線香花火の思い出
小学生の頃、父が仕事帰りに線香花火を買ってきた。
父は線香花火を持って、私を近くの海岸に連れていった。
海に着くと、父は線香花火の袋を開けてその中の1本を取り出し、ライターで火をつけた。
その1本は典型的な線香花火の火花を散らした。
火が消える前に、父は次の1本に火を移した。
この1本も、これこそ線香花火だとでも言うべき火花を見せた。そしてそれが消えそうになると、また次の1本に火を移した。
父はこれを繰り返した。そして最後の1本になるまで一人で線香花火を輝かせ続けた。
私は1本も触れさせてもらなかった。
最後の1本が消えそうになると、父は火を自分の髪に移した。
父の髪は燃え始めた。火はすぐにTシャツに燃え移り、またたく間に父は火に包まれた。
父の燃え方は、人間が燃えるときの典型的なそれではなく、線香花火の燃え方だった。
線香花火になった父を私はぼんやり眺めていた。
父はパチパチと静かな火花を散らしていたが、そのうち線香花火のような最期を迎えた。
周囲には誰もいなかった。私はどうすればいいのか分からなかった。
仕方なく一人で家に帰ると、母が「あら、お父さんは?」と尋ねた。
私は、「線香花火」とだけ答えた。
それから30年が過ぎ、私は当時の父と同じ年齢になった。そして当時の私と同じ年齢の息子がいる。
夏のある日、私は帰宅途中で線香花火を買った。そして家に着くと、息子を海に誘った。
めかぶは飲み物です。