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罪の轍( 奥田英朗)を読んで


①登場人物

宇野寛治
赤井

落合昌夫
宮下大吉 係長
森拓朗 警部補
仁井薫 ニイカオル
沢野久雄 巡査部長
倉橋哲夫 巡査部長
岩村傑 スグル
町井ミキ子

②読後感

吉展ちゃん事件をモチーフにした小説である。


礼文島、昆布漁に従事、窃盗で食いつなぎ、子供たちから「莫迦 寛治」と呼ばれる北国訛りの若い男が、番屋に火をつけ、金品を奪って逃げる。そして1年後に東京オリンピック開催が近づく東京に降り立つ。
昭和38年東京、豆腐屋の幼な子 吉夫ちゃんが誘拐され、身代金を要求する電話がかかってくる。
過去、警察は、電話の逆探知をしたことが一度もなく、身代金の札番をとっていない、連絡の不徹底等度重なる不手際で身代金を奪われただけという失態をおこしてしまう。
報道協定、公開捜査、取り調べでの駆け引き、息詰まる展開に目が離せない。
警察の威信にかけ、幼児の早期救出を願い、執念の捜査が臨場感たっぷりに描かれている。
先が知りたくて、知りたくて、何の雑音も入ってこず、自分とその世界が一体化したようだった。
貧しいながら懸命に生きる山谷の人々が登場し、その時代を物語るように濃く色が添えられていき、事件と絡まり、胸に迫ってくる。
時代、世の中の理不尽に闘いながら、必死に生きてきた人たちがいた。
犯人の不幸な生い立ち、貧困、圧倒的な孤独が自分にのしかかり、容赦なく己の心に忍び込む。


高度経済成長期に乗りきれなかった、置いてきぼりになった人たち。貧困が、格差が、孤独が、この事件の背景にあった。
事件の結末はわかっているにもかかわらず、どうして、これほどまでに、貪るように我を忘れて読んでしまったのか。

587ページ、一気読み、中断することなんて不可能、長さを全く感じなかった筆力。

 
一度目、貪るように読んで、二度目、かみしめるように読んだ。

確かに、読んでいる瞬間は自分とその小説の世界だけの空間で、他のものが入り込む余地はなく、この時代の色に染まっていた。

小説の醍醐味をこれでもかと堪能する傑作小説、心の震えが止まらない。というのは言い過ぎか。さすが奥田英朗さん。

映画化されるのは間違いない と思う。

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