. ソーシャルゲームの進化系の誕生 / 
3. P2Eは本来のFunを探しに征く

仮説:

ソーシャルゲームのF2P層・P2W層を掛け合わせるマネタイズモデルから、徐々にオープンエコノミー型に移行する動きが進むだろう。
また同時に、P2Earn型BCゲームは、既にEarnに天秤が傾きすぎたため、一度ユーザーの認識をリセットするためにも、Fun要素への巻き戻しが起きるであろう。

この2ジャンルを一纏めに語る意図としては、「ガワ替え」により、既存のエコノミクスはそのままに、グラフィッククオリティを押し出したり、MMO/MOなどのソーシャル性を押し出す「P&E(Play and Earn)」「PFF(Play for Fun)」プロジェクトや、はたまた従来のソーシャルゲームにNFTやFTを後付けしていくゲームが更に増加する傾向が見られるためだ。

4. リアルのゲーム化とマスへの普及

仮説:

これまでゲームとは無縁であった層をインセンティブの力により取り込むメガヒット作品が生まれる可能性があるとすれば、恐らくこのジャンルであろう。

過去のX2Eプロジェクト達は、一定のインセンティブを設計すれば、人々に行動コスト(やりたくない行動の実行コスト)を支払わせることが可能であると、市場に教えてくれた。

ただし、それが「なに to Earn」になるかは、神のみぞ知る境地であるし、筆者はこれから生まれるであろう「それ」がゲームという体を成すか、すら疑問である。

5. ブランドコミュニティのゲーム化

仮説:

端的にはポイントカード経済に近い形をイメージしているが、NFT市場の勃興を通じて「ブランド」や「ブランドコミュニティ」という概念の再定義が行われはじめているように感じている。
ブランドについて筆者が門外漢のため、本記事では過度の言及は避けるが、物販やブランドイベントに参加・貢献するなど、リワードプログラムをゲーム化するようなブランドレイヤーのプレイヤーが現れるのでは、と期待している。

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